機械兵
脳裏を過ぎった平和な時間。
目前に迫る機械の体をした意思なき兵士。人と似た姿をしているにも関わらず、そこには慈悲の心などない。
数体の機械兵が私を即座に取り囲んだ。両手を広げてここは立ち入り禁止だと示しているが、そんなものはこの機械兵たちには無意味であろう。
暗闇が世界を覆うが、僅かに発光する機械兵の体が闇を切り裂いている。
見つめ合いは数秒。
腕に装備されている巨大な剣が、天に向かって掲げあげられた。
あれは即座に私の命を両断するだろうと分かるも、目を逸らすことはなく睨みつける。
荒い息を吐くたびに高鳴る心臓。いっそひと思いにやれと感じるほどに長い時間。
『照合完了。
掲げられた剣が下ろされ、後ろに控えていた機械兵が私に向けて筒を突きつけた。
ヤバいと思考するよりも早く発射されたそれは網であり、瞬間的に逃げ出そうとした私を即座に絡めとった。
身動きが取れないままに草むらに入り込んだ私は必死にもがいた。動けば動く程に絡まる網から抜け出そうと必死になった。
連れて行かれた後に待ち受ける地獄が頭を駆け巡る。幼い頃に見たあの人たちの中に並ぶ自分を想像するだけで涙が止まらない。
ここで死ぬのならよかった。命を投げ捨ててでも守れたと言う事実が私を救ってくれる。だけど、連行されるのはダメだ。死にたくても死ねない。殺してと嘆願しても許されない最悪の所に行くことが分かっているのだから······
「助けて、お願い」
地面を強く掴む。爪に土が入り込んでくるのが分かる。掴んでいる土などお構いなしに巻き取られる網のせいで、体ら徐々に草むらから引っ張り出される。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
草を掴み、滑って指を斬る。痛みに苦悶の声が漏れるが、負けてはいられない。
機械兵と力比べなんて無意味なことだとしても、諦められなかった。
「私はーー」
『捕獲。完ーー』
ガッシリと強く掴まれた足に鋭い痛みが走る。
涙目で振り返れば、そこには腕しか残っていなかった。肩あたりから火花を散らして足にくっついたままの腕が異様に見えた。
「ひぃ」
なんで体がないのかと思ったら、真横に顔が転がってきて小さな悲鳴を上げてしまった。よくよく見れば、ズタボロになった機械兵が散乱している。
何が起こったのか分からずに網から抜け出そうともがく。
「何掴まってるの。気をつけなさい」
声が降ってきて、網を切り裂いた。
ハッとして見上げれば、闇の中なのによく目立つ黒色帽子がトレードマークの黒衣の魔女が呆れたようにこちらを見下ろしていた。
「魔女様!?」
「はいはい。魔女様ですよ」
パチンと指を鳴らせば、網が切れて足を掴んでいた腕がポロリと落ちた。
「シフィに感謝しなさい。ワタシをここに呼んだのはあの子よ」
『
「シフィ」
魔女様の懐から飛んでくるシフィを抱きとめる。
光の粉を目元から飛ばして泣いているようなシフィの頭を優しく撫でる。
「さっまだやることあるわ。行くわよ」
魔女様が歩いていく。
その後ろを着いていく。まだ、解決したわけではないのだ。
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