第365話 みんなの事務所
次の日の朝、ゆっくりと眠った私は、昨日の会場に行って遅めの朝食を摂りに行く。遅めといっても、昨日、一昨日と続いて、夜明け前から起きて朝食を取っていたので、今朝の八時は平日と比べると少し遅いぐらいだ。
「レイチェル、おはよう、昨日はよく眠れたかい?」
先に朝食を摂りに来ていたオードリーが挨拶をしてくる。
「おはよう、オードリー、よく眠れたわ。貴方は早いのね」
「あぁ、昨日あれだけ食べたのだけれど、朝になったらお腹が空いていてね、早めに来たんだよ」
そうオードリーの朝食のトレイには朝食にしては多めの食事が盛られていた。ん?
「もしかして、それ…ローストビーフ?」
私はオードリーのトレイに盛られた料理の中にローストビーフを発見する。
「あぁ、昨日の残りがまだあるようで、あそこにまだ残っているよ」
そう言って、オードリーが指差す。ビュッフェスタイルの朝食の中には、ローストビーフ、チーズフォンデュ、寿司も板前さんごと…昨日の料理がまだあった。
「あら、レイチェル、おはよう」
そこへテレジアが、チーズたっぷりの朝食を持って現れる。
「テレジア、おはよう、テレジアは本当にチーズが好きなのね…でも、朝からは重くない?」
「うふふっ、チーズは入る場所が違うのよ」
そういってご機嫌で微笑む。入る場所が違うとは…胸か?
「私も、料理をとって来るわ」
私は二人にそう告げると、料理の並べられた場所へ向かう。私はトレイを持ってルンルン気分で並べられた料理を見ていく。
「レイチェルさん、おはよ~」
「おはよう、レイチェル」
背中から声が掛かり振り返ってみると、眠たそうな顔をしてるミーシャと、いつも通りの顔をしたコロンの姿があった。
「おはよう、二人とも、ミーシャはまだ眠そうね」
「ここしばらく、夜が遅かったですけど、普段は9時ぐらいには寝ていますからね」
9時!? そんなお子様タイムで寝ていたのか…それなのに育っていないのは、やはり遺伝の為だろうか…
「そういえば、レイチェル、昨日はちゃんとお寿司は食べられたの?」
「えぇ、思った以上に本格的なお寿司で美味しかったわ、今朝も頂こうと思っているのよ」
「あら、そうなの? 私は昨日、お寿司を忘れていたから食べそこなったのよ、私もお寿司にしようかしら?」
私は並んだ料理の中から、ローストビーフ等の食べたいものを少しだけ選んで、昨日の板前さんの所へ向かう。
「あっ、おはようございます、昨日のお嬢さんですね」
「おはようございます、昨日のお寿司は美味しかったわ、今日もいただけるかしら?」
「今日は海鮮丼ですが、よろしいですか?」
「海鮮丼…」
私はゴクリと唾を呑み込む。朝からそんな豪華なものを頂いても良いのだろうか…いや、良い(反語)
「では、海鮮丼を頂けますか?」
「私もお願いするわ」
私とコロンと二人で海鮮丼を注文する。トロやいくら、うににイカとたこ、その上に刻んんだ海苔とねぎをまぶした海鮮丼がすぐさま用意される。
「あら、レイチェルがいっていたお寿司の形とは違うのね」
コロンが海鮮丼をながらめながら、口を開く。
「えぇ、これは海鮮丼っていうのよ、こちらも美味しいから試してみて」
海鮮丼とお茶、お吸い物までうけとった私たちはオードリーたちのいる席へと向かう。その途中、眠そうに瞼を擦りながらやってくるマルティナに出会う。
「二人ともおはよ~」
「おはよう、マルティナ、まだ、眠そうね」
「マルティナ、おはよう」
マルティナは挨拶を交わした後、私たちのトレイの上に乗っているモノをみて目を見開き、もう一度、瞼を擦った後、海鮮丼をマジマジと見る。
「それ、もしかして海鮮丼!? そんなものがあるの!?」
「えぇ、昨日の板前さんがまだいるから作ってくれたのよ」
「しかも、ローストビーフまである…レイチェル、ローストビーフ海鮮丼をするつもりなのね? 何て贅沢な…」
「いや、ローストビーフは単にあったからとっただけだけど…確かにローストビーフ海鮮丼もいいわね…」
「私もローストビーフ海鮮丼を食べる!」
マルティナは声をあげると、トレイを掴んで、料理のコーナーへと向かう。
「朝から元気ね…」
コロンがポツリと呟き、私たちはオードリーたちと一緒のテーブルについた。
「お帰り、コロン、レイチェル。うわぁ…それは生魚?」
オードリーは海鮮丼を見て、少し眉を顰める。内陸部の帝都育ちのオードリーは生魚を食べた事がないのであろう。しかし、これが帝都に住む人の普通の反応だ。
「あっ、やはり、レイチェルさんも生魚を召し上がるんですね、お爺様もたまに召し上がっていましたから、転生者の方はお好きなんですね」
テレジアはカイさんの事もあって、慣れている様だ。
「ただいまぁ~」
そこへミーシャも帰ってくる。そのトレイの上には、ケーキやフルーツ等のデザートだけが乗せられている。
「ミーシャも凄い朝食だね…」
「私、甘い物だったら、朝でも、いくらでもはいるんですよ」
甘いだけなら、私でも大丈夫だが、流石に生クリームたっぷりの朝食は重そうだ…
「おまたせ、みんな!」
そこへマルティナも海鮮丼とローストビーフを持って現れる。
「マルティナ、おはよう、君の生魚の朝食なんだね…」
「えっ? オードリーは食べた事無いの? 中が半生のローストビーフは食べられるのに?」
「た、確かに、そうだね…私も今度挑戦してみるよ」
そう言って、オードリーはローストビーフを見る。
「それでは頂きましょうか」
コロンが声をあげた所で、皆で朝食を食べ始める。
「あぁ~しかし、ここでの食事や生活もこれで終わりなのね…」
マルティナは、ここでの最後の食事をしみじみと味わいながら、海鮮丼を口に入れる。
「別に今回の合宿が終わってもいつでも遊びに来ればいいじゃなの?」
コロンはスプーンで海鮮丼をすくいながら答える。
「いや、普通との時に来るのは、また別と言うか、ただ、遊びに来るってのも行き辛いし…」
「あら、そうなの? 私の家はいつも誰か来客がいるから、そんな事は思わないけど… 皆もそうなの? 気を使って落ち着かない方なの?」
コロンは念のために皆にも尋ねる。
「私は、家出した時にマルティナの所にお世話になったから、あまり人の家とかに気は使わないね」
オードリーが答える。
「私の場合は、お爺様を一人にするのが心配ですね」
テレジアが答える。
「私は、お父様が心配するので、あまり、外でお泊りは出来ませんね、というか、お父様なしでのお泊りは今回が初めてなんですよっ」
ミーシャが答える。
「私は… いつもマルティナが部屋にいるから、他人がいるのは大丈夫だけど、慣れるまでは気を遣うかしら?」
コロンは全員の意見を聞いて、うーんと考える。
「そうね…在学中に何か集まりが必要な場合は、マルティナの所に集まれば良いけど… 問題は卒業後…いや、卒業前の在学中から準備した方がいいかしら?」
「準備をするって何を?」
私が声を掛けると、コロンが顔をあげて私を見る。
「皆の気兼ねなく集まれる場所と言うか…マルティナの芸能事務所ね」
「会社を設立するってことかい?」
コロンの言葉にオードリーも声をあげる。
「えぇ、今後、マルティナの活動をするうえで、事務所を構えておいた方が良いでしょ? 学園のマルティナの家だって、卒業すれば使えなくなるのだし、学園の施設だってそう、それなら、今から準備した方がいいのではないかしら?」
「確かにその方が今後動きやすいかも知れないね、私たちだけでは手に余る状況になりそうだし、今から人を雇うのも良いかも」
コロンの言葉に自分の考えを告げる。
「そうね、私も事業と学園の事で手が回らなくなりそうだから、人の雇うのも良いわね、それなら尚更、事務所は必要ね」
「できれば、その事務所に皆の寛げる場所を作ってくれたら、嬉しいんだけど」
マルティナはお茶を飲みながらそう言った。
「では、後で、皆の希望を教えてもらえるかしら」
コロンが満面の笑みで皆に告げた。
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