第104話 証拠喪失

「先ず、私が部屋に侵入した時の状況を説明するが…」


 先生はそう言って、私とマルティナの様子を伺う。私とマルティナはあの部屋で起きた惨状をある程度理解しているので、二人とも話を受け入れる様に目で頷く。


「うむ、レイチェル君に憑りつく存在が出現して、三人の男が死んでいる状態であった…そして、マルティナ君が必死にレイチェル君に対して呼びかけていた。私はマルティナ君にも被害が及ぶのではないかと、新たに開発した魔法であの存在を封じようとしたのであるが…」


 ここまでは失いかけていた意識の中で聞いた覚えがある。


「私が魔法で封印するまでもなく、あの存在は鎖で強引に引っ張られるようにレイチェル君の中に戻っていったのだよ」


「私が意識が途切れる前に、マルティナの身を案じていたので、その思いがつうじたのでしょうか」


 もし、そうであれば、今後は私の意思であの存在を引き戻すことが出来る。


「…いや…恐らく、そうではないと思われる…」


 しかし、真っ向から先生に否定されてしまう。


「でも、実際に『アイツ』は引き戻されたのでしょ?」


 私は自分の実績が否定されたように思い、むきになって先生に反論する。


「いや、私もレイチェル君の意思であの存在を引き戻すことが可能であれば良いと思うが、実際にはそうではないのだよ…」


「そうではないとは?」


「以前、君が完全に気を失っている状況でも同じことが起きているのだよ。システィーナ王女の時だよ」


「システィーナ王女の時ですか? 私が倒れた後に事ですか?」


「そうだ…あの存在はシスティーナ王女に憑りつく霊を捕食する前に、その霊を霧散させてしまったので、私を狙ったのだよ…だか、鎖に意思があるように突然にあの存在を引き込んで君の中に収まったのだ…」


 確かにあの時、私の意識は完全に落ちていた。しかし、ディーバ先生を救うように鎖が働いたのか…それは私の無意識がそうさせたのであろうか、それとも鎖自体にそのような機能が備わっているのであろうか…


「とりあえず、あの存在を操れるなどと思わない方が良い、どうなるかわからん」


「そうですね…肝に銘じます…」


 私の過信が知人の命…いや、魂を喰われるので存在すら危ぶまれる事になってしまう。気をつけねば。


「とりあえず、話は戻すが、君たちを誘拐した男たちは、その存在が身体に憑りつき、血流を操作したようで、その…頭が破裂していて人物を特定する事すら困難な状態だ…また、特別な事件の場合には死霊術師などに依頼して、死者の霊を呼び出して尋問することもあるが、今回の場合はその死者の霊すら存在しない…」


 死霊術師と言えば死者の霊や肉体を操る悪者だと思っていたが、この世界では犯罪操作に使われるのか、死人に口なしというが、この世界の死人は証言をするのか。


「あれ、それなら私たちを誘拐した犯人は、どうして私を殺して口封じをしようとしたのでしょう?」


「あぁ、死霊術師による死者の証言は貴族の関わる事件でしか扱われないので、一般人では知らないのであろう」


「そうなると、私たちを誘拐した犯人は、一般人で貴族ではないという事がわかるぐらいですか…」


 これでは私が手がかりの証拠を消してしまったのと同じだ。申し訳ない。


「ふむ、確かに実行犯やその裏にいる計画犯に対する証拠は失われてしまったが、学園側としては今回の一件は強硬な手段で対抗処置をするつもりだ」


「強硬な対抗手段とは?」


 マルティナが先生に尋ねる。


「あぁ、学園内の掲示板に実行犯の末路を詳細に掲示するつもりだ」


「えぇ!? 末路を詳細に掲示するって…頭が弾けた事を!?」


「そ、そんな事を掲示板に…!?」


 私とマルティナは声を上げて驚く。前世の日本では頭を強く打ちなどといってボヤ化している所を、この世界では包み隠さず公開してしまうのか。


「そうだ、実行犯の末路を掲示すれば、次の実行犯が送られてきても、恐れをなすだろう。誰もそんな無残な死に方をしたくはないからな。その他にも、今まではそこまではしていなかったが、学園の敷地に入る場合には、身分証の提示を求める様にした。君たちも普段から学生証を所持しておくように」


「はい、わかりました先生」


 私は普段から所持しているので問題ないが、マルティナは目が泳いでいる、きっと無くしてしまったのであろう。


「あと、実行犯からの手がかりは失われてしまったが、あの空き家を手配をしたものがいるはずだ。そちらの方から計画犯を洗い出して見る」


「そうですか…学園の施設を管理している物が手を貸している可能性があるのですね…」


 そうなると、計画犯はちょっとやそっとの権力の持ち主では無いかもしれない… 意外と大きな人物が黒幕なのであろうか…


「レイチェル君、早まるな、管理者が腐っていて手を貸した可能性があるが、脅されていたり魔法で洗脳されている場合もあるので、一概に手を貸したとは言い難い」


「そうなると、そちらの方も足取りを追うのが難しいですね…」


 先生の言葉に答えるマルティナのいう通りである。実行犯の確保も出来ず、手を貸したものも情報を追いにくい。


「確かにそうではあるが、帝国直轄の学園に手を出す輩など限られている。そちらの方も捜査が入ると思われる。いづれ尻尾を捕まえるはずだ。それまでは君たちは大人しく学園生活を続けなさい」


「えっ?私たち、普通に学園生活をすごしていいのですか? どこかで隠れたりしなくても人目を気にしたりしなくてもいいんですか?」


 学園生活を過ごせという先生の言葉に驚く。


「事件が起きたことは公表するが、君たちが関わった事は公表しないつもりだ。同行させた憲兵たちも私の手の者たち、漏れる事はないので安心しなさい」


 先生の言葉を聞いて、私とマルティナは互いの顔を見合わせる。


 確かに学業は学生の本文で、授業に参加しなくてはならないが、死亡事件が起きた後で、そのまま普通の学園生活を送るのもどうかとは思う。


「これがこちらの世界の常識なのよね…」


「そうね、前世での常識で考えてはダメね…」


 私とマルティナが二人で言葉を交わしていると、先生が口を開く。


「何を言っているのだ。死亡事件が起きたとしても学園は続けなければならないし、君たちが休んでいたら関係者ではないかと他人に勘ぐられるであろう」


「そう言う事ですね、わかりました…」


 なるほど、学園生活を続けろというのは労わりがないと思っていたが、私たちが関係者と悟られないようにとの先生の気遣いだったのか…分かりにくいですよ、先生…


 こうして、私は準備されていた制服に着替えると、早速、午後の授業から参加する事となた。

  

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