【 タマラ 】


 ワシは、幸運にも生きておった。

 草木がクッションとなり、零戦が大破することなく、無事、何とか不時着に成功していたんじゃ。

 しかも、燃料が無くなっていたことも幸いじゃった。

 不時着後、零戦は壊れてしまったが、幸いにも炎上することはなかったんじゃ。


 しかし、ワシはその零戦の中で、動けないでいた。

 堕ちた衝撃で、零戦の計器と機体の間に、左足が挟まれており、身動きが取れないでいたんじゃ。


「く、くそっ! 足が挟まっちまった……。抜けない……、ぐぐぐぐ……」


 ワシは、無理矢理、足を力任せに引き抜いた。

 すると、ワシの左足は無残にも、太ももから脹脛ふくらはぎにかけて、筋肉が削ぎ落とされてしまった……。


「う、うわぁーーっ!! く、くうぅーーっ!! 肉が……、く、くそぉーーっ!!」


 そこへ現れたのが、あの『タマラ』という女性じゃった。


「……XXXXXXXXX」


 少しおびえた表情のその女性は、聞き慣れない言葉をしゃべる。


「だ、誰だお前……!!」


「タマラ……」


「タ、タマラ……?」


 ワシは、その女性に命を助けられたのじゃ。

 あのまま、零戦の中で治療もせず動けないままだったら、ワシの命はなかったであろう。

 何故か、その女性はワシに親切じゃった。

 どうやら、ワシの零戦が落ちていくのを見ておったようだ。


 その女性は、実に若くてかわいらしい顔をしておった。

 現地の人間であろう。肌は褐色、髪は栗色で長い髪を後ろで縛っており、目はワシと同じ茶色がかった黒。

 背はそんなに大きくはないが、150cmちょっとぐらいだろうか。

 少し変わった、見たこともない民族衣装みたいな服装をしていた。


「……XXXXXXXXX」

「俺、あんたの言葉、分かんねぇよ……。俺を助けてくれるのか……?」


 ワシは、その女性が話す言葉が全く理解できなかった。

 何とか身振り手振りで会話していたが、どうやら、この女性は、左足の傷を見て放っておけなくなり、ワシを助けてくれるようじゃった。


 それが、ワシと『タマラ』の初めての出会いだったんじゃ……。



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