【 零式艦上戦闘機 】


「くそーーっ!! よくも山田を撃ち落しやがったなぁーーっ!! くそーーっ!!」

『ババババ……、ババババババババ……』


 ワシは戦友の山田の死に、怒りが込み上げ、夢中で敵機を撃った。


『ドバンッ!! ヒューーーーン……』


 弾が敵機の翼に命中し、翼が折れる。

 翼を失った敵機は、まるで小さなおもちゃの飛行機のように、クルクルと回転しながら落ちてゆく。


「よし!! 山田のかたきをうってやったぞーーっ!!」


 必死じゃった。生き残るために……。


『ブゥルルルゥーーーーンッ!!』


 訓練していた得意の宙返り、いわゆる『ひねりこみ』という戦法で、敵機の後方へと回り、そこから一気に撃った。


『ババババ……、ババババババババ……』

『ドババンッ!! ヒューーーーン……』


 機動性能に優れた小回りの利く、零戦は強かった。

 弾は敵機胴体部分に命中し、一瞬火を吹き、そこから灰色の煙を吐いて太平洋の海へと落ちてゆく。


「よぉーーし!! もう一機やってやったぁーーっ!!」



 ワシは、夢中じゃった。

 自分が撃ち落されるんじゃないかと、必死に相手のグラマン戦闘機を撃っていたんじゃ……。


 今、思えば、本当に人として、残忍なことをしてしまった……。

 あの落ちていった敵の戦闘機のパイロットにも、大切な家族がいただろうに……。



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