第154話 レイチェルの赤面
私の目の前でセクレタさんがくすくすと笑う。
「ちっ! 違います! 違いますからっ!! 違いますってばぁぁ!!」
私は咄嗟にセクレタさんに叫んだ。
「えっ、違うって言っても、好きという事や愛情は、別に男女の仲の事だけに限った事でなく、親子の愛情や友人の好きもあるし、尊敬する人に対しての敬愛ってものもあるわね… で、レイチェルちゃん、違うってどう違うのかしら?」
セクレタさんはニヤニヤと笑いながら私を見る。
もしかして、セクレタさんに嵌められた?いや、私が自爆した? なんだか、顔と耳が熱い。
「いや、その、あの… えぇっと… そう! 私の事じゃなくて、リーフがどうおもっているかなんですっ!!!」
私は必死に叫び声をあげる。
「静かにしてくれないか!!!」
すると、私の後ろから、ディーバ先生の声が響き渡り、私の心臓が飛び跳ねる。
振り返ると、ディーバ先生が眉間に深い皺を寄せて私を睨んでいる。
「図面に集中できないではないか」
「えっ、その…これは…あの…」
私は必死に言い訳を考えながら、まごつく。
「なっ!何だ…それは…!?」
すると先生は驚きの表情を浮かべて立ち上がる。
「えっ! えぇ!!」
私は咄嗟に両手を顔の頬にあて、顔の火照りを隠そうとした。
「もう土台と床がほとんど出来上がっているではないか!」
「は?」
私はディーバ先生の言葉と視線に、後ろを振り返って見ると、先程までは、床になる石材を並べたばかりであったのに、今では床の六割から七割ぐらいが張り終えていた。
「早や!」
「どう? うちのあの人たち凄いでしょ? 褒美の事をいったら、目の前にニンジンをぶら下げられた馬の様に、猛烈に走り出すのよ」
セクレタは自慢気にそう言うが、瞳には憂いを含んでいた。
「凄いことですが、あまり嬉しそうではありませんね? セクレタさん」
「そうなのよ…後でお願い券を使って何を言われるかを考えると、手放しでは喜べないのよ…」
そう言ってセクレタさんはため息をついた。
「しかし、あの調子で一日持つのか?」
私のすぐ後ろでディーバ先生の声がする。振り返るとすぐ後ろまで先生が来ていた。
「それは大丈夫よ、領地では週六日であの調子で仕事をしているから」
「週六日あの調子だと!? それはそれでどうなのだ… ところで、レイチェル君、どうしたのだ?」
ディーバ先生は、頬に手を当てて火照りを隠そうとしている私を見下ろす。
「いや…その…えっと… ちょっと、日に焼けてしまったみたいで…」
「あぁ、そうか、君は色白だから、日の光には敏感なのであろう、日焼けが気になるのなら、テントの下で私の隣にでもいるとよい」
「えっ!? 先生の隣!?」
私の顔と耳はまた熱くなり始める。今日に限って先生の言動に過剰に反応してしまう。これも先程のセクレタさんの言葉のせいだ…
「ところでノルン女史」
ディーバ先生は、私が顔と耳を火照らせているのを気にかけないように、セクレタさんに声を掛ける。
「なんですか? ディーバ様」
「もし、余裕があるのなら、私の転移魔法陣の図面に関しての質問に答えてもらいたのだがいいだろうか?」
セクレタさんは一度、作業現場を振り返り、目を放していても無事かどうか確認した後、再びディーバ先生に向き直る。
「分かりました。あの人たちに任せておいても大丈夫そうですので、ディーバ様にお付き合い致しますわ」
「それはありがたい、ではテントの下まで行きましょうか、ノルン女史。レイチェル君も付いてきなさい、テントの下ならば日焼けしないぞ」
「はい、分かりました…」
私は縮こまりながらも素直に先生の言葉に従う。これ以上何をしても、自爆する可能性が高いからだ。
テントの下までついていくと、何故かディーバ先生がテーブルの真ん中に座り、セクレタさんがその右側に、そして、私は空いているディーバ先生の左側に座る事となった。
「ざっと図面を拝見させて頂いたが、凄いな…これは」
ディーバ先生は広げた図面を見下ろして言う。
「で、どの辺りにご質問が?」
「どの辺りというか色々とあるな、一見して、ラビタート家の転移魔法陣に近いように見えるが、原理が少し異なるな」
「はい、ラビタート家の転移は押し出し式で、転移側に強制的に対象物を転移しますが、当家の物は入れ替え式になっております。両方の対象物を入れ替える方式をとっておりますので、転移後の融合事故が起きないようになっております」
セクレタさんの話を聞いていたら、前世の玲子時代に見た古い映画の事を思い出す。確か、蚊と人間が転送実験で融合する話だったかな?
「確かにその方式であれば融合事故は起きないな。その他にも事故に対する対策が色々取ってあるようだな。転移前に力場を発生するものもそうか?」
「はい、初期実験の際に力場なしであの者たちの持つ人形を使って実験を行ったところ、転送領域外にあった首がもげたそうで、人形の所有者が悲鳴を上げていました。なので、以後は転移領域内に押し込むような力場を発生させる様にしたのです」
話を聞いていて背筋が寒くなってきた。もし人形ではなく、人間だった場合、身体だけが転移して、首が切り残される事が起きたのか。想像するだけで怖い。
「うむ、その辺りは図面を見ていてなんとなく、理由が分かったのだが、理由が全く分からないのはここだ」
ディーバ先生はそう言って図面の上を指差す。
「ここの部分は通信魔法陣の一部を利用している様であるが、通信以外の目的に経路が流れている所がある。この部分の理由と目的が全く分からん」
「あぁ、そこですか。そこの方式は私も最初は驚いた場所ですね。それは片側の魔法陣が無人の場合でも起動して転移できる仕組みです」
「片側が無人という事は、片方に魔力供与無しで起動させるという事か?」
先生が目を丸くして尋ねる。先生が驚くぐらいだから凄い技術なのであろう。例えていうならば、片方の携帯電話が電池切れでも通話できるようなものなのだろうか。
「はい、通信魔法の原理を利用して、魔力で送られたメッセージを、効率は悪いですが、魔力に戻して、魔法陣の起動魔力にする為のものです」
「一見、乱暴な原理の様に思えるが、かなり有効なアイデアだな。他の事にも利用できる…勿論、悪用もな…」
先生の目が鋭くなる。
「はい、その辺りは心得ております。領主も私も、そしてあの者たちも悪用するつもりなど毛頭ありません。善良な帝国臣民であることを望んでおります。なので、他の者にこの原理を公開するつもりはありませんし、自らの潔白を証明するために、ディーバ様にご説明しているのですよ」
「そうか、そうだな…あの話通りであれば、ノルン女史に帝国に弓を引くつもりなど、毛頭ないのは分かる。しかし、これは本当に凄い技術だな」
「ふふふ、そうでしょ? うちの者たちは、意外と優秀なのですよ」
セクレタさんは自慢気に微笑む。
「しかし、その様な優秀な者たちが100人か… 研究者でもあり、技術者でもあり、労働者でもあるのか… ちょっとした国レベルだな…」
「まぁ、癖が強い者たちばかりなので、その全員を思い通りに動かす事は難しいですが…」
その後もディーバ先生とセクレタさんは、転移魔法陣の事で色々と話し合っていたが、かなり専門的な内容になっていたので、私には全く理解できなかった。
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もご愛読頂ければ幸いです。
※はらついの次回は現在プロット作成中です。
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