第286話 賭けの罰ゲーム
「人の手による直接の魔力注入ですか…」
「あぁ、こちらの魔力注入機を使えば、複数人での魔力注入が可能だ」
そう言って、ディーバ先生は奥にある達磨ストーブのような魔法具を指し示す。
「それでは、魔力注入するための人材を用意しなくてはなりませんね」
コロンは達磨ストーブを眺めながら述べる。
「その件に関しては、学園祭の当日、私も責任を持って魔力供与を協力するつもりだ」
ディーバ先生がそんな事を述べている。
「ディーバ先生、ここまでして頂いたのに、そんな事で責任を感じなくても…」
「そうですわ、先生のお陰でこんな素晴らしい物が出来ましたのに」
私とコロンでディーバ先生に慰めの言葉を掛ける。
「いや、これその…」
ディーバ先生は、気まずそうな顔をしながらチラリとムルシア先生の顔を見て、ムルシア先生はニヤリと笑う。
「私はムルシア先生と賭けをしていたのだが…私の方が負けたのでな…」
「賭け…ですか? ディーバ先生、何の賭けをしていたんですか?」
マルティナが首を傾げながらディーバ先生に訊ねる。
「それは、それぞれ開発していたものに問題が発生してな、どちらが問題を解決できるか賭けをしたのじゃ」
ムルシア先生は嬉しそうにニヤつきながら話す。
「私の方が稼働時間というか魔力効率の問題、ムルシア先生が、録音時間の問題だ」
「それで、その問題を解決して勝った注文の魔道具がこれじゃ」
そう言ってムルシア先生は炊飯器のような形の魔道具を取り出す。
「あっ…炊飯器みたい…」
私の思っていた事を、マルティナが小さく呟く。
「それで、ムルシア先生っ、どうやって使うんですか?」
ミーシャが興味深々でムルシア先生に訊ねる。
「使い方は簡単じゃ、ここを押せば再生されるし、こっちを押せば録音できる」
ムルシア先生はそう言うと、導線をメガホンに繋ぎ、再生の金具をポチっと押す。
「あ、あ、わしの勝ちのようじゃ、今日はまた珍味でも楽しむかのう~」
メガホンからムルシア先生の声が流れる。音質もCD並みとは言わないが、ラジオぐらいの音質はある。
「凄いっ! 本当にムルシア先生の声が聞こえるっ!」
「それで、どれぐらいの長さが録音できるのですか?」
コロンは炊飯器を眺めながら、ムルシア先生に訊ねる。
「そうじゃのう、一番大きな記録盤を使えば一時間程は録音できるかのう」
「凄いじゃないですかっ!」
私は正直に驚く、本当にCD並みの再生時間がある。しかも録音機能付き!
「ちなみに、賭けで勝った時の内容は何だったんですか?」
マルティナが猫のような好奇心を出しながらムルシア先生に訊ねる。
「勝った時の内容というより、負けた時の内容じゃな、負けた方は、責任をもってその欠陥を補う事、ちなみにわしが負けておったら、記録盤の入れ替え作業をわしがやることになっておった」
「そして、私が負けた場合は、魔力供与を手伝う事だ…」
ディーバ先生は少し悔しそうに眉を顰めて、そう告げる。
気の毒な話だ。折角頑張って作り上げたのに、敗者の烙印を押されて、別に自分でやらなくても良い役回りまでさせられるとは…
「とりあえず、これが魔道具の取り扱い方を書いた説明書だ。こうなったら乗りかかった船なので、魔道具を設置する時も私も立ち会おう」
そういって、ディーバ先生は説明書を手渡す。
「ありがとうございます、ディーバ先生、ムルシア先生」
私は礼を述べて説明書をうけとる。
「それでは、費用については後ほど請求書を回してもらえますか? 後、こちらはささやかでは御座いますが、手土産でございます」
コロンがそう言って、デビドが二人に手土産を手渡す。
「ほぅ! これはまた珍味の盛り合わせじゃな!?」
「私の方は…うむ、いもくじだな…」
ムルシア先生は大喜びで、ディーバ先生も口角が少しあがる。しかし、両者の値段の事を考えると、やはりディーバ先生が気の毒に思える。量は同じほどだが、金額は10倍以上差が開いているだろう。ここはやはり、個人的にディーバ先生に何か作って差し上げて、補完しておいた方が良いだろう。
その後、荷物の積み込みを終えた私たちは先生に別れを告げて、倉庫を後にする。行きは荷馬車の上に乗っていたが、帰りは歩きである。
話をしながら学園内を歩いていると、私たちが押さえそこなった大講堂の前に差し掛かる。
「あら?」
コロンが声を上げ、皆がコロンの視線の先に注目する。
そこには、大講堂の前に学園祭でのイベント告知の大きな看板が設置されている。まじまじとその看板の内容を見てみる。
「えっと、紳士、淑女の社交の場、ダンスパーティー開催… 出会いを求める男女よ来たれ… 料金無料…」
コロンが看板の内容を読み上げていく。
「何これ… 滅茶苦茶怪しい内容だけど…」
マルティナが小さく呟く。
「こういうのってアリなんですか?」
私は看板から醸し出す怪しさに思わず口に出てしまう。
「アリと言えばアリなのですが…少し品がありませんわね…」
コロンが少し眉を顰めながら答えてくれる。
「しかし、私たちの場所を奪ってまでするのがダンスパーティーとは…」
ミーシャも眉を顰めている。
確かに、ここしばらく、大人しくしていると思ったら、わざわざ私たちの押さえていた大講堂を奪って、料金無料のダンスパーティーを行うとはどういうつもりなのであろうか… とはいってもダンスパーティーの様な社交の場は珍しい物ではなく、貴族の間では、何かお祝い事があった時に開催されるが、その殆どが自分のタウンハウスで開催されるもので、この様に他の場所を借りて開催されることなど、殆ど聞いたことが無い。
「一体、どういうつもりなのでしょうね…」
「さぁ、私も最近は自分たちの公演の事で忙しくて、あの人たちの事にリソースを割いておりませんでしたので… これは少し調べた方が良いわね…」
私の疑問に答えたコロンは少し考え込む。
「後で、デビドに暇な時に探る様に言っておくわ、とりあえず、私たちは私たちの事を頑張りましょう」
「そうね…これから、設備の設置や、現場でのリハーサルもあるし」
確かにそうだ。私たちはアイツらに構っている時間などない。しかし、今回のこの件にかんしては、マルティナの婚約者であるカイレルも関わっている。そのあたりはマルティナはどの様に思っているのであろうか…
マルティナは今回の婚約破棄の事を二人に言わなくてはならない、一人が当事者であるカイレル。もう一人は両親だ。それをどのタイミングでいうつもりなのであろう。
まぁ、マルティナなら、相手にぎゃふんと言わせる為に、自身の公演が成功してからだと思うが、もし相手側がマルティナの考えを見抜いていてその妨害工作として、今回の行動を起こしているとすれば、警戒が必要である。
「とりあえず、一度帰ってから、皆で相談しましょう」
コロンの言葉に皆、頷いて答えた。
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