第355話 私の家族

「ステーブ卿、先日はお世話になりましたな」


 ディーバ先生が父に挨拶をする。


「お久しぶりです、ディーバ様」


「それで、お父様、どうしてここに?」


 ここまで来れば、中に入ればいいのに、何故、テントの外で待っていたのだろう?


「あぁ、レイチェルに会いに行こうとしたんだがな…」


 そう言って、父は視線を促す。父が促した視線の先には、皆の家族である、ロラード卿とラビタート卿、トゥール卿にジュノー卿の姿があった。


「流石にあれだけの上位貴族が集まっている場所に入りづらくてな…皆さまが出るのを待っていたのだよ」


 そう言って、父は苦笑いをする。


「学生の私にとってはみんな、友人だし、その親御さんだから、接することがあっても、そこまで気にならないけど、お父様にとってはそうはいかないわね…」


 私も苦笑して答える。


「まぁ、とりあず、皆さまには後でご挨拶するとして… よく頑張ったな、レイチェル、コンサートも、そして、その…演劇も…まさかお前が敵役をあんなに立派にするとは思わなかったぞ。みんなも驚いていたよ」


「そうよ、レイチェル、でも、威風堂々として立派だったわ…」


 そう言って母も私に声を掛けてくれる。


「レイチェルお姉さま、似合ってた」


「うんうん、レイチェルお姉さまはあっちの方がカッコいい」


 ロータルとロッテもそう言ってくれる。そんなロッテの髪の中からひょっこりとリーフが顔を出す。


「あっ」


「リーフ! 久しぶりね」


 久しぶりのリーフの姿に私は手を伸ばす。すると、リーフはロッテの髪の中から抜け出して、私の方へ飛び出してくる。


「ディーバ!!」


 リーフは私の差し出した手を無視して、一直線にディーバ先生の所へ飛んでいく。


「えっ?」


「ディーバ! 大丈夫!? ちゃんと食べてる? ねぇ! ディーバ!」


 私はディーバ先生を見上げると、先生の顔にリーフが心配そうに張り付いている。


「リーフよ…久しぶりではあるが、顔に張り付くのは止めてくれないか…今は私も色々と余裕が無い…」


 リーフに顔に張りつかれたディーバ先生は、本当にリーフの相手をする余裕が無いのか困った顔をしている。


「リーフ、こちらに来なさい、ディーバ先生が困っているでしょ?」


 私は、リーフに手を伸ばして、ディーバ先生の顔から引き離す。


「あっレイチェル、居たんだ」


 一瞬、リーフの言葉に握りつぶしそうになったが、ぐっと堪えて我慢する。リーフはどうしてこんなに色ボケになってしまったのか…昔の純粋だったころのリーフが懐かしい。


 私がそんな事を考えていると、手の中のリーフがじっと私を見ている事に気が付いた。


「どうしたの? リーフ」


「ん~ もう大丈夫かなって思って」


「なにが?」


 何の事か分からないので尋ねる。


「秘密~ それより、早くディーバを休ませてあげようよ、美味しい物を一杯食べさせてあげて、体力をつけないとっ!」


「レイチェル」


 何が秘密か聞き出そうとした時に、コロンの声が掛かる。


「はい、どうしたのコロン」


 私はリーフから顔をあげてコロンに向き直る。


「そちらは、レイチェルのご家族の方?」


「えっ、あっはい、そうです」


 首を傾げて尋ねてくるコロンに、私はまだ、家族を紹介していない事に気が付き、家族を紹介していく。


「こちらが私の両親です」


 コロンに両親を紹介する。


「私がレイチェルの父のファルス・ラピア・ステーブです。娘がお世話になっております」


「私はその妻のルシール・ラス・ステーブですわ」


 両親はにこやかに自己紹介する。


「初めまして、ステーブ卿、ステーブ夫人。私は、コロン・ミール・マウリシオ・ロラードと申します。こちらこそ、レイチェル様には、色々と助けて頂いて、頭が上がりませんのよ」


 コロンは見事なカーテシーで挨拶する。


「えっ!? ロラードと言うと…あの侯爵家筆頭の!?」


 コロンがロラード家の人間と分かると父の顔色が変わる。


「これはこれは、いつも娘をお引き立て頂き、誠にありがとうございます! 今後も何卒よしなに!」


 父は畏まって、コロンに挨拶をし始める。私はコロンと友人として身分の差を感じずに付き合っているが、学園を出て、本来の社交の場では、侯爵家と子爵家では、これぐらいの対応が普通なのであろうか?


「いえいえ、私はまだ学生の身ですので、そんなに畏まらないでください、ステーブ卿、それより、本日、私の家で、イベントの成功パーティーを行いますのよ、ステーブ卿とご家族も是非ともご参加下さいまし」


「是非とも、参加させて頂きます!」


 父と母はコロンに直角に腰を折って、平身低頭の態度で答える。


「お姉さん、私たちも行ってもいいの?」


 ロータルとロッテが、コロンに尋ねる。


「あぁ、こちらは私の弟妹のロータルとロッテです」


「あらあら、こちらがレイチェルの弟さんと妹さんね、勿論良いわよ。マルティナの所の弟妹もくるからお友達になれるわ」


 コロンは二人に微笑んで答える。


「それと、レイチェルの手の中にいるのが、リーフちゃんね、私にとっては初めましてかしら?」


 そう言って、コロンは私の手の中のリーフを覗き込む。


「あーそうかも、私はいつもレイチェルの髪の中から見ていたんだけどね」


「マルティナから話は聞いていたけど、本当に可愛い妖精さんなのね、リーフちゃんも私の家に来るでしょ?」


 コロンは子供に尋ねるよにリーフに尋ねるが、リーフは即答せず、チラリとディーバ先生を見る。


「ディーバも行くの?」


「えぇ、勿論よ、ディーバ先生には色々とお世話になったから当然よ」


「じゃあ、私も行く~♪」


 リーフのその反応にコロンはうふふと笑う。


「意外とリーフちゃんは乙女なのね」


「はい…以前はそんなにでも無かったのですが…」


 私は苦笑いで答える。


「では、行きましょうか?」


 コロンがそう声をあげた時、学園の正門から校舎に通じる道が騒がしくなった。



 

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