魔女の村
世界は平和だ。
草むらに寝っ転がって空を見れば、雲が自由に形を変えながら遊んでいる。肌を撫でる風も優しく。日差しはポカポカ。大の字で寝ているとそのまま夢の中へと飛び立ってしまいそうだ。
「そんなところに隠れてないで手伝え〜」
「はーい」
私の体を完全に隠していたはずの草むらから顔を出す。
そこに立っている男性の顔は一昔前にいたとされる犬と同じである。今は見ることがなくなったけれど、昔はペットとして色々は所にいたらしいと魔女様から習っている。
写真で見た顔とそっくりなおじさんは肩に乗せた鍬でこちらを指した。
「隠れてもオイの鼻からは逃れられんからな。ちゃんとやらないなら晩御飯ないと思え」
「やります。やります!!」
近くに転がっていた竹筒を手に走り出す。
隣を通れば、やれやれと言うように息を吐いていた。
ちょっと休憩のつもりだったのに。
作業予定の畑に着くと、私よりも一回り小さい女の子が駆け寄ってくる。その手には似合わないほどしっかりとしたスコップ。重そうに見えるのに軽々と持っていた。
「もう。
「ごめんね。ミィ。草むら見つけて。寝転んだら気持ちよさそうだなって思ったら寝っ転がってた」
「もう!」
頬を膨らませる猫耳の少女。見た目は私とそんなに変わらないけど、猫耳に尻尾。頬にぴょんと伸びたヒゲを生やしている。
名前はミリアム。みんなも本人もミィと呼ぶ元気いっぱいの女の子。
彼女の後ろには耕されていない広大な土地が広がっている。一割くらいは土がひっくり返されてるけど、手付かずと言って差し支えないレベルだ。
「ここを三人で開墾するんでしょ。ちゃんとしないと今日中に耕せないよ!」
「自分の畑が欲しいって言ったのルナ姉だけどね」
「そのルナお姉ちゃんが使い物にならないんだよ?」
視線を木陰に向ける。
ミィと同じくらいの背丈しかない少女がこちらを睨んでいる。
肩で切り揃えた短髪が揺れる度に、長く伸びた耳が目立つ。翠色の瞳は宝石のようであるが、当人はそれを嫌っている。自分の種族の特色を、彼女は強く嫌悪しているのだ。
「
「なら、ルナ姉もそこから出て手伝ってよ」
「嫌よ。わたしは体力作業に向いてないの。この細腕を見なさいな」
「弓が使えるだけの筋力はあるくせに」
「それはそれ。これはこれよ」
屁理屈をこねるのは、年齢だけなら私たちより一回り上のルナマール。通称ルナ姉。見た目はミィと変わらないのに歳だけを重ねている······らしい。
詳しくは話してくれないから分からないのだ。ただ、年齢に関しては誕生日に魔女様が盛大に発表するので詐称のしようがなかったりする。
仕方ないなぁと近くに放置していた鍬を持ち上げると畑(仮)に入っていく。
『隙あり!!』
「っ!?」
入った瞬間。小さな何かに高速で体当たりされて土に倒れる。ひっくり返されて柔らかくなった土に手首が埋まるほどの衝撃に目を白黒とさせる。
「ちょっと。危ないでしょ!」
「ごっごめんなさい」
放り投げてしまった鍬がルナ姉の近くに落ちたようで怒声が上がる。
土から手を抜き、私に体当たりしてきてお腹に抱きついている張本人をがっしりと掴んだ。
「シ〜フィ〜」
『汚れた手で触るなぁ』
自由を愛する妖精シフィ。イタズラ好きな彼女のせいで貧乏くじを引かされることは何度もある。
それを見ていたミィが笑いだし、それに呼応するようにみんなで笑う。
ここは魔女が治める。平和な村。
私たちは、この平和がずっと続くのだと。そう考えていた。
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