第356話 謎の馬車
「何かしら?」
私は騒がしくなった正門から校舎に通じる道に目を向けると、豪華な馬車が学園の敷地内にしては、少々急ぎ過ぎの速度で走っているのが見えた。
「なんだか、騒がしいわね…」
騒音に気が付いたのかマルティナも、弟妹達を周りに侍らせて寄ってくる。
「何かあったのですか?」
「ちょっと、乱暴な運転だね」
「なになに? 何があったんですか?」
目立つ弟妹達をひきつれたマルティナが動くのを見て、テレジア、オードリー、ミーシャも興味を惹かれて、一緒に見に来る。すると、その馬車の動きを見ていたミーシャが声を上げる。
「あら?」
「どうしたの? ミーシャ、何か変なものでも見えたの?」
何か気が付いた様な声をあげるミーシャに尋ねる。
「いえ、あの馬車、どれも、どこの家を現す、家紋を隠しているなと思いまして…」
「あぁ、そうだね…家名や個人を現す紋章旗も揚げていないね…」
ミーシャとオードリーが紋章旗が掲げていない所や、扉に記されているはずの家紋を布で覆っているのに気が付いて説明する。
「お忍び…にしては、ちょっと乱暴な移動の仕方ですし、何か急を要することが会ったのでしょうか…」
そう言ってテレジアが眉を顰める。確かにテレジアのいう通り、お忍びにしては入場の仕方が乱暴すぎる。別の場所で何か事件でも起きたのであろうか?
「先程、通って行ったあの馬車…」
コロンが何か気が付いたように声を漏らす。
「家紋を隠したり、紋章旗を掲げていなかったりしたけど、かなり高位の貴族の家の馬車よ…しかも、私たち侯爵家よりも上の…」
コロンは扇子を取り出して、口元を隠しながら、そう話す。
「という事は、あの馬車は公爵家のものと? となると今、学園に在籍している家と言えば…」
「もしかして、カイレルの所のカナビス家が、カイレルが捕まったものだから、慌ててきたんじゃないの?」
マルティナがニヤついて、嬉しそうにそう述べる。
「でも、他の家と思われる馬車も二台ありましたよ?」
「他の二台って、どこの家の馬車でしょ?」
ミーシャと私は、そのあたり詳しそうなコロンを見る。
「もしかして、犯罪に手を染めていたのはカイレルだけじゃなくて、エリシオとオリオスも何かやらかしていたんじゃないの?」
マルティナは上機嫌でそう述べる。
「そうなのかしら? でも、仮にそうだとしても学園にまで来て、息子をどうにかしようとするものかしら?」
コロンは首を傾げる。
「どうなんだろう? 彼らが開催しようとしていたダンスパーティーで何かトラブルがあったのではないかな?」
「それもあるかもしれないわね… 今まで、皇族のアレンがいたお陰で、色々な事が揉み消せていたけど、今はアレンも居なくて、それで、人目が付きやすい学園祭で何かしでかしたから、もう庇えなくなったかも知れないわね… そうだとしたら、今がチャンスなのかしら…」
オードリーの憶測に、コロンはそう答えて、コロンもなんだか楽しそうに目を細める。
「コロン、今がチャンスってどういう事?」
「えぇ、それは、アイツらの今までの悪行を調べ上げた物があるのよ、エリシオの一般人女性を堕胎させていた事とか、カイレルの非合法な物を使っての研究や、オリオスの秘密のハーレム建設とか…」
「えっ? ちょっと待ってくれ! オリオスがそんなものを作っていたのか?」
コロンの驚愕の話を聞いて、オードリーが驚いて声を上げる。
「あぁ、オードリーにはまだ話していなかったわね、でも、隠していた訳ではないのよ、今日のイベント前に、余計な話をして心労を掛けないようにしていたのよ、明日ぐらいに話すつもりだったの」
「ま、まぁ…確かにそんな話を聞いたら、とても演劇やコンサートしていられる心境では無かっただろうね…コロンの配慮には助かるよ…」
オードリーは困惑しているのか、頭を抱えながら、コロンに礼を述べる。
「ちょっとさ…」
マルティナが口を開く。
「コロンの家に戻る前に、何があったのか、見に行かない?」
マルティナは、悪人面の笑みを浮かべてそう述べる。怒りというか腹の虫がまだおさまっていないのであろう、マルティナはとことん、カイレルの落ちぶれる様を見たいようだ。
「えぇ? 見に行くのですか…?」
良心的なテレジアはあまり乗り気でないようだ。
「私はハーレムの事も気になるが、オリオスたちが学園祭で実家の者が慌てて来るほどの事を仕出かしたのか確認したいな…」
オードリーは何か覚悟を決めている様だ。
「私は皆さんが行くのでしたら同行します…」
「私もミーシャと同じよ」
私とミーシャは皆が行くのなら同行するつもりだ。
「そうね…皆の人生に置いて重要な婚約者の事ですから、確認は必要ですわね」
扇子で口元を隠しているコロンは、冷静な目で皆に告げる。だが、となりにいた私は、扇子で隠しているコロンの口角が上がっているのが見えた。これはカイレルやオリオス、エリシオがとことん落ちぶれる様を、その目で見たいのであろう。
「では、決まりね、行きましょうか」
「マルティナ、ちょっとお待ちくださいましっ」
すぐに行こうとするマルティナを呼び止めたコロンは、皆の家族に向き直る。
「皆様、先にロラード家に向かって下さいまし、私たちは所用が御座いますので、後からまいりますわ」
「あぁ、かまわんよ、それまで皆と昔話をしておくわ」
ロラード卿はトゥール卿、ラビタート卿、ジュノー卿、カイさんたちと仲良く談笑しながら答える。
「すまぬが、私は一足先に行かせてもらって休んでおくぞ」
肩を貸しているディーバ先生がそう答える。
「あぁ、先生すみません…」
私は先生に頭を下げる。
「レイチェル、ディーバ様は私がお送りしておくから、お前は友達の時間を大切にしなさい」
私の父がやってきて、私の代わりにディーバ先生に肩を貸す。
「すいませんな、ステーブ卿」
「いえいえ、ディーバ様には娘が大変お世話になっている様ですから、これぐらいの事構いませんよ」
「そうそう、レイチェルの代わりに私がディーバの事、看病していあげるから」
そう言って、嬉しそうな顔をしてリーフがディーバ先生の肩にとまる。
「お手柔らかに頼む…リーフよ」
ディーバ先生はふっと微笑んだ。
こうして、私たち6人は野次馬へと向かったのであった。
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