第277話 演劇の内容
私とコロンが互いの友情を確認しあった後、他のメンバーが続々と到着していった。先ず初めにミーシャ、次にオードリー、テレジアも状況が分からずにいるカイさんを連れてきた。そして、最後にマルティナも現れた。
「これで全員揃ったわね」
コロンが皆を見回す。
「すみませんね、コロン、お爺様までご一緒させて頂いて」
「あら、いいのよ、こちらが無理をお願いしているのだから、それと、仕事の時にはちゃんと当家の馬車で仕事場まで送迎するから安心して」
下町の詰め所に、侯爵家の馬車で通勤か…戸惑うカイさんの様子が目に浮かぶ。
「うちもミハイルが心配して付いてきたがったのですが、なんとか言い聞かせてきたんですよ」
「別にミハイル君も連れてきたらよかったのに」
クスリと笑いながら答える。
「私の父も日が暮れたら、久々にロラード卿に会いたいって言っていたから来る予定だよ」
「トゥール卿も元気になられて本当によかったわ、トゥール卿が父の相手をしてもらえると父も喜ぶわ」
トゥール卿とも久々に会えるかも知れない。
「私、一番最後になってごめんなさい、それの代わり、お菓子を一杯持ってきたから」
「いもくじとよーさんイカの事?」
「他の新しいお菓子もあるから期待していて!」
マルティナは笑顔で答える。
「それでは、会議を始めましょうか」
私を含め席に着いた皆は頷いて答える。
「先ず、学園祭当日の予定だけど、午前は子供向けの演劇、お昼を挟んで、午後からはマルティナのコンサートとなるわ」
執事のデビドが資料を配り終えた後、コロンが皆に説明していく。
「あら? 午前の演劇は無料開放で、午後のコンサートの方はお金を取るのね」
テレジアが資料に目を通しながら、そう口にする。
「一般人で5000,学園の生徒なら2500、子供は500…かなり安い金額だね、もっと高めでもいいのでは?」
オードリーが値段についてそんな事を口にする。
「貴族メインのオペル座から見れば安い価格帯だけど、今回はマルティナの初めてのコンサートだし、気軽に見れる価格に設定したのよ」
確かに以前のオペル座の特別席は20万程掛かったから、その金額からすればかなり安く見える。でも、一般人からすれば、5000は結構な金額である。
「やはり、今回のメインターゲットは一般人の大衆ということですね」
「そうよ、レイチェル、今回の目的はマルティナの事をより多くの人に知ってもらいたいのよ、だから本来は料金も無料にしたいぐらいなのよ」
「なるほど、そうなのですね、でも午前に一時間程の演劇二回、午後に二時間ほどのコンサート二回って結構ハードですね…」
「ミーシャ、ハードスケジュールだけど、学園祭の機会に大々的に名前を売るチャンスなのよ、だから少々無理をしてでもやり遂げないといけないのよ」
そこでマルティナが立ち上がり、皆に頭を下げる。
「ごめんなさい! みんな、私の我儘の為に、でも、必ずやり遂げなくちゃいけないの! だから、今回だけでいいからみんなの力を貸して!」
マルティナに真剣な態度に皆、息を飲んで押し黙る。暫く、沈黙が辺りを支配したが、最初にその沈黙を破ってテレジアが声を上げる。
「構わないわよ、マルティナ、私はお爺様を助けてもらった恩もあるし、こんな経験、学生の時にしか出来ないのだもの」
テレジアのその言葉を聞いてミーシャも声を上げる。
「私だって、あんな事をしでかした私を助けてもらった上に、弟のミハイルの命まで救ってもらったのだもの、協力しますっ!」
オードリーも声を上げる。
「私も困っている時に友人に助けてもらったんだ、だから友人が困っている時に見捨てる事は出来ないよ」
皆が名乗りを上げ、暫し沈黙が訪れた後、マルティナが視線を私に向ける。
「レイチェル…貴方は?」
「私は初めから協力するのは当然と思っていたから、声にするのを忘れていたわ、もちろん、私も協力させてもらうわよ」
私がそう答えると、マルティナはほっとしたように胸を撫でおろす。そして、コロンがデビドに目配せすると、皆に冊子が配られていく。
「これが、演劇の台本よ、皆、目を通してもらえるかしら、今後はこの台本を読みながら演劇の練習と、コンサートの練習をしていくつもりよ、コンサートの詳細については今纏めている所だから、出来上がり次第、渡していくわ」
台本のタイトルを見ると「プリティー☆マリンクリン♪」と書いてある。本当に子供向けの演劇をやるつもりである。しかも、日曜日の朝に放送してそうなタイトルだ。
私はゴクリと唾を呑み込み、ページを開いていく。ストーリの内容は、精霊の国からやってきたミルミルにその力を認められた少女マリンクリンが不思議な力を使って、悪の女王礼ディーにさらわれた友人コリンや憧れの男性オリヴァーを救い出すという内容だ。
ふむふむ…よくあるお子様、魔法少女物の内容であるが…何か違和感を感じる…
主人公のマリンクリンがマルティナの役だとして、ヒロインのお母さんがテレサ、マスコットがミルミル、友人がコリン、憧れの人がオリヴァー…そして悪の女王がレイディー…
もしかして、私が悪役なの…?
私は台本から視線を上げてマルティナを見る。
マルティナは私の視線に気が付くと、口をぱくぱくと開いて脂汗を流し始める。
「どうしたの?マルティナ、そんなに取り乱して、私は何も怒っていないわよ」
私は、にっこりと微笑んで声を掛ける。
「いや、レイチェル、これは悪気があってしたことじゃないのよっ!」
マルティナはしどろもどろになりながら、狼狽えてそう答える。
「分かっているわよ、マルティナ、でも、役が決まったからには全力を尽くさないとね…そうだわ、私に憑りつくモノも表に出すなんてどうかしら? 迫力が出ると思うわよ」
「いや、それだけは本当に勘弁し下さい…」
マルティナが頭を下げてくる。ちょっと、冗談を言い過ぎたのだろうか…
「レ、レイチェル、その辺りで許してもらえないだろうか… 確かに原案を出したのはマルティナなんだけど、台本を書いたのは私なんだ…」
オードリーが申し訳なさそうに言ってくる。
「そうだったのですか?」
「あぁ、最初は全員でヒロインをやるとかの話があったのだけど、人手が足りないので、何とかこの形に落ち着いたんだ。それに、マルティナの主役は当然として、私の役もコロンの強い推しがあって決まっていたし、テレジアは仕事があるからあまり重要な役をさせる訳にはいかない、コロンも裏方の仕事があるから同様だし、ミーシャに敵役は無理そうだったから…レイチェルしか任せられる人がいなかったんだよ…」
「なるほど、わかりました…」
しかし、ゲームの中での主人公であるこの私が、作中劇の中では悪役を演じる事になるなんて…
そんな事を考えると、自然と笑みが零れてきた。
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