第2話 「予想した人物」

ー香が僕の娘だと言った少し後ー

騒ぐ教室。

発狂するクラスメイト、号泣するクラスメイト、マジ泣きする担任

つーかこのクラスメイトたち絶対精神病院いった方がいいと思うのは俺の勘違いだろうか

「チッ」

俺がそう舌打ちすると騒がしかった教室は急激に温度を下げ、喧騒は沈黙となった

「んー?」

小首を傾げながら田辺香は一言

「どうしたんですか?パパ?」

付き合ってられない

俺は席を立って教室を出た


ー廊下にてー

廊下を1歩2歩と進んで行って、何かしらの気配がしたので振り向く

なぜか後ろを付いてきていた

「……なんだよ」

ピタリと足を止めて、俺はそう尋ねた

「いえ、どこに行くのかなぁと思いまして」

「転校生がサボってどうする。教師たちから目でもつけられてぇのかよ」

「滅相も無い。私は優等生なのですから、そんな野蛮なことはしません」

「じゃあさっさと行け、そして二度と俺に近づくな」

「そう言われてしまうと余計に近づきたくなるのが人としての性なんですけど、

まぁそれは一応置いておいて、パパはどこに行くんですか」

こいつはいつまで冗談を続ける気なのだろうか、少し頭が痛くなった

「パパ言うな。そんな冗談言われても俺にとっちゃ何も面白くねぇ」

「冗談じゃ無いんですけど……」

「冗談にしか聞こえねぇんだよ。で、俺がどこに行くかって?答えておくが教える義理はない。せいぜい楽しい学園ライフでも過ごしとけ自称優等生」

手をひらひらと振って、俺は廊下を再度進んだ。

ここまでぶっきらぼうに接すればもう面白味のない冗談を吐くことはないだろう

「じゃあパパも一緒に楽しい学園ライフを過ごしましょうよ。サボりは許しません」

なんでまだ付いてきてんだよ

心中で苦情を述べつつ、口では軽口を並べた

「生憎と、学園ライフにあまり固執してないんだよ俺は。生徒たちと仲良くする気も毛頭もねぇしな」

「ん?ではなぜ今この場にいるんですか?パパにとってデメリットしかないのであれば、ここに来る意味もないはずですが……」

しかし馬鹿正直に述べる俺ではない

痛いところを突いてくる

そもそもこいつは自称俺の娘などと行っているが、ただの赤の他人だ

赤の他人に自分の事情を喋るほど俺は馬鹿じゃない

「高卒の方が就職率はいいからな。一応肩書きとしては卒業しようと思っているだけだ。別に特別な理由はねぇ」

「ふーん、そうなんですか」

テクテクと歩き、歩き、階段を下る

「いい加減戻れ。お前が俺と一緒にいると、俺がお咎めを喰らう」

「お咎めなんてパパなら無視するでしょう?」

「…………」

事実なので反論できない

「ところで、パパ」

「…………」

答えるのがあまりにも面倒くさくなったので無視したのだが、田辺香はそんなこと気にせず淡々と聞いてきた

「ママはどこですか?」

「……ママだぁ?」

「ええ、ママです。黒髪で、二重の目で、普通の女性よりも少しだけ身長が高い、おしとやかなお姉さんみたいな人です」

「黒髪?二重の目?……ちょっと待て」

一階の廊下を歩きながら、俺は一人の知り合いを思い出す

待て、違うはずだ

あいつはおしとやかなんかじゃない

逆だ、あいつは活発で男勝りな奴だ

だから違う、違うはず…

「あ、ママです」

「何?」

田辺香がそう言葉を零した直後、一階の廊下に一つの足音が反響した

その足音を反響させた人物は、俺が予想した人物と一致していた



つづく

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