掌編エッセイ・『鈴虫』
夢美瑠瑠
掌編エッセイ・『鈴虫』
こどもはだいたい昆虫採集が好きですが、ぼくも田舎に住んでいたので、幼少期からいろいろな昆虫に慣れ親しんでいた。
春から夏にかけては、鮮やかな緑色に自然界が彩られていくとともに、多種多様な昆虫が活発に活動するようになるので、昆虫採集の繁忙期?となる。
春の訪れとともに、まずレンゲ畑やらキャベツ畑やら、アブラナの畑とかで飛び回り始めるのがモンシロチョウ、ベニシジミ、イチモンジセセリなどの小型の可愛い蝶の類です。
モンシロチョウは捕虫網で簡単に捕まえられて、まじかに顔を見ると、薄緑の複眼の中に黒い焦点の瞳があって、羽根もそうだが全体にハート形のニュアンスを帯びているので、非常に可憐なのです。少女の横顔みたいに見えるので、モンシロチョウというのは昆虫界のアイドルだなあ?とか思う。
蜜を吸うときに伸びる、クルクルッとストローを巻き取るみたいに動くゼンマイ様の口も可愛い。
昆虫でも人間が見た場合「可愛い」タイプと「憎たらしい」タイプというのがあって、笑 ミツバチとかモンシロチョウとかナナホシテントウムシとかは可愛いほうの代表で、やはり物語とかの主役とかになっている。
憎たらしいというとスズメバチ、昆虫ではないがクモとか、ハエとかですね?_
カマキリは嫌いではないが、交尾直後の雄が食べられたりして、やっぱりちょっと怖い虫という感じがする。「蟷螂の斧」というが、豆粒くらいの幼虫でも、結構鎌をもたげて威嚇したりして、面白い習性だと思う。
これは英語だと「祈る巫女」 praying mantis という名前になっている。
夏の皮切りになるのが蛍の「飛びちがいたる」6月の初頭で、蛍は日本の古典とかでは魂の象徴みたいにされていますが、やはりあの何とも言えない幽玄な風情というか、揺蕩する人魂みたいな感じがそういう連想を呼ぶ。
清流にしか、特にゲンジボタルはいません。田んぼにでもいるのがヘイケボタルで、ヘイケボタルのほうが少し小さい。
蛍は「狩る」というが、皆で蛍狩りとかしたら、非常に楽しくて、ロマンチックでした。子供の夏の思い出にはもってこいだが、今ではもうそんなに蛍はいません。
夏が初夏から真夏、盛夏となっていくと、セミがうるさくなる。
毎年7月の一日ごろに真っ先に鳴き出すのがニイニイゼミで、これは、灰色で、河原の保護色みたいな模様をしている。声も体も小さくて、手で取れる。
これはセミ界では十両の露払い、という感じで、前頭クラスがカナカナとかツクツクボウシ、。大関がアブラゼミ。横綱がクマゼミ、とそういう感じでヒエラルキーが出来上がっていた。大きいセミほど声も大きくて、ずっと遠くの山奥で鳴いていても、ミンミンゼミの聲とかははっきり聞こえる。
大きいうえに一番群生しているのがクマゼミで、これは騒音公害になるほどにやかましい時もある。しかし、慣れると別に夏の風情、とそういう感じにもなれた。黒光りしていて、鳴き方や声にもこれぞ真夏の象徴、というような迫力があった。
カブトムシ、クワガタ、そういう甲虫は姿が勇ましいので人気があって、学校に持ってくる子供がよくいた。マッチ箱を引っ張らせたり、喧嘩させたりする。
カブトムシを養殖するための特殊な餌、というのがあって、これは業務用かも知らんが、一晩に小さなゼリーくらいの塊をペロッと食べます。
カミキリムシとか、ハンミョウ、玉虫、とかは美しい昆虫の代表格で、アゲハ蝶とかと美麗さの覇を争う?ような感じかと思う。トンボでもギンヤンマというのは綺麗だ。水辺の虫、というのもあって、タガメとか、ミズスマシ、ミズカマキリ、ゲンゴロウ、コオイムシ、そういうのは色も地味で、ちょっとうらぶれた感じです。
そうして、昆虫の季節の棹尾を飾る?のが、季語としてはたぶん秋だが、晩夏から鳴き始める、いわゆる「秋の虫」の一群です。
コロコロコロ・・・がエンマコオロギ。地虫、と言われるのはケラですね。
関係ないかも、ですがウスバカゲロウの幼虫のアリジゴク、というのも好きな昆虫で、飼育して羽化させたりした。
スイッチョン、がウマオイ。チンチロリン、がマツムシ。ギーチョンス、というのが、昼間に鳴くキリギリス。ガチャガチャうるさいのがクツワムシ。
そうして一番印象的で美しい、澄んだ声で鳴くのが、スズムシです。
鈴虫は繁殖力も強いのか?わりかし広く繁く棲息していて、声も目立って大きい。晩夏の代表的な風物詩で、侘しい感じもあって、非常に風情のある虫です。この声がしてくると、「もう夏も終わりかな」と、しみじみした感興に襲われます。
で、小さい頃には新聞紙を持って行って、鈴虫を捕獲しに出かけたりした。
鳴いている石垣の穴とちょっと離れた穴に丸めた新聞紙で、ふっと息を吹き込むと、驚いて鈴虫が飛び出す。その優雅で黒曜石みたいな鈴虫をつぶさないように、
そっと掌の中に入れて、それから虫かごに移す。
これを何度となく繰り返すと、虫かごの中が鈴虫の啼き声だらけになる。
家に帰って、使わなくなった金魚鉢とかに欠けた茶碗を置いて家にする。
キュウリとかを箸に刺して置いといてあげる。
それで夜通し精妙で、玲瓏で、心の琴線に触れてくるような鈴虫の声が楽しめました。
5回鳴くのは普通ですが、6回続けて鳴くと、「これは優秀だ」みたいに喜んだものです。
繁殖させるとか図鑑にやり方が書いてあったけれど、昔は子供だったのでちょっと無理だった。
今なら、いろいろ工夫してネットで調べたりして、「鈴虫牧場」を作って、また庭に放したり、ということもできそうな気がします。
<終>
掌編エッセイ・『鈴虫』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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