第155話 嫉妬じゃありません!

「しかし、これでは悪用される恐れがあるのではないのか!?」


「その為の起動パスワードです。第三者に悪用される恐れなどありません!」


「しかし、要人を人質に取られた場合には、脅されて操作させられる場合もあるだろう!」


 セクレタさんとディーバ先生のとの話し合いは白熱してさらに続いている。しかも話の内容が技術的なものから運用論に変わっている。どちらにしろ私が口を挟める問題ではない。しかし、技術的な話に比べ運用論なので、少しは話の内容が理解できるが、ディーバ先生の論調は少し慎重論過ぎる気がする。


「ディーバ様も御覧の通り、当家の転生者たちは一人一人が強大な魔力を有しております。なので、普通の手段では人質に取られるような事はなりません!」


「しかし、ノルン女史や、領主の方も同様には行かないだろう」


「私は収納魔法の他に様々な魔法を習得しております、例え相手が当家の転生者であろうが遅れをとるつもりはありません。領主に関しても常に転生者の護衛を数人つけております」


「相手が力押しだけで来るとは限らないだろう。ハニートラップを使ってくる恐れもある」


「そ、それは…転生者の自制心を信じております…」


 あっ、セクレタさんの目が泳いでいる。これは自信がない時の癖だ。


「みなさーん」


 そんな時に館の方から声が響く。声の方向に視線を向けると、朝食の後、いなくなっていたリーフと、その後ろに寝ているはずのマルティナの姿があった。


「どこ行っていたのよリーフ、それよりも何をしに来たの?」


 テントの所まで飛んできたリーフに声を掛ける。


「皆さんに休憩の差し入れを持ってきたんですよっ」


 リーフはそう答えながら、ディーバ先生の肩に留まる。リーフは差し入れを持ってきたというが、リーフ自身は手ぶらである。私は視線をリーフから後ろのマルティナに移すと、眠たそうな目を擦りながら欠伸をして、手に何か持っているようだ。


「マルティナもどうしたのよ? 寝ていたのじゃないの?」


「それが、リーフちゃんがやってきて、休憩時間に皆にお菓子の差し入れをしたいって言うから、叩き起こされたのよ…」


 差し入れをしたいのなら、食堂に行けばいいのにと思ったが、マルティナの手元を見ると、マルティナが良く買っているいもくじがあった。どうやら、リーフはいもくじをみんなに振舞いたかったようだ。


「マルティナお嬢様、いいのじゃありませんか? 仮眠と仰っていましたが、本気で眠っておられたので、また夜に目が覚める所でしたよ」


 シャンティーがそう言って、エマと一緒にティーワゴンを押しながら現れる。


「休憩時間の様ですから、論議はこの辺りにしておきましょうか、ディーバ様」


「そうだな、せっかくのお茶が冷めてしまうからそうしよう」


 ディーバ先生とセクレタさんとの論戦は、一時休戦となったようだ。助かりましたね、セクレタさん。


「ディーバ! 疲れたでしょ? 甘いものでも食べる?」


「あぁ、リーフ、ありがとう…」


 ディーバ先生はまたリーフに纏わりつかれるのかと、少し引き気味であった。


「だから、私、マルティナにお願いして、いもくじを持ってきたんだよっ!」


「おぉ、それは誠か」


 リーフの言葉に困り顔をしていたディーバ先生の顔が綻ぶ。そして、リーフはマルティナからいもくじの箱を受け取って、うんしょうんしょっと精一杯の力でディーバ先生の前に運ぶ。


「ねぇ、ディーバは大きい方がいい? それとも小さいほう?」


「うむ、この前は小さい方だったので、今度は大きい方がよいな」


「では、私が大きい方を当てるね」


 そう言ってリーフはくじを引く。


「やったぁ! ディーバ! 見て見て! ちゃんと当たりの親を引いたよ!!」


「凄いなリーフ、宣言通りに親を引き当てるとは、大したものだ」


「ほらっ!ディーバ、親のいもくじだよっ! 食べて食べてっ!」


 リーフは親のいもくじをディーバ先生の所まで運んで受け渡す。今朝はリーフの扱いについて困っていたディーバ先生も、好物のいもくじを差し出されてはニコニコ顔で受けとった。


 私はその様子を、苛立たしさを感じながら見ていた。普段であれば私の友人・知人同士の

仲睦まじい様子であり、微笑ましい状況であるが、セクレタさんの言葉のせいで、私はなんといったらいいだろうか、痛い自分の姿と言うか、黒歴史の自分の姿と言うか…見ていて、胸のモヤモヤが止まらない状態である。


 ディーバ先生もディーバ先生である。今朝はあんなにリーフの事を邪険にしていたのに、いもくじを差し出されたとたんに、ほいほいとニコニコ顔になって…いい大人がお菓子一つで態度を180度変えるのはどうかと思う。


「ねぇ、レイチェル…」


 私がいらいらしながら、ディーバ先生とリーフの様子を見ていると、後ろからマルティナの声が掛かる。


「なに? マルティナ」


 私は二人の様子を見たままで、背中でマルティナに答える。


「どうして、イライラしているのよ?」


「べ、別にイライラなんてしていないわよっ!」


 私は、自分の胸の内を知られないように、否定の声を上げる。


「えっ? そうなの? まぁいいわ、それより話は変わるけど…」


 マルティナは私の勢いに押されて、イライラの事は引っ込める。


「なに?」


「ディーバ先生とリーフちゃんはどうしてイチャイチャしているのよ?」


「話が変わっていないじゃないの!」


「えっ? ディーバ先生とリーフちゃんの事でイライラしていたの?」


 私はしまったと思い慌てて口を塞ぐがもう遅い、マルティナは新しいおもちゃでも貰ったかの様に目をキラキラと輝かせる。


「やだっ、レイチェルったら、以前はあんなに否定していたというのに、リーフちゃんというライバルが現れたら、火が付いちゃったのね…嫉妬という火が…」


「だ、だから、違うんだってば!」


 私は改めて否定するが、マルティナは勘違いをしたまま、私の肩をパンパンと叩く。


「分かってるって、分かってるってばレイチェル」


「いや、何も分かってないでしょ!!」


 私とマルティナがそんな言い合いをしていると、作業をしていた転生者達が、休憩の為にここのテントの所へやってくる。


「あら、お兄さんたちっ、お疲れ様ですっ!」


 リーフはその転生者たちに微笑みかけて、労いの言葉を送る。


「あっ、リーフちゃんだ! かわぇぇ~」


「リーフちゃん、元気になったんだねぇ~」


「はい、皆さんのお陰で元気になれました。なので今日はそのお礼におやつを持ってきました」


 リーフは転生者たちに物怖じせずに、にこやかな笑顔で話し続ける。


「おやつってなに?」


「はい、こちらですよっ!」


 リーフはそう言って、よっこいしょっと、いもくじの箱を移動させる。


「なにこれ?」


「あっ、これいもくじじゃないか! なつかし~」


 転生者の一人がいもくじを知っているらしく、なつかしさの声をあげる。


「いもくじって?」


「あぁ、俺の地元の津軽地方の駄菓子だよ、くじを引いて、子が出たら小さいの親が出たら、大きい餡ドーナツを貰える奴」


「へぇ~ 面白そうだな」


 そんな感じに転生者たちはいもくじに興味を持ち、次々とくじを引いていき、そのくじの内容に合わせて、リーフがいもくじを手渡していく。


「はい、お兄さん、どうぞっ」


「ありがと~ リーフちゃん~」


「そちらのお兄さんも、どうぞっ」


「お、俺の事は、お、お兄ちゃん♪って呼んでくれる?」


 転生者の一人がおかしなことを言い始める。


「えっ、ちゃん付けなんですか…? で、では…お、お兄ちゃん♪」


 リーフははにかみながら要望に答える。


「リーフ!!! そんなお願いを聞いちゃダメです!!!」


 その様子を見ていた私は大声を上げて、変な呼び方をさせるのをやめさせる。


「えっ? なんでダメなの? 私も兄のことはちゃん付けだったけど?」


「マルティナの所はそれでいいかも知れませんが、あの人たちは変な思惑があって呼ばせているんです! 私のリーフを穢す訳には行きません!!」


「えっ? なんでちゃん付けで穢れるの?」


 マルティナは首を傾げる。


「うふふ、青春よね…」


 そんな私たちの様子を、セクレタさんは微笑みながら見ていた。



 

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同一世界観の作品

異世界転生100(セクレタさんが出てくる話)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935913558

はらつい・孕ませましたがなにか?(上泉信綱が出てくる話)

https://kakuyomu.jp/works/16816452220447083954

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※はらついの次回は現在プロット作成中です。

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