第124話 衝撃の報告

「みなさん、お久しぶりです~」


 二週間ぶりにシスティーナ王女が姿を現し、私達に挨拶をしている。


「えっ? シス王女様?」


「お、お久しぶりです。シス王女様」


「御久しゅうございます、システィーナ王女様」


 マルティナ、私、コロン嬢の順番で、戸惑いながらもシス王女に挨拶を返す。


「しかし、本当にお久しぶりですねシス王女様」


「えぇ、ご無沙汰しておりまして申し訳ございません、レイチェルさん」


 二週間ぶりとはいえ、私に言葉を返すシス王女の感じはほとんど変わっていない。


「本当に二週間も、心配しておりました。どうされていたのですか?」


「えぇ、本当に申し訳ございません、色々とございまして」


 マルティナに含んだ言葉を返して、シス王女は微笑む。


「でも、お元気そうでなりよりですわ、これからも一緒に勉学に励みましょう」


 コロン嬢は、いつもの取り巻きのアレン皇子たちがいないので、ご機嫌でシス王女に言葉を掛ける。


「すみません、ご一緒したいのは山々なのですが…」


「あら?いかがいたしました?」


 シス王女の口からお断りの言葉が出て来たので、不思議に思ったコロン嬢は目を丸くする。


「今日、皆さまの前に参りましたのは、休学のご報告をする為なのです」


 コロン嬢だけではなく、私とマルティナもシス王女の言葉で目が丸くなる。


「どうして休学を!?やはり以前休んでおられたのが足をひいているとか?」


「もしかしてこの学園が嫌になったからとか?」


「祖国で何かあって戻らなければならなくなったとか?」


 それぞれが思い思いの考察を述べていく。


「いえ、その…」


 シス王女は、顔を赤らめながらもじもじし始める。


「その、私、身重の身体になったようですので…」


 私たちはシス王女の言葉に、息をする事すら忘れるような衝撃をうける。


「み、み、身重って、太ったって意味じゃないですよね…」


「あら、マルティナさん、私のお腹はまだ膨らんでおりませんよ」


 マルティナの言葉にシス王女はお腹を突き出して見せる。確かにまだ膨らんではいない。


「で、では、身籠られたということですか?」


 私は敢えておめでたと言う言葉をさけた。


 そして、シス王女の妊娠が確定した後は、相手は誰であるかという事が問題になるが、今までのシス王女の交流から察して、その名前を上げるのは憚られた。


「ど…」


 私たちが一番配慮していた人物が口を開く。


「どなたの…お子様ですの…」


 コロン嬢は見た目は平静を装っているが、顔色は今にも貧血で倒れそうなぐらいに青白く、また、声もまるで搾りだす様にたどたどしく、また弱々しかった。


「えっ、その…アレン皇子ですっ!」


 私たち三人が一番聞きたくなかった名前がシス王女の口から出てきた。


 カラーンッ


 コロン嬢の所から何かが床に落ちる音が響く。コロン嬢がいつも持っていた扇子を手から滑り落としていた。


「コロン様…」


 マルティナが呼びかけるが、コロン嬢の顔は先程よりさらに青白くなっており、瞳の焦点は小刻みに揺れ、指先はわなわなと震えていた。


「大丈夫ですか?コロン様」


 コロン嬢をそうさせた張本人であるシス王女はきょとんとした顔で尋ねる。


「…失礼致しました…システィーナ王女様…それとご懐妊おめでとうございます…」


 コロン嬢は私の目から見て、まるで精巧な機械人形のように、シス王女に頭を下げて、お祝いの言葉を送った。


 しかし、上がってきた顔を見ると、何時倒れてもおかしくない程、血の気を失っていた。


「シス王女、申し訳ございませんが、午後の授業が御座いますので、後ほど改めてお祝いのお言葉とお話をさせて頂きます…では、失礼…」


 顔色だけ見れば、とても一人で歩けるような状態には見えないが、コロン嬢は静々と私たちの前から去っていく。シス王女もその背中を見送った。


「あら、コロン様はどうもお加減がよろしくなかったようね…大丈夫かしら?」


 この言葉がコロン嬢の胸の内を分かった上での発言であるならば、シス王女は相当な悪女であるが、どうも巣の状態で言っている。


 空気が読めないだけなのか、それとももともと文化が違い過ぎるのかは分からない。しかし、シス王女の妊娠が大問題になる事だけは分かる。


「それでは、他の人への挨拶周りもありますので、私も失礼いたしますね、レイチェルさん、マルティナさん、また御機嫌よう」


 シス王女はこれから巻き起こるであろう大騒動の事など露程もにも思っていない笑顔で去って行った。


 私とマルティナは衝撃のあまり、暫く呆然としていたが、すぐにコロン嬢の事を思い出して、後を追ったがその姿を見つける事は出来なかった。そして、午後からの授業にもコロン嬢の姿もシス王女の姿も見つける事は出来なかった。



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