第146話 セクレタさんちの転生者
「セクレタさん、ここですか?」
同じ顔をした集団の一人がセクレタさんに声を掛ける。
「えぇ、とりあえず中に入る入口を作ってくれるかしら?」
「確か建材を再利用するんですよ?」
「えぇ、そうよ」
セクレタさんは普通に話しているが、私から見ると、同じ顔の人物が何人もいるので不気味に見えてしまう。
「うーん、ただ積んであるのではなくて、ちゃんと目地に詰め込んでありますね」
集団の男性の一人が、鉤爪のついた大きなはさみの様な器具をもって壁の状態を確かめる。
「この辺りにお願いできるかしら」
「分かりました、セクレタさん。筋肉強化!心肺機能強化!」
男性は掛け声を掛けると、ひょいと壁の上に飛び乗る。そして、先程の大きなはさみの容易なもので壁の石材をはさみ、ぐらぐらと揺らす。
「よし、取れた。下で受け取ってくれ」
「わかった」
壁の上の男性がそう言うと、下の男性に向かって石材を放り投げる。
「ひっ!」
私はその様子を見て驚き、背中に冷や汗を流しながら思わず声を漏らしてしまう。石材と行ってもレンガサイズではなく、一つ一つが米袋程の大きさがある。そんなものを上から投げられたら下にいる人は無事では済まない。
「よっ!」
しかし、下の男性は軽々と石材を受け止め、まるで発泡スチロールのでも置くように下に降ろす。
「じゃあ、ドンドン行くぞ、受け損ねるなよ!」
「お前こそ、俺に欠伸をかかせるなよ」
壁の上の男性と壁の下の男性はそう言うと、まるで餅つきでもするような速さで、次々と壁の石材を外しては投げおろして、受け止めていく。
「うむ、凄い手際の良さだな…」
ディーバ先生が壁を崩して石材を降ろす様子に感心して声を漏らす。
「ふふっ、あれは女の子の前で、カッコいい所を見せたいだけなのよ」
そう言ってセクレタさんは私の顔をじっと見る。
「えっ? 私の事ですか!?」
「そうよ、レイチェルちゃん、貴方の前だから、あの人たちはカッコつけようとしているのよ。一応注意しておくけど、あの人たちに近づいたり、目を合わせたらダメよ」
セクレタさんは自分の家の人間なのに凄い物言いをする。
「近づいたり、目を合わせたらどうなるのですか?」
怖いながらも興味本位で聞いてみる。
「不気味な笑みを浮かべたままじっと見つめてきたり、その笑顔のまま無言で頭を撫でようとしてきたり…私が言うのもなんだけど、あの人たちちょっと、いやかなり不気味で変なのよ…お陰で、優秀なメイドが何人辞めた事か…」
そう言いながら、セクレタさんははぁとため息を漏らす。私はセクレタさんの話を聞きながら、背中に奇妙な視線を感じるので、恐る恐る肩越しに振り返ると、あの男性の集団が、作業をしながら、ずっとこちらに顔を向けて微笑んでいる。
「ひっ!」
思わず、私は小さな悲鳴を漏らす。
「ほら、私の言った通りでしょ… だから、目を合わせちゃダメって…」
「あれは、あの者たちの前の世界の習慣か風習なのか?」
ディーバ先生もあの奇妙な光景に、セクレタさんに尋ねる。
「あの人たち自身はそういっているけど、仲間の一人で唯一の女性がいるのだけど、その子が言うには、あの人たち独特の病気の様な者だそうよ…」
「風土病なのか? この世界に感染はしないのか?」
「あぁ、病気といっても精神的なものだから安心して」
なおさら安心できませんよセクレタさん…
「セクレタさん、開通しましたよ」
「あら、もう終わったの? ご苦労様」
セクレタさんは、慣れているのか普通に受け答えして返している。
「みなさん、入口が出来たみたいよ。中に入って確認しましょう」
セクレタさんがすたすたと入口へと向かう。
「レイチェルが帰ってきても簡単には中に入れないように壁を作ったのに、こんな短時間で入口を作るとは…」
もう必要ないとは言え、せっかく作った壁を五分も経たず、入口を作られた父は、困惑しながら言葉を漏らす。
「こんな力を持った転生者が百人もいるのか…」
ディーバ先生は、無意識に小さく呟いている。
「あら、思ったよりも草むらにはなっていないわね」
セクレタさんが壁の中の感想を述べているので、私やディーバ先生、そして父も壁の内側へと足を向ける。
壁の内側はある程度の雑草が生い茂っているものの、私が旅立つ前とは、壁がある事を除いては変わっておらす、その中央には、切り倒されて痛々しい切り株の姿になった、リーフの元々の樹の切り株があった。
「ここか…」
先生は一言そう漏らすと、歩みを早め、切り株のある中央へと向かう。そして、切り株の所まで辿り着くと、片膝をついて入念に切り株を調べ始める。
セクレタさんは壁の内側を見渡し、転移魔法陣の設置場所を検討している様子で、父はやはりこの場所に居づらそうな顔をしている。
私も、後ろめたさの様なものを感じながら、静かにゆっくりと中央の切り株の所へ歩いていく。
「ディーバ先生…」
私は、丹念に切り株の様子を調べているディーバ先生の背中に声を掛ける。
「レイチェル君か…」
先生は肩越しにちらりと振り返る。
「どうですか?」
私は小さく尋ねる。
すると、先生は小さくふっと笑って、身体を動かし、私の視線が切り株に通る様にする。
「ちゃんと、リーフの本体は生きている。例え切り株になっていても…」
私の目の前の切り株からは、いくつかの新芽が吹き出していた。
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もご愛読頂ければ幸いです。
※はらついの次回は現在プロット作成中です。
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