第152話 リーフのおかしな行動
昨日のロータルとロッテの話は私とマルティナにとって衝撃が大きすぎた、あの後、混乱し困惑して、何も手につかない状態であった。
夕食の時も食事が喉を通らず、二人とも会話すらない。その事が、両親やディーバ先生、セクレタさんを心配させたが、リーフの変化が原因だと勘違いの納得をしてもらった。
朝になって、帰省に付いてきてくれたエマが起こしてくれたので、彼女の笑顔で私は少し安心したが、やはり、昨日の夜に中々寝付けず、頭が重い。
「レイチェル様っ、なんだかお辛そうですね…もう少し休んでおられますか?」
エマはくりくりした大きな瞳を心配そうにして尋ねてくる。
「ありがとうエマ、大丈夫よ、実家だからといって寝坊してはいられないわ」
ついこの前までは、リーフが倒れていて、ディーバ先生の所でお世話になっていたが、今日からはまた、リーフの目覚める姿を拝むことができる。なので、身体を起こして、リーフの姿を確認しようとする。
「あれ?」
まだ植えていないリーフの苗木のところを見ると誰もいない。その横のミニチュアハウスの中にもリーフの姿が見当たらない。
「エマ、リーフ知らない?」
「えっ? リーフちゃんですか? 私が来た時にはいませんでしたよ?」
「そうなの…」
私は寝起きなのでぼーっと聞き流していたが、ふいに昨日の粒子消滅の事を思い出して血の気が引いていく。
「リーフ? リーフ! リーフ!!」
私は枕をひっくり返したり、ミニチュアハウスの後ろを見たり、ベッドを持ち上げてその裏を見たりしたが、一向にリーフの姿が見当たらない。
「レ、レイチェル様っ! どうなさったんですか!?」
「リーフが見当たらないの! もしかして消えちゃったのかもしれないわ!!」
私は混乱し、狼狽えながら、辺りを捜し続ける。
そこに私の部屋の扉がノックされる。
「マルティナ!? 構わず入ってきて! 今、リーフが見当たらなくて手が離せないの!!」
私は辺りを必死に探しまわしながら答える。
「マルティナ君ではない…ディーバだ」
扉の向こう側から、女の子のマルティナの声ではなく、男性のディーバ先生の声が響く。
「えっ!? マルティナではなく、ディーバ先生?」
そこで、まだ自分が寝間着姿であった事を思い出す。
「先生! 少しお待ちください!! ちょっとエマ! なにか羽織るものを渡して!!」
扉の向こう側にいる先生に伝わる声の大きさのままエマにお願いしているので、先生に私の慌てようが筒抜けであるが、混乱している私は気が付かなかった。
「レイチェル様っ! レイチェル様っ! とりあえず、これを羽織って下さい!!」
エマがクローゼットの中からブランケットローブを探し出してきてくれたので、とりあえずそれを寝巻の上から羽織って、寝巻を隠す。
「エマ、いいわ、扉をあけて」
エマはいそいそと扉の前に進み、そこで息を整えてからゆっくりと扉を開けていく。すると、しかめっ面をした先生の顔が現れる。
「…おはよう、レイチェル君…どうでもよいが、はしたないぞ… 急な客人に慌てるのもよくある事だが、扉の向こう側には聞こえないようにしなさい…」
私の慌てっぷりが筒抜けだったことに漸く、気が付き、私は身を縮こま世て頬を赤くする。
「それと、君が捜していたのはこれだろ?」
そう言って、ディーバ先生は摘まみ上げたリーフを私に見せつける。
「あっ! リーフ! どうして先生がリーフを!?」
私は恥をかいた事を忘れて、先生の所へ駆け寄り、リーフを両手で受け取る。
「今朝方、枕元で気配を感じたから目覚めてみれば、私の枕の上にこのリーフが眠っていたのだ…危うく寝返りをうっていたら圧死させていた所だ」
先生から受け取ったリーフはまだ気持ち良さそうに眠っている。
「ど、どうもすみません…」
「ちゃんと、君が面倒を見るように…」
先生はそう言い残すと、部屋を去って行った。
何だろう…飼っていたペットが逃げ出して怒られた気分だ… 言いたいことがあれば直接リーフに言えばいいのに…なんだか先生が、孫に直接怒らず、その母親を怒る舅のように思えてきた…
その後、マルティナと二人で朝食に向かったのだが、やはり、母の姿は無かった。また、マルティナも私と同様に眠れず考え込んでいたようで、何度か欠伸を噛み殺して、目をこすっていた。
そして、リーフと言えば、何だか分からないがディーバ先生の元へ行き、何かと構い出している。
「ディーバ、果物好き?持ってきてあげよ?」
「いや、大丈夫だ…」
「じゃあ、お茶は?お茶のお代わりはどう?」
「それはメイドがやってくれる…」
リーフが善意で行っているので、ディーバ先生も邪険に出来ず対応にかなり困っている様で、時々、こちらをチラチラと見てくる。
仕方がないので、私はリーフに声を掛ける。
「ねぇ、リーフ、こっちにいらっしゃい、そんなにディーバ先生に構っていたら、ディーバ先生が落ち着いてお食事できないでしょ」
「分かった、静かにしてる」
リーフはそう答えると、テーブルの上に座り込んで、無言でじっとディーバ先生を見続ける。なんだか余計に食べづらそうな状況になり、先生はじっと私を睨む。私がディーバ先生から顔を逸らせると、ころころと笑うセクレタさんの姿が目に映った。
そんな感じ朝食が済んで、私とマルティナは一度、私の部屋の戻る。
「マルティナ、私は工事の立ち合いに参加しなくてはいけないけど、貴方はどうする?」
「ごめんなさい…私はパスするわ… 中々眠れなくて明け方近くまで、考え事をしていたのだけど、今になって猛烈な眠気がきているのよ… ちょと、休ませてもらうわ」
マルティナはそう言って、盛大な欠伸をする。
「分かったわ、でも、あまり寝過ぎないようにしなさいね、また夜に眠れなくなるから」
「うん、そうする… いくら貴族といっても友人の家で夜型の生活なんて出来ないからね」
では、自宅ならいいのかと思いつつ、眠気で足元がおぼつかないマルティナを見送り、私は、ディーバ先生を案内するために先生の部屋に迎えに行く。そして先生の部屋の前に辿り着くと、先生は私が案内をする事を忘れていたのか、様々な荷物を抱えて現場に向かう所であった。
「先生、お手伝いいたします」
「あぁ、済まないなレイチェル君」
私は先生から書類の入ったかばんを受け取り、先生は私には使い方の分からない道具を一杯抱えている。
「先生、そちらの道具は何ですか?」
「これか、視察するにあたって文章を書き留めないといけないだろう? 立ちながら文章を書き留めやすくする道具と、記入者しか文章を見えなくする魔法具だ」
「あぁ、セクレタさんやあの転生者たちに見られても大丈夫なようにですね」
「まぁな、良きにしろ悪しきにしろ、自分たちの事が記されているのは気分の良いことではないだろう」
「確かにそうですね」
セクレタさんが現在、務めている領地なのであまり根ほり葉ほり調べてもらいたくはないが、昨日の転生者の力を見ると先生が警戒する理由も分かる。たった10人の魔法的な力だけあれだけのものを持っているのだから、100人全員が集まった時の事を思うと空恐ろしくなる。
「ところでリーフはどうしたのだ?」
「食堂から帰ってくるときまでは一緒にいたのですが、またどこかに行ったようですね」
「そうか…ならリーフがいない時に言っておくが、あれはどうにかならんのか、あれだけ纏わりつかれては落ち着かん」
先生は本当に困った顔をしている。
「いや、私もリーフがどうして先生に纏わりつくのか理由が分からないのですよ…」
昨日の夜の事といい、今朝の朝食の時といい、どうしてリーフはディーバ先生に纏わりつくのか理由が分からない。先生も分からないから私に聞いているようだ。では、セクレタさんに相談するしかなさそうだ。
「それは困ったな…」
「セクレタさんに相談してみましょうか」
そうして、私と先生は工事現場へと向かったのであった。
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異世界転生100(セクレタさんが出てくる話)
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もご愛読頂ければ幸いです。
※はらついの次回は現在プロット作成中です。
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