第118話 消え入りそうな灯
「リーフってこの子がレイチェルの精霊の?」
マルティナはリーフと私に顔を右往左往すし、最後に、床に倒れ込んだ、リーフを優しく拾い上げる。
「レイチェル! ちょっと、この子、意識がないみたいで、身体も透けかかっているんだけど、どうしたのよこの子?」
マルティナはリーフをまるで巣から落ちた小鳥の雛のように、優しく丁寧に両手で抱えながら私に向き直る。
「リーフ?」
私はマルティナの手の中のリーフに呼びかける。しかし、彼女はまるで死体の様にぐったりしており、返事がない。
「リーフ…リーフ?」
再びリーフの名を呼ぶが、彼女にはピクリとも反応がない。
私はゆっくりとマルティナに近づきながら、リーフに向かって両手を指し伸ばす。そして、マルティナの手の中からリーフを受け取ろうとした時に、リーフの頭や手足がまるで死体の様にだらりと垂れる。
ドクン
私は胸に衝撃を受ける。今日一日、私は様々なものを見て、触って、聞いてきて、何も全く感じななかったのに、今はとても胸が締め付けられるように苦しい。
「ねぇ、リーフ…」
私は手の中のリーフを顔に近づけて、再び声を掛ける。
「リーフ…リーフ、ねぇ、リーフ…リーフ!!」
手の中のリーフは、暖かさも、鼓動も何も感じない。私は何時しか大声を上げてリーフの名前を呼んでいた。
「マルティナ!! マルティナ!!! リーフが!! リーフが!!!」
私は泣き声のような声を上げながら、今まで返事を返す事をしなかったマルティナに寄り掛かる
「レイチェル! レイチェル!! 落ち着いて! 落ち着いてってば!!」
先程まで返事すらしなかった私に対してマルティナは、私の事を気遣ってくれる。
「そのリーフちゃんって子は精霊だったわよね?」
「そうよ! 私が転生した時からずっと寄り添ってくれた、この世界での私の最初のお友達なの!!」
今まで、励ましてくれていたマルティナの事を無碍にしておきながら、リーフの事になるとマルティナに頼り始める私は、なんて酷い人間なのであろう…でもそんな私でも、今はマルティナに頼らざるを得なかった。
「レイチェル、よく聞いて、リーフちゃんが精霊であるなら、生き物ではないの、だから、通常は体温も無いし、鼓動もしないわ」
「でも、いつもは暖かいし、鼓動だってちゃんとあったわ!!」
私はリーフの事を生き物扱いしない、マルティナに憤りを覚えながら声を上げる。
「だから、レイチェル!落ち着いてってば! 多分、リーフちゃんは個体の肉体を維持出来なくなっただけだと思うの!」
「マルティナ…ど、どういうこと?」
マルティナの説明に、マルティナが生き物扱いをしなかった事が、私の勘違いだとわかりる。
「リーフちゃんの身体があるこという事は、リーフちゃんはまだ死んでいないわ!」
「じゃあ…リーフは生きているの?」
「私は専門家じゃないから断言は出来ないけど、リーフちゃんは生きていると思う…」
「では、眠っているだけなの!?」
私がマルティナにそう尋ねると、マルティナは目を伏せる。
「いや、危ない状態には変わりないと思うの…だって、その身体透けかけているでしょ?」
マルティナに言われて、改めて手の中のリーフの姿を確認すると、確かに身体が透けかけている。
「いや…ダメ…リーフ…死なないで…」
私は再び手の中のリーフに呼びかけるが、先程と同じく死体の様に全く反応がない。
「どうしよう!マルティナ!! リーフが…リーフが!!」
「私だってわかんないわよ…でも…一人だけ…リーフちゃんを治せる人の心を辺りがあるんだけど…」
マルティナは目を伏せて、言いずらそうな顔をする。
「誰! 誰がリーフを治してくれるの! ねぇ! 教えてマルティナ!!」
私はマルティナに問いかけても、マルティナは暫く目を伏せて黙っていたが、ゆっくりと目をあげて私を見据える。
「…ディーバ先生よ…」
「…ディーバ先生…」
ディーバ先生…私が今まで一番頼ってきた人物であり、私を裏切って、呪いの様な魔法陣を私の胸に埋め込み、私の生きる意味を失わせた人物でもある。
私は、そんな人に、もう一度頭をさげて頼みごとをしなくてはならないのか?
私はそう思いながら、視線を落とすと、手の中のリーフの姿が目に映る。
私は、転生したばかりで、心細く思っていた私に、ずっと寄り添ってくれたリーフの為に、頭一つ下げる事も出来ないの?
そう考えたとたん、私の胸の内に、意思の力が蘇ってくる。
「マルティナ! 今からディーバ先生の所へ行ってくる!!」
「えっ!? 今から? もう就寝時間だけど…… 分かった! 私もついていくわ!!」
そう言ってマルティナは鼻息をならして、気合を入れる。
「ありがとう!マルティナ! では、これからすぐに礼拝堂に!」
そう言ってすぐに駆けだそうとしたが、私はあるものを思い出す。
「そうだ、リーフの本体の苗木を!!」
私はベッドの近くに置いてあるリーフの苗木の所へ駆け寄る。しかし、そこで見た物に衝撃を受け、息が詰まりそうになる。
瑞々しかったリーフの本体の苗木が、酷くしおれており、あれだけ生い茂っていた葉も、ほとんど散り落ちて、枯れ木の様になっていた。
「苗木が…苗木が…」
私は、その苗木の様子に胸を締め付けられるよな痛みと、もうダメなのかもしれないという絶望感が襲う。
「レイチェル! ここで諦めちゃダメ!立ち止まってはダメ! とりあえず、リーフちゃんの為にも先生の所へいかないと!!」
そうだ、ここで諦めたらリーフが生き返る可能性は0%だが、例え可能性が低くても先生の所へ行かなければリーフは助からないのだ。
「分かった! 私はリーフの身体を持つから、マルティナは苗木をお願いできる?」
ただでさえ、リーフの死体のような身体を持って、身体が強張って震えている私が、苗木まで持てば、落としてしまうかもしれない。
「わかったわ、苗木を持てばいいのね!? リーフちゃんの苗木…こんな姿に成っちゃって…」
マルティナは痛々しいリーフの苗木を憐みの目でみる。
「ごめんなさい、マルティナ、そして、ありがとう…」
「いいのよ、レイチェル、さぁ!行きましょう!!」
私たちは礼拝堂のディーバ先生の事務室へと走り出した。
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