第360話 オードリーとミーシャの婚約破棄

 ディーバ先生の合わせると言う言葉に、先程まで青い顔をしていた二人の顔が、勝ち誇った顔に変わっていく。


「ようやく、我らが公爵家の権威の恐ろしさが分かって、理解したようだな!」


「最初から、私たちの言った通りにすれば良かったのよ!」


 そう言って、ディーバ先生を嘲り笑う二人を、ディーバ先生は、怒れる氷のような眼差しで見ていた。


「まだ、何か勘違いなさっている様ですな… 私は会えるとは言ったが二人を解放するとは言っていない…」


 嘲り笑っていた二人の顔が固まる。


「本格的な尋問を行うために、法務局に護送するに当たって、護送する馬車に乗せるまでの僅かな間にその姿を見れるだけのことだ」


「なっ!」


 二人は驚いて短い声をあげる。


「恐らく法務局に行き尋問を受けたうえで、法廷での裁判を経れば、そのまま牢に繋がれるかもしれんな… この機会を逃せば、再び会うのは数年後になるであろう… まぁ、保釈金を払えば、刑が確定されるまで軟禁ですむか、執行猶予がもたらされるかもしれんが、公爵家…それも嫡子となると膨大な金額となるな…」


 二人の顔色は血が引いて再び青くなり、何も言葉が言い出せず、ただ、酸欠の魚の様にパクパクと口を開閉しているだけだ。


 私は、ディーバ先生の話を聞いて、ある事が思い浮かび、ディーバ先生に耳打ちをする。


「ディーバ先生、ちょっと、いいですか?」


「なんだ? レイチェル君」


「あの…………」


 私は先生の耳に、私の思う所を色々呟いていく。


「あぁ、なるほど、それは、重要な事だな、今、この場でやってしまった方が早いし、条件としても有効だ」


 先程まで怒りの表情を見せていたディーバ先生は、私の提案で口角をあげる。

 

「では、二人を呼んでも?」


「構わない、呼びなさい」


 私はディーバ先生に承諾が取れた所で、野次馬の人だかりに目を向けて、オードリーとミーシャを探し出す。


「あっ、いた! オードリー! ミーシャ! こっち来て!」


 二人を見つけた私は、手招きして声をあげる。


 私に名前を呼ばれた二人は、キョトンとした顔をして、自分自身を指差す。それに私が頷いて答えると、判然としない表情でこちらにやってくる。


「レイチェル、私に何のようなんだ?」


「私も何の用事があるのでしょうか?」


 オードリーとミーシャが私とディーバ先生の所へやってくると、二人の姿を見つけた、ノートンとレイホウの二人が、オードリーとミーシャに向かって声を荒げだす。


「オ、オードリー嬢!? な、なんでこんな所に来ているんだ!?」


「ミーシャ! 貴方も何故ここに!? 貴方は関係ないのだから、早く家にでも帰りなさい!!」


 二人は声をあげるが、特にレイホウはすでに意地悪な姑状態だ。


「いや、二人は十分関係者だ。婚約者なのだからな!」


 そんなノートンとレイホウに向かってディーバ先生が声をあげる。


「さて、オードリー君にミーシャ君、君達は、オリオスとエリシオの婚約者だそうだな」


 ディーバ先生が尋ねると、二人は苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら頷く。


「では、今からオリオスとエリシオの二人が、学園内で非合法な薬物を使った公序良俗に反する催しを主催者として開催した事により、これより法務局に護送される事となる。その護送車に乗せるまでの間、二人に会う事が出来るが、その間に二人は為すべきことをしなさい。意味は分かるな?」


 ディーバ先生の言葉を聞いた二人は、突然の想像を絶する話に、理解が及ばず呆然としていたが、やがて、先生の意図を理解して、決意に満ちた顔で大きく頷く。


 そこに大講堂の中が騒がしくなり始める。オリオスとエリシオの悪あがきの声が響いてきたのだ。


「放せ!!! 放せよ!! 俺を誰だと思ってるんだ!! 公爵家の嫡男だぞ!!!」


「お前の顔、憶えたから…後で絶対後悔させてやるからよ!!」


 そんな叫び声を上げながら、両腕を後ろ手に縛られたオリオスとエリシオが、憲兵に連れられて大講堂の入口に姿を現す。


「オリオスゥ!!!」


 ノートンがそのオリオスの姿を見て、声をあげる。


「まぁ!! 私のエリシオちゃんが!!」


 レイホウもエリシオの姿を見て、とんでもない残酷シーンでも見たかのように悲壮な声をあげる。


 二人の声に気が付いたオリオスとエリシオは、助けを求めて声をあげる。


「父さん!! こいつら何とかしてよ!! 俺を犯罪者扱いしやがるんだ!!」


「ママ!! 早く助けてよ!!」


 オリオスとエリシオの二人はノートンとレイホウの元へ駆け寄ろうとするが、憲兵ががっちりと縄で引き戻し、ノートンとレイホウの二人の方は憲兵が出て来て二人の間に立ち塞がる。


 しかし…エリシオちゃんにママって…なんなんだ、この親子は…


「父さん!! こいつら、俺達が違法な薬物を使って、違法なパーティーをしたっていうんだよ!! 濡れ衣なんだ!! 助けてよ!!」


「ママ、俺もそんな言いがかりを付けられているんだ! すぐに介抱してよ!!」


 さらに二人は助けを求める。


「今更、そんな言い訳と出まかせをついても無駄だぞ。証拠は揃っているし、例え、部下が勝手に行ったとしても、最終的な責任は主催者に帰結するので変わらないがな…それより、お前たち二人に物申したい人物がいる」


 そう言って、ディーバ先生は視線をオードリーとミーシャに促す。


「げっ! オードリー!? なんで来てんだよ!?」


「おこちゃまのお前は、さっさと家に帰れよ!」


 オードリーとミーシャの姿を見た二人は、相変わらずいつも通りの暴言を吐く。しかし、以前のオードリーとミーシャであれば、そこで顔を伏せて押し黙ってしまう所であるが、決意を固めた卿の二人は視線を逸らさずに、真っ直ぐ、オリオスとエリシオを直視する。


「オリオス、貴方は帝都の片隅に自分だけのハーレムを作るだけでは飽き足らず、この学園内で乱交パーティーを開こうとしたそうだな」


「エリシオ! テレジアさんから聞いてますよっ! 一般人の女性を妊娠させて、堕胎させ捲っていたそうですねっ! しかも、その上で学園でそんなパーティーをしていたなんて…」


 そう言って、二人は自分の婚約者をキッと睨みつける。


「な、なんでオードリーがその情報まで!?」


「やっぱり、堕胎させるだけではなく、始末しておくべきだったか…」


 オリオスは目を見開いて驚き、エリシオは悔しそうに歯噛みする。


 そんな二人の態度に、オードリーはんっと咳ばらいをして喉を整え、ミーシャはすぅーっと息を大きく吸い込む。


「オリオス! お前のような、法的に犯罪を犯し、公序良俗的にも不徳な男は、私の婚約者として相応しくない!!」


「エリシオ! 貴方もですっ! 婚約者がいる身でありながら、多くの女性と交わり、尚且つ妊娠させて、母体の事も顧みず堕胎するように脅し、剰え、始末しておくべきだったと人は、私の婚約者にはしたくはありませんっ!」


 そして、二人はオリオスとエリシオを指差す。


「オリオス! お前とは婚約破棄だ!」


「エリシオ! 貴方とは婚約破棄です!!」


 皆が固唾を呑み静まり切った大講堂前で、二人の声が辺りに木霊して響く。


「ディーバ・コレ・レグリアスの名において、オードリー・ミール・トゥール並びにミーシャ・ミール・ラビタートの申し立てにより、オリオス・コール・イアピースとエリシオ・コール・ベルクードの婚約者不適切を認め、婚約破棄を承認して、二組の婚約解消をここに宣言する!」


 ディーバ先生の声も辺りに響き渡った。


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