第361話 令嬢達の小話
オードリーとミーシャが、オリオスとエリシオに、数多くの衆目の中、婚約破棄を言い渡した後、二人は憲兵たちに引きずられて、法務局へと護送されていった。
ここまでの事を皆に見られてしまった状態なら、学園を除籍にならずとも、既に彼らと交友を結ぼうと思うまともな人物はいないであろう。もはや、貴族としては致命傷…いや、死亡と等しい。
そんなオリオスとエリシオが護送されていくところを見送ると、私たちはロラード家に戻って来ていた。すぐにパーティーが開催されると思っていたが、まだ時間が早い様で、皆の家族たちは、本日宿泊する部屋に案内されており、私たちは、着替えを済ませて、いつもの会議室で軽いお茶会をしていた。
「あぁ~ イベントの成功もよかったけど、アイツらが落ちぶれていく様は、胸がすっとしていくわね」
マルティナが、ソファーに身体を預けて、満面の笑みでそう話す。
「マルティナさんが、カイレルと婚約破棄をした時に、物凄い嬉しそうな顔をなさっていて、いくら何でもその顔はと思いましたけど、私もエリシオと婚約破棄をしたら、その気持ちがよくわかりましたよ、なんて言うか、心の重石が外れて、ふわっと身体が軽くなって、舞い上がってしまいそうです」
ミーシャもマルティナの様に満面の笑みを浮かべている。
「私は間一髪といった所かな… 今回の件を知らなければ、普通にそのまま結婚して、父上と母上と同じ失敗をしていたかもしれないよ」
オードリーは難を逃れたといった感じで、ほっとしている。
「テレジア以外、私を含めて全員婚約破棄になったと言う訳ね…」
コロンが皆を見渡してそう口にする。その言葉にテレジアが少し申し訳なさそうな顔をする。
「テレジア、別に気にすることは無いのですよ、貴方の様に良好になるのが普通で、私たちの様に揃いも揃って婚約破棄になる方が異常なのですから」
コロンがテレジアの表情に気が付いて、気遣いの言葉を笑って掛ける。
「しかし、ものの見事に私たちは、婚約相手のいない、独り身の女になってしまったね」
オードリーが自嘲気味に笑う。
「あ~もう~、身近の男とちゃちゃっと婚約しちゃう?」
「手短の男性と言うと、私の兄弟のカルヴィンお兄様、クリフォードお兄様、弟のウォーレンと後はミーシャの所のミハイル君かしら?」
マルティナの軽口をコロンがまともに答える。
「そうなると、私やマルティナ、オードリーがカルヴィンさん、クリフォードさん、ウォーレン君と結婚して、コロンさんはミハイルと結婚することになりますね」
「そういえば、ミーシャ、ミハイル君は?」
「あぁ、ミハイルなら、魔力の使い過ぎで気を失ってましたよ、我が弟ながら情けない」
ミーシャは自分の弟には容赦がない。
「そういってやらずに、労わってあげて、デビドも魔力の使い過ぎで、時々、透けて消えかかっているから」
「コロン、前から思っていたんですが、デビドって人間なのですか?」
「さぁ? 私の中ではデビドはデビドっていう認識だから、あまり深く考えたことがないですわ」
コロンは私の言葉にサラリと答える。有能であれば人間でなくても気にしないということなのであろうか?
「しかし、話は戻るけど、コロンの兄弟とミーシャの所のミハイル君と私たちが結婚するという事は、みんな義理の姉妹になるという事か…」
「あっ… そうなると私だけ姉妹に成れないのですね…」
オードリーの言葉にテレジアは顔を曇らせた。
「いや、テレジアの婚約相手のウルグは、前世は私の兄だから、ちゃんと姉妹になれるわよ」
テレジアはマルティナの言葉にほっとする。
「ごめんなさい、さっきの話に私も混じって無かったのだけど…」
そういって、私は手をあげる。
「あー レイチェルはほら…その…もういるでしょ?」
「えっと、そうそう、レイチェルは姉妹以上の私の心の友だし…」
コロンとマルティナが曖昧な返事を返してくる。
「レイチェルの場合は私の所と弟妹同士で繋がるから大丈夫だよ」
オードリーがにこやかに声を掛けてくる。
「弟妹同士って…うちのロータルとユーミちゃんの事?」
「じゃあ、ロッテちゃんはうちのアーロンに貰おうかなぁ~ これで、仲間はずれにはならないのでしょ?」
そう言ってマルティナは私に笑顔を向ける。
「いや、確かにそれはそうなのだけれど、そもそも、私自身の…」
そう言いかけた所で、部屋の扉がノックされる。
「済まないが、入るぞ」
「ディーバ先生!?」
扉から現れたのは、まだ顔色が良くないディーバ先生であった。まだ、足元が少しふらついているようなので、私はすぐに立ち上がって、先生に肩を貸しに行く。
「ディーバ先生、大丈夫ですか? 兎に角、腰を降ろしてください」
「済まないな、レイチェル君」
私は先生に肩を貸しながら、ソファーの所まで先生を連れて行き、腰を降ろしてもらう。
「ところで、ディーバ先生、どうしてこちらにいらっしゃったのですか?」
「あぁ、やはり横になっているだけでは中々回復しないのでな、あの特製ドリンクとやらをもう一度貰えないかと…」
最初、口にした時は、あれほど、不味そうな顔をなさっていたのに、その特製ドリンクに頼らないと行けないほど、疲労なさっているのか…
「ディーバ先生、すみませんが、もう特製ドリンクは御座いませんの…普通の回復剤なら三本御座いますので、お腹が膨れてしまいますが、三本飲まれますか?」
「いや、私は一本で良い、一本あれば今宵のパーティーは乗り切れるであろう、残りは輪たち共に魔力供給をしていた、デビドとミハイルに渡してやってくれ」
「分かりましたわ、すぐにご用意いたします」
コロンはそう言うと、ティーセットの置いてある戸棚から、回復剤を取り出して、先生に差し出す。
「済まないな、早速頂くとしよう」
先生はそう言うと一気に回復剤をあおる。
「ふぅ、これで今夜は何とかなりそうだな…」
「お口直しにお茶をいれましょうか?」
「いや、大丈夫だ、それでは、私は回復したところで、夜会の準備をしてくる。また、後で会おう」
ディーバ先生はそう言うと部屋を立ち去った。
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