第066話 魔力視認
「レイチェル、貴方は見える様になった?」
礼拝堂のディーバ先生の所に報告に向かう途中でマルティナが尋ねてくる。
「いいえ、ダメだったわ…貴方は?」
「私もダメだった…」
マルティナはガクっと項垂れる。
「やはり、私たちは魔法の無い、日本から来たから見えなかったのかしら?」
「そうだとしたら残念よね、折角、魔法のある世界に来たのに色々と試したいなぁ~」
今度はぷくっと頬を膨らませる。
「マルティナは魔法を使って変身とかに憧れていたのかしら?」
「えっ?いやいや、この歳で変身はちょっと恥ずかしい… あれが出来るのは小学生まででしょう」
二人でくすくすと笑う。
「日本にいた子供の頃は、変身して魔法少女とかになりたかったでしょ? でも、ここに来て出来るかも知れないのに恥ずかしくて出来ないというのは、ちょっと不思議よね」
「それは、少女から女性に成長したからだと思いたいわ…」
ちなみに私たち二人は大人の女性と言うほど、身長は高くない。
「でも、私たちはまだ15歳よ、女性と言うにはまだ早いんじゃないのかしら? だから、まだ間に合うかもよ?」
「その少女と女性の間の微妙な思春期だからこそ、余計に恥ずかしい恰好はしたくないのよ。というか、レイチェル、どうしてそんなに魔法少女推しをするのよ」
マルティナは不思議そうな顔をしながら私に尋ねる。
「なんだか、マルティナは魔法少女が似合いそうだなって思って」
「えぇ!? ホント? 似合いそうなの?」
マルティナは私の言葉に顔を赤くする。冗談で言ったつもりが、本人には少しその気があるようだ。確かにマルティナは魔法少女が似合いそうではあるのだけれど、大きなお友達向けである。
「あっ、ディーバ先生の部屋の前についたわ」
「えっあっ、そうね…」
私は扉をコンコンとノックする。
「誰だ」
「レイチェルとマルティナです」
「入り給え」
私たちは部屋に入室し、ソファーに腰を降ろす。先生も事務机から私たちの前のソファーに腰を降ろす。
「レイチェル君、診療所の方はどうかね?」
最近、放課後は診療所に向かっていたので、先生の所に訪れるのは数日ぶりである。
「まだ、慣れていないので、まだまだでしょうか。診療所にはテレジア嬢がおられるので、彼女の手伝いをしながら、治療魔法の練習をしております」
「うむ、そうか、治療魔法は上達しているかね?」
やはり、善行を積み善性を高めるためには、テレジア嬢のお手伝いの立場ではなく、自ら患者に治療を行う方が良いであろう。だが、その為に治療魔法の上達が、魔力が見えない事で上手くいっていない。
「いえ、あまり…その事で、私とマルティナとで、ちょっとした同じ問題が発生しているので、そのご報告と相談にお伺いしたのです」
「治療魔法に関わる、マルティナ君と同じ問題?どういう事だ?」
ディーバ先生は片眉を上げて私に尋ねる。
「私とマルティナは魔力を視認する事が出来ないのです」
「はい、今日の魔法技術の時間でも先生に相談して解決方法を教えてもらったのですが、あまり上手くいってなくて…」
私とマルティナの二人が先生に状況を説明する。
「二人そろって魔力を見る事が出来ないとは、母数が二人だけだが、転生者である影響か…」
「そうですね、私たちの元居た世界では魔法なんてものはありませんでしたから、見えないのが普通ですね」
「たまに霊が見える人がいても、それぞれ言っていることがバラバラの場合が多いので、居たとしてもちゃんと見えていない人ですね」
マルティナが付け加えて説明するが、確かにテレビ番組での霊能者たちは、それぞれに言っていることがバラバラな事が多かった。あの人たちは本当に見えていたのであろうか。まぁ、魔力とはちょっと異なるが、似たようなものだろう。
「ふむ、では私流のやり方で見えるかどうか試してみようか」
ディーバ先生はそう言うと、立ち上がり、戸棚から燭台と蝋燭を取り出し、火をともす。そして、窓の厚手のカーテンを閉めて、その上から手をかざして魔法を掛け、部屋の中を暗くする。その為、部屋の中の明かりはともした蝋燭だけとなる。
「先生、何をするんですか?」
「その蝋燭の明りに手を翳してみなさい」
私とマルティナは意図が分からないが、先生の指示通りに、蝋燭の明りに手を翳す。
「そして、翳した手の指先の少し上の空間を見てみなさい。じっと見ていると湯気のような物が立ち上がっていくのが見えるはずだ」
こんなことで見えるようになるのだろうかと思いつつ、じっと明りに翳した指先を凝視する。
「あっ、見えた! 湯気みたいなのが昇ってる!」
隣で、同じことをしていたマルティナが驚きながら声を上げる。
「見えたか、では、指先に力を込めて、出ている湯気の量を増やして見たり減らしてみたりしてみなさい」
マルティナは先生の言葉通りに、眉をしかめてぐっと指先に力を籠める。
見える様になったマルティナを隣で羨ましそうに見ていた私は、指先に向き直り、ぐっと眉間に皺を寄せて指先を凝視する。
「凄い凄い! 湯気がいっぱい出たり、少なくなったり操作できます!!」
次の段階も出来る様になって、マルティナは子供の様にはしゃぎだす。
「うむ、マルティナ君は順調だな。では次は、その湯気をじっとよく見てみなさい。湯気の周りに色が見えたり、湯気自体に色が付いたりするはずだ」
「えっ?それは本当ですか?」
マルティナは答えると、指先にじっと顔を近づけて凝視し始める。私も負けじと指に顔を近づけるが、一向に湯気が見えてこない。
「あれ?これ?色が付いてきたのかな?」
やはり、先にマルティナが声をあげて反応する。
「どうした、マルティナ君」
「いえ、色がついている様にも思えるのですが、その色が黄色っぽいので、蝋燭の炎の色かも知れないので」
「なるほど、そうか」
ディーバ先生はそう言うと、戸棚に行って、白いすりガラスの様な物を持ってきて、指先と蝋燭の炎の間に差し込む。
「これでどうだ?」
「あっ! やっぱり色が付いています! 黄色です! あと、ちょっと緑かかっています!」
マルティナは興奮して鼻息を荒くしながら、先生に答える。
「うむ、これでマルティナ君の方は大丈夫だな。今後も同じ練習をしていれば、普段から魔力が見える様になる。鍛錬を積みなさい。レイチェル君の方はどうかね?」
「それが…全く見える気配がありません…」
私は伏目がちに答える。
「少しも見える気配がないのか?」
「はい…全くです…」
私は先生に答えて、首を項垂れる。私は自分がダメな子の様に思えて空しくなる。
「ふむ…では、私が診察してみようか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
※作中で書いていた、指先から湯気を見る方法ですが、
これ、9割の現代人でも見れるようになります。試してみてください。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
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作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。
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