第283話 歴史的な瞬間かもしれない?
※前回の282話の内容が280話の内容になっていました。
申し訳ございません。
演奏が終わった後の私たちは、盛大な拍手と賞賛の声を受けて、今はソファーに座り、ピカード准将からお茶の接待を受けている。
「いや、最初にこの話を受けた時には、二人の身内贔屓の盛った話だと思っていたが、私の想像以上の素晴らしさに感動してしまった。疑っていてすまない」
そういってピカード准将は私たちに頭を下げる。それに合わせて、演奏前までは私たちを睨みつけて威圧していた二人の衛兵が、まるで有名人だと気づかずに粗相してしまったかのように准将に合わせて頭を下げる。
「わ、私は別にそんな事気にしていませんからっ!」
「そうです、私が言うのもなんですが、突然、私たちのような小娘が兵隊さんたちの士気を高めるといっても眉唾物の話に思われるのが当然です。そんな眉唾物の話でも、真摯に耳を傾けて下さった閣下の懐の深さに感服いたします」
「ですから、閣下、頭をお上げください、私たちの方が恐縮してしまいます」
准将で何万と言う部下を従えて閣下と呼ばれる人に、頭を下げられる方が恐縮してしまう。マルティナもコロンも、そして私もすぐさま閣下に頭を上げる様にお願いする。
「そう言ってもらえるとありがたい」
准将は頭を上げて気さくに笑う。
「しかし、これでようやくまともに演習に向きあるよ、本来は私たちの部隊が帝国側の攻撃軍の役割で、相手が敵軍で防衛側の役割であったのだが、あのスプーン准将目が、良からぬ手段を使って、立場を入れ替えてしまったのだ。しかも、その同期が私が先に准将になったのが気に入らんと理由なのでな…」
准将は笑いながらペラペラと内情を私たちに話し出す。
「よ、よろしいのですか? そんな軍の内情を私たちに話してしまって…」
「はははっ、一般人のお嬢さん達は知らなくても仕方がないが、軍人であれば誰でも知っている公の秘密のような状態になっているのだよ、まぁ、私は何も言ってないが、向こうが言いふらしているのでね…」
軍隊なのにそんな派閥争いのような物が…いや、軍隊だからこそなのであろうか…
「で、話は変わるが、こちらから貸し出しする座席についてだが」
「とりあえず、1000人分ぐらいの座席とその準備の為に人員をお借りできればと…」
准将の言葉に、コロンが答える。
「それだけでよいのか? 私は演習の時に使用する、ステージとセットで貸し出しをしようと考えていたのだが…」
「ステージもお借りできるのですか?」
「あぁ、もちろんだとも、大規模な作戦を行う前には、一万人近くの兵たちの前で演説やブリーフィングをしなくてはならない、その為にステージや座席の設置はお手の物だ。なので、私としてはそのままの設備が使える方がやりやすいのだよ」
「資料などがあれば、お見せいただけますか?」
「あぁ、いいとも、資料をここへ」
コロンが訊ねると准将は部下に声を掛け資料を運ばせ、テーブルの上に広げる。
私たちは、顔をそろえて資料の図面を覗き込む。
「なるほど… ステージの幅が凡そ20m程で、その前にベンチを並べていくのですね」
「そうだ、ベンチは行軍中の野営にも使用するものだがら、いくらでもある。1000人分の席なら一時間も掛からないうちに設置できるであろう」
「こちらの図面は?」
コロンは別の図面を指差す。
「こちらの図面は公開演習を行う際の来賓用の観客席だ。こちらは、下に足場を組むので設置に一日は時間を欲しいな」
「では…」
コロンは筆記用具を取り出し、紙に会場の見取り図をさらさらと書いていく。
まず、ステージがあり、そこから扇状にベンチ席が広がり、一番外側に階段状の観客席が並ぶ形状である。
「このような形に設置することは可能ですか?」
准将はコロンの書いた見取り図を受け取り、真剣な眼差しで見つめる。
「凡そ、ベンチで1000席、観客席で900席か…新兵の設備の設置訓練には丁度良い大きさだろう。もちろん大丈夫だ。当日は設置の為に新兵を100名ほど付けよう。設置が終わった後は、好きに使ってもらって構わない、何事も経験だ」
准将の言葉に私たちは喜びの笑みが零れていく。
「ありがとうございます閣下!」
「ほんと、助かります!」
「致せり尽くせりの閣下のご配慮に、感謝の言葉もございません!」
私たちは三人揃って、閣下に感謝の言葉を述べる。
「いや、構わんさ、新兵には良い訓練になるし、君たちにとっても、公開軍事演習前の良い肩慣らしになるだろう。演習の当日には五千の兵とその観客五千、合わせて一万名の前での公演になるのだからな、これぐらいの大きさなら良い練習になる」
えっ!? 一万!?
私は閣下の言葉に内心で驚く。一万と言えば、そこそこというかTVででるようなアイドルなみの観客数である。そんなに大きな話になっていたのか…
チラリとマルティナを見ると、ちょっと苦笑いを含みながら愛想笑いをしている。さすがにビビっている様だ。それに引き換えコロンは満足げに微笑んでいる。やはり生粋の侯爵令嬢だけあって肝が据わっている。
しかし、攻略対象たちの妨害があったとはいえ、マルティナとコロンの計画は順調に進んでいる。普通なら新人が二回目の公演で観客一万なんてとてもあり得ない。しかし、センセーショナルな曲を引っ提げて、この世界で初めてのアイドルという事なので、ここまでの注目を得られているのであろう。
言わば商売敵が誰一人いない状態であり、音楽が娯楽としてあまり普及していない世界で、娯楽の大衆音楽として始めての試みを行っているからこそ、ここまでとんとん拍子に事が運んでいるのであろう。
このまま行けば、マルティナの名はこの世界の音楽の歴史に名を残すかも知れない。そう思うと、私は今歴史の瞬間に立ち会っているのかも知れないと思い身震いがしてくる。
後でマルティナのサインでも貰っておこうと思いながら、私たちは閣下の所を後にした。
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