【 小さな島 】


 でも、ワシは幸運じゃった。

 ワシの零戦は、撃たれることはなかったんじゃ。

 確かに、操縦には絶対の自信があったのじゃが、まさか、敵味方の内、ワシ一機のみ残るとは思ってもみなかった……。


 気が付くと、既に日が暮れかかっておった。

 ふと計器に目を落とすと、燃料が底を尽きかかっている。

 ワシの零戦には、もはやラバウルに戻るだけの燃料が無くなっておったのじゃ。



「くそーーっ! 燃料が無くなってきている! やばい、高度も落ち始めているぞ! このままでは、ラバウルまでもたない! どこか不時着できる所はないか!」


『ブゥルルルゥーーーーンッ!!』


 ふと下を見ると、少し先に小さな島が見える。


「あっ、あそこだ! あそこなら、助かるかもしれない! よし! うぉぉーーっ! 零戦よーーっ! あの島までもってくれぇーーっ!!」


『ブウゥーーーーンッ……』


 ワシは、その島まで辿り着くように操縦桿そうじゅうかんを両手で握り締め、必死に機体を持ち上げた。


「零戦よーーっ!! もってくれぇーーーーっ!!」


 しかし、遂に燃料が底を尽き、徐々に推進力を失ってゆく。


『ブウゥーンッ、ブン、ブン、ブンッ……、ザザザザザザーーーーーーッ!!』


 そして、零戦と共にその島の森へと落ちていった……。


「うわぁーーーーっ……!!」



 ――ワシは、『ブーゲンビル島』というある小さな島へ不時着したんじゃ。

 その日は満月で、落ちていくワシの零戦をその島から、見ておった女性がおったんじゃ……。


 それが、後のワシの妻になる『』という女性じゃ。



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