第122話 マルティナの気遣い

 翌日、私は学園に登校していた。マルティナも同様である。マルティンはリーフに生命力供与を行っているので、相当辛そうではあったが、先日の誘拐事件の関連性を払拭するために登校するようにとのディーバ先生からのお達しであった。


 私自身も、昨日の意思のない人形の様な状態からは少し回復している。私の生きる気力が回復し、私からリーフに生命力供与が出来る様になれば、リーフは実家の大地に戻すことなく、回復させることが出来るからだ。


 しかし、そうといっても私の気力の回復の兆しは僅かしかない。やはり、魔法陣を埋め込まれ、時限爆弾でも仕込まれた状況には変わりないからである。前世で見る事が出来る知人のトモコが言っていたように、『アイツ』は私の幸せをスポイルしていると言っていたが、やはりこの世界においても同じなのだ。


 そして、当の本人であるリーフは、今現在、ディーバ先生の下にいる。魔石による回復や、先生とマルティナの生命力供与があったとしても、予断を許さない状況であるのはかわりない。ならば、知識も技術もない私の所にいるよりも、知識も技術もあり、さらに設備まで整っているディーバ先生の所にいた方がリーフの為になる。


 このような状況に於いても私の無力さを思い知らされて、更に気持ちが萎えていく。


 どちらにしろ、明々後日には私の実家に向かってリーフがどうなるのかが決まる。


「レイチェル、午前の授業も終わったし、お昼に行こうか」


 マルティナは怠そうな身体を持ち上げ、私を昼食へと誘う。


「そうね、行きましょうか…せめてお腹だけでも満たさないと気力が回復しないわ…」


「私も、身体を動かしていないけど、なんだかお腹がすごく減るのよ」


 そう言って、マルティナは空腹をアピールするようにお腹を押さえる。


「ごめんなさい、マルティナ…リーフの為に…」


 マルティナが消耗しているのも、お腹が空くのもリーフに力を供与している為だ。


 私はマルティナに負い目を感じて、自然と頭が下がる。


「いやいや、別にいいのよ、レイチェル。ほら、お腹が空けば、色々なものを一杯食べられるし」


 そう言ってマルティナは誤魔化し笑いをして、食堂へ向かっていく。


 その道すがら、私は胸の内に込みあがる思いがあった。


「どうして、マルティナは私はリーフの事をそんなに気遣ってくれるの?」


 私は思わずマルティナに尋ねていた。


「えっ? 急にそんな事を聞くの?」


 マルティナは私の突然の言葉に目を丸くする。


「そうね…人として当然だからと言っても、レイチェルは納得しなさそうだし… そうね…レイチェルにとってのリーフがそうであったように、私にとってのリーフがレイチェルなのよ」


 マルティナはにかーっと笑って答える。


「貴方にとってのリーフが私って、どういう事?」


「レイチェル言ってたでしょ? 転生したてで心細い時にリーフちゃんがいたからやってこれたって、私も同じ、転生したてで心細い時にレイチェルがいたからやってこれたのよ。だから、私はレイチェルに恩義を感じているし、そのレイチェルを守っていたリーフちゃんにも恩義を感じているの」


 私はそのマルティナの言葉がとても嬉しく思えた。先程まで無力と思っていた自分自身が誰かの為になれていたなんて思いもしなかった。


「ありがとう、マルティナ、そんな事を思っていてくれたなんてとても嬉しいわ、今日の昼食は私が奢るわ」


「えっ!? 奢ってくれるの!? 本当にいいの? 私、滅茶苦茶お腹空いているから、今日は一杯食べるよ?」


 マルティナが瞳をキラキラと輝かせる。


「いいわよ、学園の食堂は一般人もいるから良心的な価格だから、全メニューを頼んでも大丈夫よ」


「あはは、流石に全メニューはないかな~」


 そう言って笑い声をあげるマルティナを見ていると、こちらまで元気が出てくる気がする。本当にマルティナの存在は助かる。


 私はマルティナには聞こえない小さな声で「ありがとう」と呟く。


 マルティナは聞こえたかどうかは分からないが、にっと微笑む。



「さて、実際に奢ってもらえて食べ放題となると、どれを選ぶか難しいわね…」


 マルティナは作り置きされた食品が並べられた棚を睨み楢が言葉を漏らす。


「マルティナ、別に遠慮しなくてもいいのよ、こちらの一般学生向けの作り置き食品ではなくて、貴族向けの方でもいいのに」


「いやいや、こちらの方が実際に自分の目で見て確かめられるからいいのよ、それに食べ放題といっても胃袋には限界があるから、厳選しないとトレイに載り切らないし、太っちゃうから…」


 そういうマルティナの要望で、注文の度に調理し始める貴族向けの受付ではなく、作り置きの品が並べられて、好きなものを選んでいける一般人向けの受付に並んでいる。


「トレイに載り切らない分は、私のトレイに載せていいわよ、太る方は知らないけど…」


「えっ?レイチェルのトレイにも載せてくれるの? じゃあ、選びたい放題にするわね、もう後は野となれ豚となれ~って感じでいくわ」


「山じゃなくて豚なんて…」


「未来の自分に問題を先送りにするわ」


 マルティナは私の顔を見てにっこりと笑う。私もマルティナの笑みに口角が上がったような気がした。


 その後、私の学生証で支払いを済ませると、良い座席を捜す為、二人で食堂の座席を見回す。すると、奥の座席でコロン嬢が金髪縦ロールを揺らしながら手を振っている姿が見える。


「あっコロン様だわ」


「私たちを読んでいる様ね、行きましょう、マルティナ」


 私たちは山盛りになったトレイを持ってコロン嬢の所へと向かう。


「御機嫌よう、マルティナ、レイチェル様、お二人とも今日は山盛りなのね」


「御機嫌よう、コロン様、ちょっと私、お腹が凄い減ってまして…」


「御機嫌よう、コロン様、お招きありがとうございます」


 私たちはコロン嬢に挨拶をして座席に座る。


「あら? レイチェル様は今日は元気があるのね、昨日は心ここにあらずって感じだったので心配したのよ」


「ご心配ありがとうございます、コロン様。その件に関しましては色々ございまして…」


「そうなの? では話して頂きたいのですけど…」


 そういってコロン様はマルティナを見る。


「マルティナがお預けされているワンちゃんの様ですから、先にお昼を頂きましょうか」


「えっ? わ、私、人間ですから待てぐらいできますよ?」


 マルティナが食品から顔を上げて答える。


「うふふ、私もお腹が空いているから、皆で頂きましょう」


 コロン嬢の言葉で昼食が始まった。



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