第032話 意外な食べ物と報告
次の日、私の部屋でお茶会をした私たちは、皆で朝食を一緒に摂り、それぞれの授業へと向かう。
今までの私は、館の中でほぼ家庭教師のセクレタさんと二人きりで、勉強付けの毎日であった。しかし、こうして同じ年齢の友人とお茶をしながら、たわいない話をして、一緒の時を過ごすことによって、ようやくこの世界での生活というか、生きる事に対しての実感を得られるようになってきた。
今日は朝食を一緒に摂れたし、昼食や夕食も皆と話しながら一緒に摂りたい。そういえば、近々、休みがあるので、折角、帝都まで来ているのだから、皆とお出かけなんていいかもしれない。
そんな事を考えながら校舎へと向かう。ちなみに今日の授業は午前中の二コマだけで、午後からは自由である。昼食を摂ったら、学園の事務室に行って、先生に進められていた神智学の授業と、リーフの事やサナーと一緒に受講できるので農学関係も受講してもいいかもしれない。その後、ディーバ先生の所へ行って、ジュンたちにマルティナ嬢の事を話した事を報告して、ついでにマルティナ嬢も見舞っていこう。
そうして、私は問題なく午前中の授業を済ませる。本来であれば、何かと乙女ゲームのイベントが起きるはずであるが、イベントが起きるどころか、『攻略対象』や『悪役令嬢』達にも出会わない。今日の授業は選択科目が多かったので、たまたま重ならなっただけか、それとも、マルティナ嬢の不在で乙女ゲームの物語の進行にトラブルが起きているのか…
学園での友人や、ディーバ先生という理解者というか協力者ができたので、乙女ゲーム関連も機会をつくって調べてみようかと思う。
まぁ、とりあえずは昼食である。食事的にも友人との時間を過ごすのにも楽しみの時間だ。私は学食に向かうと既に学食の列に三人の姿を見つける。ここの学食はお貴族様用の優先列(高価なメニュー)と一般人向けの列がある。三人の姿があるのは一般人向けである。
「よかったわ、皆と逢えて」
私はそう声をかけながら三人と一緒に列に並ぶ。
「あぁ、レイチェルさん、いらっしゃい、でも一般列でいいんですか?」
ニースはそう声を掛けてくる。というか恐らく貴族向けの昼食を見たかったのかもしれない。
「貴族列側って、高いメニューばかりだから… それに私はそんなに美食家でもないので」
元々の前世の玲子は一般人だったので、舌はあまり肥えていない。というか、最近ではコンビニで買えるようなチープなものが恋しくなっている。
「私はマイ調味料を持ち歩いているので、どんなものでも美味しく食べてますね」
ジュンがそういってかばんの中の調味料を見せてくれる。
「ここの学食はさすが帝都だけあって、様々な地方の食材がはいってきてますので、一般向けでも十分楽しみです」
そう言うのは、農学を専攻しているサナーである。さすが視点が農学に携わる者である。
そして、皆でトレイに各々の昼食を受け取り、開いている席へと向かう。
「では頂きましょうか!」
皆が席についた所で、ニースが音頭をとる。
「あれ?」
私はあるものに目が付いて、声を上げる。
「どうしました? レイチェルさん」
私の声と、自分に向いている視線に気が付いたサナーが首をかしげる。サナーの目の前のトレイには丼に茶色いスープと白く太い麺、別の更には白いつぶつぶで形作られた三角形の物があった。
「私のうどんとおにぎりが珍しいですか?」
『うどんとおにぎり! なんで日本食がこの異世界に!』
と思ったが、よくよく考えると歴史を学んだ時に日本人っぽい名前が出て来たので、おそらく、私より以前にこの世界に来たものが広めたのかも知れない。
「えぇ、話しでは聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったから」
そう言って誤魔化す。
「まぁ、南方の地域の食事ですからね、この辺りでは珍しいですね。あっ、ジュンさん、調味料の辛いの貰えます?」
「つーんとする奴?それともヒーってする奴?」
「ピリってする奴で」
サナーはジュンから赤い粉末が入った小瓶をジュンから受け取ると、うどんの上にぱらpらと掛ける。この世界には一味まであるのか…私が知らないだけで、もしかするとこの世界への日本食汚染はかなり進んでいるのかも知れない…
私も今度挑戦してみようと思いながら、皆との昼食を済ませた。その後、まだ授業がある皆とは別れて、私は学園の事務に行き、新しく受ける授業の手続きを行う。その後で、学園内の売店で新しくとった授業の教科書を購入する。
「さて、自分の用事は済んだので、ディーバ先生の所に行こうかな」
私が礼拝堂へと進むと、昨日の様な警備兵の姿はない。表だけかなと思い、どんどん中に進んでいくが、やはり警備兵は配備していない。昨日の警備兵は恐らく私を警戒する為のものだったのであろう。そう考えると昨日の自分自身の警戒心のなさに少し情けなく思う。
私は先生の部屋の扉をノックし呼びかける。
「ディーバ先生、いらっしゃいますか? レイチェルです」
「レイチェル君か入り給え」
私は入室を許可され、部屋の中に入る。今までの異なるのは、扉のすぐ前に椅子が一つ置かれていたのだが、今日はその椅子が無い。
「今日はそこのソファーに座りなさい」
いつも私と先生の間に立ちふさがっていた応接セットのソファーに座るよう指示される。
「やはり、禍々しいな…」
私がソファーに腰を降ろし正面を向こうとした時に、ディーバ先生の声が掛かる。
「いや、済まない… 君の事ではなく、君に憑りついているモノの事だ」
訂正しなくても分かるが、恐らく私を気遣っての言葉なのであろう。
「私自身には全く見えないので、なんとも言えません。それよりも、私に憑りつくモノがもっと多くの人に見えていないのが不思議ですね」
私は先生の言葉に返しながら、自分の疑問点について述べる。この世界は精霊や魔法がある世界であるのに、『見える』人間が少なすぎる。もっと数多くいても良いはずだ。
「うむ、昨日も説明したように、気力のエーテル体、魔力のアストラル体、精神・感情を現すメンタル体は、戦闘時や交渉時に相手の出方を見るために、その技能を習得しようと心がける者は多いが、その必要性と習得の時間と労力に大変さから、魂などのコーザル体以降の存在を目視しようとする事はほとんどいない」
「では、見える人は少ないのですね…」
なるほど、いくら技術があるとはいえ、志す者は少ないのか…
「ところで、昨日の今日であるが、何か変わった事はあったか?」
「いえ、特に、寄宿舎の友人やメイドにマルティナ嬢の事を話した程度ですね」
「そうか、それは構わない。私の方でも、いつまでも黙っておくわけにはいかず、今朝、親御さんのジュノー卿や使用人たちに連絡を入れた所だ。もちろん、君の憑りつくモノによってこの様な状況に陥った事は伝えていない。君はあくまでも、マルティナ嬢を保護した人物として連絡してある。君も憑りつくモノの存在は口外しないように」
親御さんに連絡したのか、というか今までしていなかったのが驚きである。先生の権力が強いのか、それとも学園が隠蔽体質なのか...どちらにしろ、ここでマルティナに使えている使用人たちは大変だっただろう。なんせ、突然主人が帰って来なくなったのだから。
「口外するなというのは治安上での事ですか?」
私は思わず尋ねてしまう。私に憑りつくモノが学園や帝国にとって危険な存在で隠蔽する必要があれば、私もそれに対応した身の振り方をしなくてはならない。
「勿論、その事もあるが、君の学園生活にとっても、その様な存在は不要であろう」
私を気遣ったまともな答えが返って来たので、学園と先生を疑っていた自分を少しだけ責めて押し黙る。
「報告は以上かね?」
押し黙る私に先生が声を掛けてくる。
「あっ、はい、以上です」
「では、最後にマルティナ嬢の状況も見てくれないか、昨日と状況に変化がない。再びマルティナ嬢を見れば、君も何か思い出すかもしれない」
「分かりました」
そして、私たちは再びマルティナ嬢の眠る部屋へと移動した。
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。
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