第030話 見舞い

「涙はもういいか?」


「はい、先生、取り乱して申し訳ございません」


 結局、先生は私が泣き止むまで、側で見守ってくれた。


 私の先生に対する今までの印象は、険しく厳しいイメージであったが、それは私に憑りつく『アイツ』を警戒していた為のもので、本来の先生はこの様に優しさをもった人物かもしれない。


「君は一人で悩んでいるようだが、君は一人ではない、ちゃんと君を大切に思ってくれている人々がいる。私やリーフ…そして、寄宿舎にもどったらメイドにも礼を述べておきなさい」


「メイド…エマの事ですか?」


 突然エマの話が出て来たので、少し驚く。


「あぁ、君のメイドは、私が憲兵を使ってリーフの苗木を押収しようとしたのを、令状がないといって、最後の最後まで抵抗して、苗木を護ったそうだ」


「エマが私の為に…」


 憲兵が話しの途中で入ってきて、先生が令状がどうだとか言っていた時の事か、あれはエマの事だったのか。小さいエマが大人の男性に毅然と立ち向かう事は相当な勇気が必要であっただろう。


「さて、今日も査問は以上で終了だが、最後にマルティナ嬢の様子を見てくれないかね?」


「マルティナ嬢ですか?」


「あぁ、そうだ、君の話では、背後霊と言うものが消え去り、魂が欠損しても、新しい霊がおりてきて回復するのであろう? しかし、マルティナ嬢にはその傾向が見られない。私もどうすれば良いかと悩んでいる所なのだ」


 玲子時代のあの事件では、実施に自分の目で二人が回復する所を見たわけでもないし、あのトモコ以上の知識がある訳でもない。しかし、私に関係した事件で、私自身がこの礼拝堂に運んだ以上、捨て置くわけにはいかない。


「分かりました、参りましょう」


 私が頷いて答えると、すぐにマルティナ嬢の所へ案内される。ちなみにリーフも鳥籠から解放され、私の肩に乗って共にマルティナ嬢の所へ向かう。


 案内された場所は直ぐ近くの部屋で、マルティナ嬢は清潔なベッドの上に寝かされていた。ベッドの上のマルティナは私が運んだ時のような、白目で恐ろしいことにあった後の顔ではなく、瞳を閉じて穏やかな顔をしている。その様子はただ眠っている様にしか見えない。


「本当に穏やかに眠っている様にしか見えませんね…」


「あぁ、最初、運ばれた時は、もっと酷い顔だったが、今は落ち着いているのでそう見える。だがしかし、目覚めようとはしない」


 私はあの事件の事をもう一度思い出す。あの時は、私が襲われた後、神社に運び込んだので19時ぐらいであった。それから騒ぎになって、二人が発見されたのが明け方との事。時間にすると5時6時ぐらいだと思う。その間の時間は10時間ぐらいであろうか。


 その後、二人は人が変わったような善人になったので、ちゃんとその10時間の間に神社で良い霊が入ったものと思われる。彼らが再び通学するようになったのは一週間程後なので、魂の補完にそれだけ時間がかかったのであろうか…


「私の記憶では10時間ほどで新しい背後霊が入ったものと記憶しております、それから回復まで一週間程掛かる様ですが… 新しい背後霊が入っているかどうかは確認できますか?」


「そこが問題なのだ。神智学に於いては世界は界層構造を持ち、それに対応する形で人間も体・魂・霊の三元に分類されている。君の言う背後霊と言うものが、どれに分類されるものなのか分からないのだ」


 ちょっと、いきなり難しい話になってきた。


「でも、人間が体・魂・霊の三元に分かれているなら、その霊と言う部分がそうなのではないですか?」


「いや、そうとは言えない。そもそも、人は肉体的身体と霊的身体を併せ持つと言われていて、霊的身体にあたるのが魂・霊とも言われている。魂が人間の人格や性格部分で、霊は神性や命そのものとも言われている。また別の学説では人間を構成する要素として、肉体・エーテル体・アストラル体・メンタル体・コーザル体に分かれているとされる。このうち、エーテル体は生命力、アストラル体は魔力・メンタル体は精神力と言われ、コーザル体が魂ではないかと言われている」


 ふむふむ、なるほど、後半のエーテル体などの話しは分かるような気がする。しかし、言われていると言っているのはまだ、確証がもてないのであろう。


「現在、コーザル体まで視認する魔法技術は確率しているが、君の言うところの背後霊なるものが、もっと上位の構成要素であれば、今の技術では見る事は出来ない。しかも、その背後霊というものは悪い者もいるようであるから、高位の存在とも思えない」


『魔法の使えるこの世界でもそのあたりの事は解明できていないのか…』


 私は先生の言葉にそう考えて、ある事に思い付き、チラリとリーフを見る。


「リーフは見る事が出来ないの? 私の魂を直接見る事が出来たんでしょ?」


「えぇ~見れないよぉ~ そもそも、私とレイチェルは繋がったから見れただけで、繋がっていないこの令嬢の高位の存在は見れないないよ」


「そう…簡単にはいかないものね… そういえば、私に憑りついているものはどうなのかしら?」


 『アイツ』も他の背後霊と分類的に同じようなものなのかしら?


「私の目やモノクルを通してみると、コーザル体に映っているが」


 ディーバ先生が答える。


「私の目には、レイチェルの魂の所から、こうにゅーっと出てきている感じに見える」


 身体を使ったリーフの説明は感覚的過ぎなので、ちょっと理解できない。


「とりあえず、一週間ほど様子を見てみるしかないか…」


「そうですね、私も先生に状況報告をするおりに、見舞って観察するように心がけます」


「マルティナ嬢が意識を取り戻すまでは、ここで保護しておくので、彼女の知人にはもう報告しても良いだろう。君も誰かに話すのであれば、倒れている所を保護したとでも言い訳をしておいてくれ」


 こうして、一時は逮捕・投獄される恐れのあったディーバ先生との話し合いであるが、先生との和解を果たすことができ、私は見事無事に解放されることとなった。



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