暗闇の中
「遅かったのね」
微かな足音に振り返れば、巨大な大砲を背負ったミィとそれに寄り添うルナ姉の姿があった。
古い遺跡で放置されてたそれをせっせと直して使えるようにしたのはついこの間のことだった。弾が問題で試し打ちも数回しかできず、持ち運べるのもミィだけと言う欠陥品ではあるけど、その威力はお墨付き。私たち三人が共有して知っている最大火力の大砲だった。
「ミィがもっと早く来てれば間に合ったかもしれないのに」
「だってだって、いっぱい。いーっぱい。危険だったんだよ!」
もし、これが常備されていたとしても戦力の足しにはならなかっただろう。威力はあっても速度が足りない。機械兵ならば発射されてから簡単に避けてしまう。
基本スペックを知っているからこそ、それを即座に理解する。でも、二人は知らない。双眼鏡などを使って遠くで作業する機械兵を見てはいても、戦闘する姿などは見たこともないのだ。
「それでも、早くしてほしかったわ。みんなが連れて行かれ、殺される姿を見たわたしの怒りを、ミィは理解できる? 見える範囲に居たのに何もできなかった無力さは言葉にできないわ」
「ミィだって。ミィだって急いだもん。頑張ったんだもん〜」
「泣かない。泣かない」
ズンッと大きな音を立てて溢れ落ちる大砲。それは自重に耐えられなかったのか地面に軽く埋め込まれる。
肩を震わせ、大声で泣き始めるミィは私に抱きついてきた。その頭を優しく撫でる。
ルナ姉の気持ちは分かる。だけど、それをぶつけるミィではない。
一番幼い彼女にだけ突きつけていいものではない。心に傷を負ったのは、みんな同じなのだ。
「ちょっと頭を冷やしてくるわ」
ルナ姉が去っていく。
様々な感情に精神が追いついていないのだろう。
私だって、私だってそうだ。
悔しさと悲しさと後悔で頭の中はぐちゃぐちゃだ。
いつも通りの日常。変わらない日々が明日も続いていくものだと思っていた。こんなあっけなく崩壊してしまうだなんて考えてもいなかった。
「でも、常にその危機はあったんだよね」
「
「魔物の襲来。森人や獣人の襲撃だって考えられた。機械兵だけじゃない。飢饉だってありえたし、災害で絶体絶命の危機に瀕することだってある。私たちの生活は、常に薄氷の上だった」
「それでも、何とかなってきたよ」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら私を見上げるミィの髪を撫でる。
そう。何とかなってきた。魔女様の力だけじゃない。村全体が一丸となってその危機に立ち向かってきたのだ。
それが根底から揺らいでいる。しっかりとしていたはずの足場が壊れている。
だからこそ、私たちはどうすればいいのか分からずに立ち尽くしている。
目の前の光景に涙することしかできないでいる。
「これから、どうしようか」
未来は真っ黒に染まってしまった。
光がどこにあるのか、今はーー見えない。
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