変わり果てた村

高台から見下ろせば、火の手が上がっていた。そこに入っていた物を私はよく知っている。今後のことを思うと胸が痛くなる。


「食料から燃やしてるのはさすがね。あそこをやられたら逃げた他の子も帰って来れない。捕まえたのは連行したのね」

「これから、どうなるんですか?」

「なるようにしかならないわ。討伐隊はワタシを逃がして捕獲。あるいは殺されたわ」

「じゃあ、ミィも······」


嫌な予感に体が震えた。

あの子は単身で戦いに望んだ。強者しかいなかった討伐隊が全滅したのであればその強さは計り知れない。いつも子猫のように弄ばれていたミィでは歯が立たないはずだ。


「大丈夫よ。あの子は無茶をしていない。それはワタシがちゃんと見たわ。今頃は足りない火力を求めてルナマールのところよ」

「ルナ姉も無事なの!」

「あの子は早々に気づいたみたいね。村に戻らずに秘密基地に行ったんじゃないかしら?」


確定はさせないが、魔女様の瞳は秘密基地のほうを向いている。魔女様にも隠していたはずなのにバレていたとは思わなかった。


「とりあえず、村の確認よ。あの二人も準備を整えたら来るでしょう」

「はい」


ポンッと軽い調子で崖を飛び降りる魔女様の真似なんてできずに道なりに村へと向かう。

嫌な臭いが鼻を刺激する。腕の中にいたシフィはこの臭いに耐えきれなかったのかすでに離れてしまっている。

燃えている家はすでに魔女様が鎮火させているが、熱気が残っていて中には入れない。近くの土にもその熱気は残っていて相当の火力で燃えていたのだと分かる。

村の中はガランとしていて人の気配はない。機械兵の姿もない。もう撤退が完了しているようである。


「おじさん!!」


走って辺りを確認していると、今日の昼に私を起こした犬のおじさんが上半身と下半身が分かれた状態で倒れていた。中身が地面に広がり、踏み荒らされた後もある。

吐きたい気持ちを抑えながらまだ息があればと顔を持ち上げるが、何も反応はしない。虚空を見つめる瞳には、焦点もなかった。

その瞳を閉じてから地面に寝かせる。


「戦った後があるわ。何人か応戦したみたいだけど、刃向かった者は殺されたみたい。それを見て、大人しくついて行ったんでしょうね」


冷静に、淡々と状況を話す魔女様。

怒りに震え、原因かもしれない事実に涙しそうな私は、ぐちゃぐちゃになった顔で魔女様を見上げた。


「私の、せい?」

「そんなことはないわ。狙われるのはどこも同じ。あなたは唯人の愚かさをよく知ってるでしょ?」

「あの、研究のこと?」

「そっ引きこもっていても。いえ、引きこもっているからこそ、どこまでも愚かになれるあの人たちがここを襲ったのは災害みたいなものよ。自分のせいだなんて思う必要はないわ」


あっけんからんに言い切る。

それは、魔女様も知っているからだ。どれだけ自分勝手で傲慢なことをしているのか。

結果が出れば素敵だろうけれど、その過程で捨て去られる全ての出来事を見ている私からしたら地獄としか形容できない。


「この村はもうダメね。一から頑張った物が踏みにじられるのは、いつ見ても慣れないわ」


ザッザッと音を立てて去っていく魔女様に何も言えずに俯いた。

これから私は、どうなってしまうのだろう。考えたくもない明日は、真後ろまで迫っているのだ。

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