【 カイカイ 】


 タマラは、足に大怪我を負ったワシの肩を抱きかかえて、家まで連れて行ってくれた。

 そこでワシは、タマラの家族に初めて会ったんじゃ。


 家へ入ると、そこには、タマラの父と母と思われる人がいた。

 ワシの足を見ると、驚いて何やら大きな木の葉っぱを持ってきて、削ぎ落とされた左足の筋肉の部分にそれを当て、手当てをしてくれた。


 タマラの家は貧しく、電気も水道もなく、家の所々が隙間だらけの質素な作りの家じゃった。

 ワシは、運よく、日本人でありながらも、タマラの家族に受け入れられたのじゃ。


「ユー、カイカイ」

「カイカイ……?」


 タマラは、食器の上にある緑色のものを食べる仕草をする。


「ああ~、これを食べろということね……。ありがとう……。パクッ、モグモグモグ……。(う~ん……、何か薬草みたいな味がするな……。食べられなくはない。お腹が減っていたので、丁度良かった……)」


 ワシがその出されたものを全て平らげると、今度はタマラは寝る仕草をして、こう言った。


「ユー、スタップ」

「スタップ……? ああ~、ここで休んで行けっていうことね……。ありがとう……」


 ワシは、そのタマラ家族のやさしさに感動をした……。

 占領した日本軍の1兵士を、こうして助けてくれて、怪我を手当てし、食事を与え、家に泊めてくれたのじゃからな。


 タマラは、粗末ではあったが、大きな木の葉でワシの寝るところを用意してくれた。

 それが終わると、ニコッとやさしい顔をしてワシに微笑んだ。


「あっ、タマラ……。今日は、どうもありがとう……」

「……?」


 タマラは、首を傾げている。


「あっ、ああ~、サ、サンキュー……」

「リクリク・サムティング……(どういたしまして)」


 タマラはそう言うと、笑って部屋を出て行った。

 ワシは、タマラ家族に助けられたことを、その当時としては不思議なことだと思っておったのじゃ。

 攻めてきた日本人に対し、こんな待遇をしてくれるなんて、考えられなかったからなぁ。


「(タマラたちは、どうして俺をこんなにやさしくもてなしてくれるんだろう……。何か後で対価を求められないか……。しかし、命が助かっただけでも、本当に良かった)」


 ワシはその夜、窓の外から聞こえてくる、日本では聞いたことのない虫の音を心地よく感じながら、睡魔に襲われ安心したように眠りについた。


 おそらく、タマラが出してくれた食事には、足の痛みを和らげるための睡眠を促す効果があったんだと思う……。



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