仇なす者
「もー無理!!」
日が傾くまで一生懸命に畑を耕して、予定の三分の一まで作業を進めた私は竹筒に入れてる水を頭から被って鍬を投げ捨てた。
離れた位置で作業してるミィが一瞬だけ視線を向けるが、作業の手を止める様子はない。黙々と土をひっくり返している。
しばらくしたらここら辺は真っ暗になるから作業を切り上げないと危ない。ルナ姉に終了をお願いしようと投げ捨てた鍬を引きずって休んでいる位置まで移動する。
「まだ終わってないのに何してるの?」
シフィを膝枕しながら経過を眺めるだけのルナ姉。その手には似つかわしくない傷がいくつかできていた。
やる意思はあり、作業はしていたのだろうけど本当に向いてなかったのだろう。下手に責められないけど、それを見越して怪我したなら作戦勝ちである。
「暗くなったら危ないから今日は終わらないと」
「はぁ作業の半分も終わってないのに何言ってるの? やりたい実験ができないでしょ」
「どうせ時間はいっぱいあるんだから明日にしよう。ね?」
そう。私たちには時間がある。遥か昔の人たちは時間に追われ、必死になって人生を過ごしていたと聞く。仕事に、お金に、人間関係。厄介事を抱えてストレスを溜めていたそうだが、この村はそんなことで追ってくる人はいない。
少しの喧嘩やいざこざはあれど、共通点が私たちを繋いでくれる。本当なら、今日の作業だってもっと人が来るはずだったのだ。
昨日、魔女様が「なんか嫌な気配がする」と何人か引き連れて出ていってしまったのでやることが他のところに分担されて人が集められなかったに過ぎない。
「そうね。終わらせて魔女様をビックリさせようと思ったけど、無理は禁物ね。ミィ呼んできて。帰ってご飯にするわよ。わたしは先に帰るからこの子も帰しといて」
「はいはい」
膝枕で寝ているシフィを受け取ると、ルナ姉はさっさと帰ってしまう。
ミィを呼ぼうと踵を返す。
ドンッと、大きな音がしたのはその時だった。
音の出処は遠い。ハッとそっちの方向に視線を投げれば暗くなりゆく空を黒煙が覆っていた。
「ミィ!!」
「
「危ないから! 一緒にーー」
私の言葉を待たずにスコップ片手に駆けて行ってしまう。あーもう。と言葉を投げ捨てて村に向けて走る。
緊急事態であることを村のみんなに知らせないといけない。あの爆音を聞いてなんかしらの準備はしていると思うけれど、していない場合が怖い。
相手の情報をミィが早めに持ってきてくれたらいいけど、無理なことをしていたらと考えると心が痛む。
『んにゅ何かあった〜?』
「のんびり妖精はようやくお目覚め? さっきの爆音も聞こえてない?」
『爆音? それは分からないけど、嫌な気配が近づいてる』
「魔物以外。かな」
『うん。多分、機械兵』
「
同じ種族の人が攻めてきたのかと思うと気が重い。中に何も入っていない機械の兵士である機械兵だけど、その目的が邪なものであればその意思は
「安全に逃げられる?」
『一人じゃ無理。妖精の道が塞がれてる。もしかして、あたしが標的かも?』
「ああもう!!」
じゃあ一緒に逃げるしかない。
訳ありしかいないこの村なら、何とか守れるはず。
全力で走って息を切らしながら村が一望できる丘まで来た。
先に帰ったルナ姉と合流できなかったのは惜しいけど、ここまで来ればすぐだ。
だけど、飛び込んできた光景は救いとは真逆のものであった。
「嘘。こんな······」
みんなが機械兵に捕まっている。広場に集められている中にはルナ姉の姿は見えないが、村に残っていたほとんどが集められているようであった。
統率の取れた動きで村を見て回っている。こちらに来ていないのは、反対側からの襲撃に合わせるためだろう。
「くっ」
私は、山の方へと駆けていく。
ここで出ていったところで何かできるわけでもない。人質が一人増えるだけなら無事であることに賭けるしかない。チラリと後ろを確認すれば、ミィが向かった方からも機械兵がやって来ていた。
みんな。無事でいて!
縋るように祈りながら、暗くなる山に足を踏み入れたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます