第144話 ロータルとロッテ

「わ、私にくっ付いているものって…貴方たち、『見えて』いたの?」


 私は驚いて狼狽えながら、ロータルとロッテの二人に問い質す。


「見えていたのって、普通見えるでしょ?」


「もしかして、レイチェルお姉さまは見えていなかったの?」


 逆に二人から問い返される。


「では、私の部屋を時々、覗き見していて、怖がって私に近づいて来なかったのは、私にくっ付いているもののせいだったの?」


 ロータルとロッテの二人は私の言葉に互いの顔を見合わせて、私たちに聞こえないような小声で相談した後、再び私たちに向き直る。


「レイチェルお姉さまが、変わってしまう前は、よく色々とお話してくれたけど、お姉さまが変わってしまってからは、黒くて怖いのがついていたから近づけなかった…」


「でも、小さな緑の子は怖くなかったから、どんな子かよく見たかったの」


 私だけではなく、側でロータルとロッテの話を聞いていたマルティナも、二人の言葉に衝撃を受ける。


 二人の話が本当であれば、私に憑りつく存在がいる事、私が転生者である事、私にリーフがいた事、全ての情報を知っていた事になる。私は二人が、転生する前の私が首を吊った事や、二人が後妻の子ということで、私に近づかないように誰かから言われている物と思っていたが、ここまでの『見える』能力を持つ人物だとは思いもしなかった。


「ねぇ…」


 私は二人に震える声で声を掛ける。


「レイチェルちゃん、いるかしら?」


 私が二人に色々と問い質そうとしたときに、ロータルとロッテの二人の後ろの廊下からセクレタさんの声が響いてくる。


「あら、ロータルとロッテちゃんね、レイチェルちゃんはいるかしら?」


「レイチェルお姉さまはいるよ」


「そのお友達のお姉ちゃんもいるよ」


 二人が振り返って答えると、セクレタさんが姿を現す。


「レイチェルちゃん、マルティナちゃんもいるのね、そろそろ時間よ、付いてきてもらえるかしら?」


「えっ、あっ、はい」


 私は色々と困惑していて、しどろもどろになりながら答え、混乱する頭の中を色々と整理しながら、セクレタさんの後についていく。その時にロータルとロッテはどこかに走り出して消えてしまった。


 私は、セクレタさんの後に続きながら、先程のロータルとロッテの発言について色々と考え込む。あの二人が私に関する異常をそこまで知っているというのなら、その事を父や母にも話したのであろうか?


 私は、自分の両親どころか、この家の者には私が転生者である事を誰にも告げていなかった。私が転生者であることを他人に知られたのは、マルティナが眠りから目覚めた時に、うかつに失言して露見してしまった時が初めてである。


 それまではずっと、誰にも、リーフにも私が転生者である事は黙っていて秘密にしていた。マルティナが目覚めた際に、ディーバ先生に私が転生者である事を知られた事についても、安心しろと言って下さったし、他人に言いふらす事もなかったであろう。


 しかし、やはり教師という立場から、私の両親には話しているのであろうか…でも、今まで、ディーバ先生が私の両親と話す機会なんてなかったし、今日が初めてである。


 もしかすると、あの時の先生の余裕の態度や驚きの無い様子は、事前にロータルとロッテから両親に私の話が伝わっており、その両親からディーバ先生に話が伝わっていたのであろうか。


 もしくは、ロータルとロッテは両親に私の秘密を話しておらず、ディーバ先生も話していないという事であれば、ロータルとロッテ以外の両親や家の者は、私が転生者である事をしらない可能性もある。


 今から引き返して、ロータルとロッテの二人に問い質した方が良いだろうか…


「あの…セクレタさん」


「なにかしら、レイチェルちゃん」


「私たちもその、現場の下見に立ち会わないといけないのでしょうか?」


 私は、立ち合いを失礼して、今すぐにロータルとロッテの二人を問い質したく、セクレタさんに下見の欠席を仄めかす。


「ディーバ様から、レイチェルちゃんを呼んでくるように言われたのよ。なんでも精霊ちゃんの事もあるそうだから」


 そうだ…そうだった、私がここに来た目的は、ただ先生の案内をするだけではなく、眠ったままのリーフを回復させるためだ。だから、先生がリーフの為に私を呼び出すのなら、私が欠席することが出来ない…でも、ロータルとロッテの二人に話をしたい…


 私は唇を噛み締める。


 すると、私の様子をとなりで心配そうに見ていたマルティナが突然、声をあげる。


「あ~、私、ちょっと、お花を摘みたくなっちゃった」


「あらあら、マルティナちゃんったら、待っててあげるから、早くいってらっしゃい」


 セクレタさんはころころと笑いながらマルティナを見る。


「えぇっと、私、お花を二つ、摘みたいのでちょっと…いや、かなり時間がかかるかも… だから、二人で先に行っててもらえますか?」


 マルティナは私にアイコンタクトを送りながら、笑って答えた。


「えっ? お花を二つ摘む?」


 セクレタさんは、マルティナの言葉の意味が分からずに首を傾げる。


「えっと、マルティナは、小と大を一緒にする方で、しかも便秘気味なんですよ…急かせたら可愛そうですので、ささっ、セクレタさん、私たちは先に行きましょう」


 私はマルティナの言葉の意図を理解して、セクレタさんの背中を押して、先に行くことを促す。


 マルティナが言っていた、お花を二つとは、おそらくロータルとロッテの二人の二人の事であろう。マルティナは私の代わりに二人に話を問い質すつもりなのだ。


 私のマルティナの善意の乗り方に、マルティナは複雑な顔をしていたが、納得したように踵を返して、ロータルとロッテの二人の捜しに向かい、私とセクレタさんの二人は、リーフの本体があった場所…私が私になる前のレイチェルが首を吊った樹木のある場所へと向かった。



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※はらついの次回は現在プロット作成中です。

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