第3話 「アイジョウ」

ー1階の廊下にてー

こつん、こつん

嫌な汗が流れた。多分俺の今の顔引き攣っている

「おいおい、今授業中なんだけどなぁ……」

ずさり

後退りながら俺がそう呟くと、前方から返事がきた

「生徒会長権限よ」

短い返事の後

ひゅん

風の切る音がした

俺は前方を注視する

そこで飛来してくる一つの道具を確認した。

あれは、なんだ?ボールペン?……いや違う⁉︎

「カッターナイフじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁあーーーー⁉︎⁉︎」

しかも牽制の攻撃ではなく、当たるかと思われる個所は俺の額

額。当たれば怪我は免れない

「危ない、パパ!」

「お、お前!」

俺を守るつもりらしい

足はがくがくと震えているが、目はカッターナイフに注がれている

大した根性だった

飛来するカッターナイフは虚空を駆け抜け、

田辺香の頭上を通り越し、

見事俺の額にぶち当たった

「ぎぃぃぃやぁぁぁぁあああああッッ⁉︎⁉︎」

俺の悲鳴が響いた

あまりに驚いたせいか、足から力が失われ尻餅をつく

「ん……あれ?」

なぜだろうか、カッターナイフが当たったというのにまるで痛みを感じなかった

ついに超能力に目覚めたか……とはもちろん思わない

落ちたカッターナイフを拾い上げると、何と刃が出ていなかった

「なっさけないわわね。男なら掴んで取ってみなさいよ」

悠然とやってきたその女はその女はそんな軽口を叩いた

見なくてもわかる

学園でも一目置かれている俺にこんなことをする奴など一人しかいない

「んだよ……生徒会長の澤さんよ」

見上げながら、俺はその視線の先にいる女を細目で睨みつけた

黒一色で彩られ、一つに束ねられているその髪は、夜空に溶け込んでいきそうな、そんな色だった。瞳はぱちくりと開かれており、初々しい印象を抱かせる

ちなみに名は澤優香。この学校の生徒会長であり、俺の幼馴染でもある

「アンタがふぬけた奴だってことは知っているけど、まさか転校生を即座に連れ去ろうとするなんてね。見た?アンタのクラスの現状を。阿鼻叫換の図よ?」

「女に飢えすぎだろそいつら…」

なぜ田辺香をそこまで固執するかわからない。他の女子が可哀想だ

「だが違うぞ。俺はこいつを連れ去ったわけじゃない。こいつが何か変なことを言ってついてきているだけだ」

そもそも、と俺は言葉を付け加えて、怒気を孕んで言った

「お前が一番わかっているはずだぞ、俺が他の女を連れまわすわけがないってな」

「確かにそうね」

短くそう言葉を返して、澤は俺に背を向け、田辺香に声をかけた

「転校初日からサボりなんて感心しないわよ。確かにこの男が島一番の進学校であるこの学校にいることは珍しいと思うけどサボりは駄目よ。こいつみたいになっちゃうから」

「……むぅ?」

「えっ、何?」

澤が田辺香を注意するも、田辺香はそんな話まるで聞いていなかった

小首を傾げ、ずっと澤を見続けている

流石の澤も困惑を隠し切れずにいた

やがて、田辺香はぴょーんと跳ねて、澤に抱きついた

背景にユリの花が見えた

「ふぇっ⁉︎」

「ママですっーッ!」

頬をすりすりさせる田辺香

一方ただただ困惑し続けている澤

かなり面白い図だった

数秒間続けた後、冷静さを取り戻した澤がし口パクでこんなことを言った

「た、す、け、て」

「さっき殺されかけた俺が助けるとでも?」

無慈悲にも、俺はそう言い、それから数分の間その田辺香の無邪気な愛情表現をぼーっと眺めていた

五分程度その愛情表現が続いた

ようやく解放された澤は床に沈み込み、田辺香はすっきりとした顔をしていた

「ママは高校時代髪をポニーテールにしていたんですね、初めて知りましたよ」

「この子……怖い」

ぼそりとそんな感想を口にする澤。可哀想に、とは思わない

「ま、澤はそこの奴を頼む。俺は教室に戻っても視線が痛いだけだろうからな、今日は早退しとく。担任にそう伝えといてくれ」

「えっ、じゃあ私も……」

がしっ

澤が田辺香の足を掴んだ

「初日から、サボりは許さない……」

大した生徒会長だ

あそこまでされてまだ立ち向かう勇気が残っているとは

その勇気は俺にとっては好都合。俺は手を振りながら、

「んじゃあな」

とだけ告げ、その場を立ち去ることにした



つづく

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転校生が僕の娘だった⁉︎ Hide @kintetsu16000

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