第153話 リーフの影響

 私とディーバ先生が、昨日の儀式を行った現場に辿り着くと、既にセクレタさんが到着しており、庭園の一角には、四方に杭が打ち込まれ、その杭に糸がつけられて、杭同士を繋ぎ、正方形になるように張り巡らされていた。また、その近くには運動会や、イベントで使われるようなテントが立てられており、そこに簡易の椅子やテーブルが並べてある。


「セクレタさん、朝からもうこんなに準備をされたのですか?」


「あれ、レイチェルちゃん、来たのね。これは昨日の儀式が終わった後に準備しておいたのよ。ディーバ様もレイチェルちゃんも適当な所に掛けて頂戴」


 私とディーバ先生はセクレタさんの言われるがまま、近くの椅子に腰を降ろす。


「さて、ノルン女史。私も工事完了までの期間は見学することは出来ないと思うので、出来れば先に転移魔法陣の設計図を見せて頂きたいのだが…」


「いきなりですね、ディーバ様。でも、約束ですから御見せいたしますわ」


 セクレタさんはそう言うと、片方の翼を上げて、その脇からにゅるりと巻物を取り出す。


「収納魔法か、ノルン女史は優れた魔法の賢智をお持ちのようだな」


「まぁ、私も長年色々とございましたから…はい、こちらです」


「ありがとう、早速拝見させて頂く」


 ディーバ先生は設計図を受け取ると早速簡易テーブルに広げて確認していく。


「私は、工事の指示をしておりますので、何かご質問があれば御気軽にお申し出くださいませ」


 セクレタさんはそう言うと、現場に集まっている男性たちの元へ行き、色々と指示を始める。


「設置場所の指定はもう済んでいるから、そこの地均しからメインに初めて頂戴。壁解体は一組で、地均しを済ませた所から石材と目地材を使って土台と床を作って頂戴」


「イエス!マム!」


 男性たちは何故かセクレタさんに敬礼をしてから、作業を開始する。


 先ずは、手から火炎放射器の様な火の魔法を使って、草木を焼き払う。次にブルドーザーに付いている土を掻き分ける部分を、魔法で身体を強化して人力で地面を鳴らしていく。その地面を大きなハンマーで叩いて締めていく。


「セ、セクレタさん…魔法を使っているとは言え、全て人力でやるのですか?」


「そうよ、領地での開墾もあの調子なの。牛馬に使う農耕具を魔法で身体を強化して使っているのよ」


 セクレタさんは平然とそう言うが、それは普通の人から見れば奴隷労働にしか見えないであろう。


「よく皆さん、そんな条件で仕事をしてくれますね…」


「あら、ただで働かせている訳ではないのよ、ちゃんと普通の報酬と特別な報酬も支払っているから」


 セクレタさんはそう言ってチケットの様なものを見せてくれる。


「なんですかこれ? お願い券って書いてありますけど…」


「皆、それが目的で馬車馬のように働いているのよ、それがあれば、私が出来る事で領主のマールちゃんの許可が降りた物なら、お願いを聞いてあげるのよ」


「へぇ~、そうなんですか、どんなお願いをされたのですか?」


 私がセクレタさんにそう尋ねたとたん、セクレタさんの顔が不機嫌なものになる。


「思い出したくもないし、レイチェルちゃんには話せないような事よ…」


 私はその表情からなんとなく察して、それ以上は追及しなかった。


「お陰で、お気に入りの書店に二度といけなくなってしまったのだから…」


 セクレタさんはぽつりと小さな声でつぶやく。書店?私の想像していたものとは違うようだ。


 とりあえず視線を工事に戻すと、もうすでに床になる部分に壁から再利用をした石材を並べ始めていた。


「えっ? もう床に取り掛かっているのですか!?」


「えぇ、工事の予定期間は一応二週間程とっていたのだけれど、予定より早く終われば、その分、お願い券を上乗せするっていったらあの調子なのよ…」


「えぇ…お願い券って、あの人たちにとってそんなに価値があるんですね…」


「昨日もあの儀式の後、昨日の一日は予定日に入るのか入らないのか詰め寄られたわ…」


「そんなに急いで石材を組んで、崩れたりしないのですか?」


「そのあたりは向こうの技術で鉄筋というものを石材の間に通して、目地材は魔法で乾燥させるから大丈夫だそうよ」


 この世界に鉄筋コンクリートのような技術を持ち込んでいるのか…


「あっそう言えば、セクレタさん」


「なに? レイチェルちゃん」


 セクレタさんは工事からあまり目を放せないからチラリとこちらを見る。


「少しリーフの事で尋ねたい事があるのですが…」


「あら、リーフがどうかしたの?」


「その…あの後、どういう訳か、ディーバ先生に纏わりつくことが多くなって困っているんですよ…」


「あぁ、朝食の時の事ね、レイチェルちゃんは困っているの?」


 セクレタさんは私に向き直る。


「いや、私よりディーバ先生が扱いに困っているようで、私の方は急に姿が見えなくなって心配になるだけというか…」


「リーフも子供じゃないんだから、いつまでも、目の届く範囲だけに留めておくことはできないわよ」


「確かにそれはそうですが、やはり急に姿を消されると心配しますし、ディーバ先生にも迷惑をかけていますし…」


「それは今までが物分かりが良くて従順な子供の様だっただけで、大人になれば、みんなそうなるものよ、レイチェルちゃんもリーフ離れしないといけないかもね」


 確かにそう言われるとそうかも知れない。リーフは私のペットではなく、私の理解者であり友人であり、私とは違う別の個人である。


 だから、私の我儘で私の側にいる事を強制は出来ないし、私以外の人との交流を妨げる事も出来ない。だけど…なにか胸にもやもやする思いがある。


「ねぇ、レイチェルちゃん…」


 セクレタさんはなにやら意味ありげな表情で私を見る。


「な、なんですか? セクレタさん…」


 私は少し構え気味に答える。


「もしかして…ディーバ先生と仲良くしているリーフに嫉妬しているの?」


「なっ!」


 私はすぐさま言い換えそうと口を開くが、すぐ後ろにディーバ先生がいるので、口を押さえて振り返り、ディーバ先生を確認する。


 ディーバ先生は、転移魔法陣に熱中している様で私たちの会話は聞こえていないようだ。


「なんてことを言うんですか、セクレタさん!」


 私はセクレタさんに顔を近づけて、小声で抗議する。


「違うの? レイチェルちゃん」


 セクレタさんは少しニヤつきながら答える。


「違いますよ! そもそも私がどうこうという事ではなくて、あの儀式の影響でリーフがおかしくなったのではないかと聞いているのですよ!」


「確かに影響があったことは認めるわ。あの人たちが自分たちの願望を込めて魔力を注いだから、ちょっとお目茶目で恋する女の子みたいになってしまったみたいだわね」


「だったら、どうしてリーフはあの人たちの方に行かなくて、ディーバ先生の方にいくんですか?」


 その言葉に、セクレタさんはキョトンとした顔をする。


「レイチェルちゃん、分からないの?」


「分かるって何がですか?」


「確かにあの人たちの影響で、お茶目で恋する女の子みたいな性格になってしまったけど、好み自体は元々の影響が強いのよ」


「リーフの元々の好みって、以前からリーフがディーバ先生の事が好きだったという事ですか?」


 今までそんな素振りを見せたことが無いのに…


「うーん、レイチェルちゃん、それを自分で言ってしまうのね…リーフの好みの影響は、一番長く時を過ごしたレイチェルちゃん、貴方自身の影響なのよ」


「えっ!?」


 私はセクレタさんの言葉に絶句した。


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異世界転生100(セクレタさんが出てくる話)

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※はらついの次回は現在プロット作成中です。

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