陥落した平和
「なんで、なんで、なんで!!」
叫びながら走る。山の中を必死に駆けていく。道無き道を走っているせいで体には擦り傷があちこちにできている。それでも、走るしかなかった。振り返った先にある村の光景を目に入れたくなかった。
「あっ、きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
足元の確認が疎かになっていた。踏めもしない空を二歩ほど踏みしめてから地面を落ちていく。
坂道を転がるように落ちていき、止まったところで「はぁはぁはぁ」と肩で荒く息をする。
体中から血が出ている。その赤色を見ながら瞳に溢れる涙を拭った。
空を見上げれば、夜なのに真っ黒な煙が確認できた。かなり離れたはずなのに、坂道を降ったはずなのに、まだ見えていることが苦しかった。鼻に入ってくる焼けた臭いに体が震える。脳裏に浮かぶ大切な人たち。その人たちが置かれているかもしれない境遇を思うと心臓が締め付けられるように痛む。
ここまで全力で走った。脇目も振らず、必死に走った。
たった一つを守るためにここまで頑張った。他をかなぐり捨ててでも守らないといけないその子は、服の中からするりと出てきた。
『立ち止まらないで。逃げるわよ!』
後悔に押し潰されそうになる私の服を引っ張る手のひらサイズの女の子。六枚の羽を動かして飛んでいるその子は妖精と呼ばれる種族の子。
彼女を守る。彼女と逃げる。
私に残された道はそれだけだった。
涙を腕で乱暴に拭い、立ち上がって走ろうと足に力を入れるが、前に倒れる。
小刻みに揺れる足に上手く力が入っていかない。冷静になったせいなのか体のあちこちで痛みが悲鳴を上げている。
逃げないと。痛い。苦しい。怖い。
綯い交ぜになった感情が、体をここに縛り付ける。
「ごめん。ごめんね」
早く。早くと腕に力を込める。露出した根っこを支えにして体を起こした。
耳に、機械の駆動音が届く。
顔を上げれば、燃え上がる森の中に立つ人型の機械。無機質な視線が私に届いた。
村を襲った巨大な機械から排出されたそれらは、瞬く間に村を制圧した。ゴツイ見た目とは裏腹に素早い動きで統率の取れたその機械のことを私はよく知っている。
簡単に逃がしてくれる相手でないこともーー
「うっぐすっ」
体は動いてくれない。本能的に刻まれた恐怖が、視線をそれに固定させる。
『ああ。もう!!』
声にチラリと視線を向ければ、妖精は私を見捨てて森の奥へと飛んでいく。
「まーーううん」
それでいい。お荷物な私は見捨てて貰ったほうがいい。
両手を横に広げ、これ以上先へは行かせないと体で示す。
ゆっくりとした動きで近づいてくるロボット。
なんで、こうなったのだろう?
残された時間。私は必死に思い出していた。
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