第7話 暖かい時間

ずぶ濡れになった

季節は9月

夕方なので結構冷えるかも

そんな事を考えながら、土手をしぶしぶ登っていると

笹館が言った

「家、近いから寄ってて」

一瞬固まった

新手の誘いなのか?

俺みたいな得体の知れない人間を

家に簡単に上げるなんて

どういう事だ?

純情そうに見えてたけど

実は結構男慣れしてて、軽い女なのか?

ちょっとモヤッとしている自分がいた

それで良いのかよ

笹館一羽

頭の中でいろいろぐるぐる考えているうちに笹館の家に着いた

二人っきりに、なるのか?

俺は、内心ドキドキしていた


笹館がドアを開ける

「ただいま〜」

すると、中からゾロゾロと子供達が現れて、あっという間に包囲されてしまった

「おかえりーねーちゃん」

「え?誰?彼氏?」

「一花!ちょっと来い!」

「ねーちゃんが男連れて帰って来たぞ」

「彼氏さんですか?」

「イケメンじゃないですか」

「一羽とは、どういう関係ですか?」

「やるわね、一羽」

代わる代わる声をかけられて

俺の頭はパニックを起こしていた

「あーもー!うるさいな!濡れてるから

風邪引くから、お風呂入るよ!避けて避けて!」

笹館が、テキパキと仕切り、しゃべっていたバスタオルを渡されて

あっという間にお風呂場に誘導された

「これ、パパのだけど、とりあえず着て」

笹館が、スエットを用意してくれた

状況を把握するのに

少し時間がかかった

風呂から出ると

台所から良い匂いがしていた

「今日は、煮物と変わりご飯だぜ」

ドヤ顔して、小学生位の男子が立っていた

「ねーちゃん、洋食はイマイチだけど、和食は結構美味いんだぜ」

同じ顔の子がもう一人

「来くん、髪もちゃんと乾かして!」

ドライヤーを渡され、もう一度脱衣所に押し込めれた

なんだかとても賑やかだった

そうして、いつの間にか一緒に晩飯を食べていた

「一羽の煮物、食べてみー」

一羽の作った煮物は、味が染みていて

なんだかとても暖かい味がした

「うまいだろ??鶏肉が特にオススメ」

「…うまい…」

「おー、ヒュー」

「一羽、美味いってよ!!」

キッチンへ弟のご飯のおかわりをよそいに行っていた一羽が顔を出した

「え?」

「来くん!もう一回言って!!」

「………」

聞こえないふりした

すると

「ただいまー」

誰かが帰って来た

「おかえりー」

子供達は、ご飯の途中にもかかわらず、一斉に玄関に向かった

賑やかな声がする

子供達に手を引かれ

30代半ば位の綺麗な女の人が登場する

よく見ると、目元が一羽とそっくりで

お姉さん?いや、多分一羽の母だろう

将来の一羽を見た気分になった

「こんばんは、お邪魔してます」

とりあえず、挨拶すると

俺を見て

持っていた荷物を床に落とした

何かが割れた音がした

きっと卵だ

「キャー、初めましてこれからも一羽をよろしくね!!!」

一目散に駆け寄って来て

手を握られた

その後、すぐに一羽の元へ行き

「一羽、ちょっと!やったじゃない!」

台所から、悲鳴と歓声が聞こえた

「ただいま〜」

今度は男の人が帰って来て

子供達がまたもやお出迎えに行く

ゾロゾロ引き連れて俺と対面

まだ、若い感じの男性だった

金髪にピアス、ちょっと髭が生えている

お父さんかな?大分若く見えるけど

「…お邪魔しています、服、お借りしています」

一瞬止まった後

「うぉぉぉぉぉ!!!」

「ついにこんな日が来てしまったかー!!!」

そう叫ぶと

キッチンへ向かい、一羽と一羽の母らしき人物と何やら盛り上がっていた

「祝杯を上げるぞ」

グラスとビールを持ってやって来た

「いや、未成年なんで……」

しばらく沈黙した後、

「20歳になったら、一緒に飲むぞ?」

お父さんは、真っ直ぐ俺の目を見た

そして、何事も無かったかのように

夕飯の続きが始まった


「ありがとうございました。ご馳走様でした」

「ごめんね、騒がしくて」

一羽は、申し訳無さそうに言った

「また来てね」

帰りは、みんなでお見送りしてくれた

昔、テレビで見た事があるような

"家族"と言うモノがそこにはあった

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