義理チョコ?

バリバリさん

義理チョコ?

 僕は今、緊張している。玄関の前に立ちその場で足踏みをする寝癖はないか?制服にゴミ屑はついていないか?

 

 普段なら気にしない筈だが今日は違ういつもよりも自分の身なりを確認する。

「大丈夫かな?ふぅー…よし!行こう」

そう言って家から出て学校に向かう。


カレンダーの日付は2月14日バレンタインデー僕はバレンタインでチョコを一度も貰ったことがない。今年こそは欲しいそう胸に思いながら、電車に乗り、揺られ、降りて。高校まで歩いてくと、後ろからドンッと背中を押され後ろを見る。

「おはよう海星」

「よう!!拓実」

少しチャラついた格好をした男、佐野海星が

話しかけてくる。はぁー女の子だったらどれだけいいのか…

「おいおい…拓実声にで出るぞ…」

呆れた顔で海星は言う。

「それにしても拓実…ふっふふ今年もしっかりと整えて来たな!」

せっかくセットした髪をぐしゃぐしゃと撫でて崩してくる。

「いいだろうこれぐらい!というかぐしゃぐしゃにするなよ!!」

「はっはは、そんなわざわざ髪とかセットしなくてもいいだろ。」

「よく言えたもんだなお前?」

僕は横目で海星を見る。普段とは違う髪型そして香水もいつものと違う気がする。

「拓実…俺も男なんだそれぐらい張り切るに決まってるだろ」

「でもお前の場合そこまで張り切らなくてもチョコは貰えるだろ」

海星は無駄に整った顔、親しみやすさそして

サッカーをやっていてる。それも結構上手く

女の子からはかなりモテている。

「はぁー」

深くため息を吐く

「おいおいどうした急にため息付いて。」

「お前はいいよなチョコ貰えて、僕は一度もチョコを貰ったことがないんだぞ」

海星の目を真っ直ぐ見る。

海星は少し困った顔をして目を泳がせる

「ほ、ほら拓実、もう学校に着いたぞ、話の続きは教室でしよう。」

そさくさと海星は下駄箱に向かい教室に走っていった。


 下駄箱の中にチョコ入っていないかな。上履きを取るついでに少し見る。

「まぁないよな…」

上履きを履いて教室に向かう。


 教室に着くと僕の席の側に海星がいる。

僕は自分の席まで行って机に荷物を置き、席に座る。机の引き出しに腕を入れて、

音が鳴らないように腕を動かしチョコがないか探す…うん?この四角い固形物は?まさか

チョコ!?やっと僕にもチョコが!!

固形物を引き出しから取り出す。

「やったぞ海星、僕やっと…ってなんで笑ってるの?」

海星の方を見ると笑いを堪える海星の姿が見える、でも今の僕には関係ないことだと思うので引き出しから取り出した、物体を見る。

おっ!しっかりとした箱だ!よし開けよう。

パカっと箱を開けるとそこにはチョコではなく紙が入っている紙にはピースのイラストが描かれている。

「海星これ…」

紙を持ち上げ海星に見せる…

「拓実…それなんだと思う…」

真剣な顔で僕を見る

「えっ、ピース…」

「拓実…違う…それピースじゃない…

       チョキだ      」

「え?どういうこともしかして、チョコとチョキを掛けたの?え?意味わからない。」 

「拓実これは俺からの贈り物だ…」

僕の肩にそっと手を置いて彼は語りかける。

「おい拓実、お前チョキ貰えたのか!よかったな。」

教室の扉を勢いよく開け大きな声で話してくる。

「おはよう陸央」

「おう、おはよう拓実それに海星!それにしてもよかったな拓実チョキ貰えて!」

「ああ、ありがとうってなるかよ!!やっとチョコを貰えたと思ったのに…」

「おいおいそんな怒るなよ…悪かったって、ほらこれやるから…はいチョキ」

陸央はピースのイラストの紙を僕に渡してくる。くそーこいつめー許せねえ。

「あれ?おい陸央その手に持ってるのはなんだ?」

僕を煽る陸央に海星が質問する。よく見ると

陸央の手には袋のような物がある。

「おい陸央まさかお前…」

「あーこれチョコだよチョコ」

チョコだと…もうチョコを貰っているだと

「そうそうチョコで思い出したんだけど…」

「何をだ…」

嫌な予感がする…

「2月14日バレンタイン、チョコ一番貰えなかった奴ジュース奢り!!」

陸央からその言葉を放たれた瞬間、僕は席を立ち廊下に向かって走り出す。

「あっ結月だ」

前に進む足を止め後ろに歩くそして自分の席に座る。

「で、結月さんどこ?」

「ほらあそこ…」

海星が指した方向を見る。

可愛らしい顔腰まで伸ばした艶のある黒い髪

「今日も可愛いな結月さんは」

「相変わらずのデレデレぶりだな、拓実」

「いいだろう」

「そういう所がチョコ貰えない原因って分からないかな」

呆れた声で陸央は言う。

女の子の友達と喋る結月さん一瞬こっちを見る、目が合うと結月さんは笑みを見せる。

はあ結月さんからチョコ貰えないかな…

まあ無理か…


「さてとそろそろ先生来るから帰るわ、数は放課後発表な!!」

「うんそうしよう、おい拓実お前もいいな」

「あーわかった…」

「絶対聞いてないだろこいつ、海星後でもう一回伝えといて、」

「いいよ、場所だけ伝えとくわ」

「分かったじゃあな!!」

「おう」


 その後適当に昼の授業を受けて昼休みに入る。僕と陸央と海星で飯を食う。

食べながら他愛のない話をしている突然陸央が

「さてとそろそろ、途中報告と行きますか!

まずは俺から…貰った数は25個!!どうだ結構貰っているぜ」

「じゃあ次は俺だな、貰った数は5個、まあまあだな…」

二人はズッと視線をこっちに向ける

「ぼ、僕は0個…」

声にならないくらいの小さな声でそう言う。

二人はその言葉に揶揄うように笑みを浮かべる。

「拓実…残念だが、今年も0個で終わりだ」

「ほら…悲しい顔をするな、これやるから」

陸央はそう言いながら僕にチョキを渡す。


くっくそ!!羨ましい!!僕も欲しい!!


トントンと後ろから僕の肩を叩かれる。

後ろを向くとチョコを持った女の子がいた。

「どうしたの?」と僕は女の子聞くと。

「これ…」

女の子は僕に向かってチョコの入った袋を差し出す。まさか僕にチョコを!!と変な期待をしてしまう。

「これ…海星君に渡してくれる」

「あ、うん、分かった…」

ちくしょう!!僕じゃないのかよ!!

袋のチョコ一つ隠れて食ってやろうか!!


「おい、海星、お前宛てのチョコ…あの子から」

「あー拓実ありがとう、これで6個だな」

くそー羨ましい!!あーもういいやチョコなんていらないし…チョコなんてそもそも僕そこまで好きじゃないし…

「拓実…声に出てるぞ」

海星にそう言われて僕は、辺りを見渡し少し顔が熱くなるのを感じる。きっと今の自分の顔は真っ赤っかなのだろう。

「ちょっと、トイレ行ってくる」

僕二人にそう言いその場から離れた。

「ああ、分かったでも早くしてこいよー」


 拓実の席で海星と陸央は、拓実が戻ってくるまで喋っていると後ろから誰かに呼びかけられる。

「海星君、陸央君ちょっといい…」

話しかけてきたのは結月であった。

「うん?どうしたの結月」

「実はね––––」


「戻ったぞ…っていないし…トイレか?」

二人が何処に居るのか考えつつ時計を見る

もうすぐ授業が始まる時間だ…それでいないのか…まあいいや僕も次の授業の準備をしよっと。


 午後の授業も終わり掃除が始まる。結局チョコは貰えなかった。はあ今年も0個かな…

いやまだ諦めないぞもしかしたら放課後に貰えるかもしれない…ないと思うけど…

チラッと結月さんの方に目を向ける…今日も

可愛い…箒に体を預けているとガシャんと箒を倒してしまう…

一瞬、彼女と目が合い恥ずかしくて目線を下に向け倒した箒を取り僕は掃除を行った。


 掃除が終わり帰る準備をする…今日は部活がないのでそのまま帰ろうと思っていたが…

チョコの報告会で陸央のクラスで報告をする

行くつもりは無かったが、明日何か言われるのが面倒なので行く…気が進まないな…


 陸央のクラスに向かっていると…突然話しかけられる。

「拓実君…ちょっといいかな…」

僕の前には結月さんがいた。

「ど、どうしたの?」

「ここだとあれだから…こっちに来てくれるかな?」

首を傾げて言うその姿はとても可愛らしかった。

「分かった…」


 誰もいない教室に二人で入る。

教室はとても静かで窓から差し込む光が僕らを照らしている。

結月さんは僕に背中を向けたまま日の光見る

綺麗…富士山の頂上で見る景色やナイアガラの滝などの絶景よりも鮮やかで美しいその姿に僕は熱があるかもしれないほどに顔を熱くする。


 結月さんのその姿に僕は見惚れていた…ずっとこの瞬間を見ていられるそう感じた…

「拓実君…」

鈴を転がすような声で名前を呼び顔をこっち向ける…

「はい!!これあげる!!」

バッと勢いよく目の前に出されたのは可愛らしい袋に包まれたチョコがあった…

「これは…」

「見てわからない…チョコだよ」

僕にチョコ…

「あ、ありがとう…」

「じゃあ私はこれで、バイバイ!!拓実君」

僕がお礼を言うと彼女はそう言って教室を出た…チョコを渡す時少し顔が赤かったのはきっと僕の勘違いだろう。


 僕はチョコを貰えて嬉しいかったが同時に

悲しさも感じた…


 陸央達がいる、教室に入る。

「お!拓実遅かったな!もしかしてチョコ貰えたのか?」

海星がちゃかすように聞く

「ああ、貰ったぜ」

僕はそう言って海星達に結月さんから貰ったチョコを見せる。

「もしかして結月からか?」

陸央が聞く

「うん、そうだよ…」

「よかったな今年は貰えて」

「もしかしてだけど二人共、結月さんからも貰ったの?」

二人は一瞬顔を見合わせて何かを決心したように二人で頷き言う

「そうだな貰ったな結月さんから、義理だけど…」

陸央がそう言い海星も頷く。

やっぱり義理だよな…少し期待をしていた。

もしかしたら結月さんは僕に好意を持ってくれているのではないのかって…本命チョコを渡す為に空き教室に呼んだじゃないのかって

「拓実!!」

「なに?急に大きな声出して…」

「今からチョコ食おうぜ」

陸央がチョコの入った袋を持ち誘う

「いやここで食べるのはダメでしょ」

「確かにここで食べれば先生に見つかり、

怒られる…なら先生が来ない空き教室に行こう!!」

「いやでも…」

「まあまあ拓実、お前は食わなくてもいいけどさ、お前がいないとつまらないんだ。だからな、」

陸央が手を合わせて頼む

「話ぐらいなら…」

「よしじゃあ空き教室に行こう!!」


僕らは空き教室に行き適当に椅子を出してそこに座り陸央と海星はチョコを食べながら話している。

「それにしても結月さんのチョコは美味しいな!」

「ああそうだな」

「ええ!マジでそんなに美味しいのか!」

陸央と海星は四角いチョコを食べそう言う

「拓実は家で食うんだろ」

「そうだった…でもこのチョコが本命だったらなー」

僕はそう嘆くとシーンとその場が静まり返る

二人は顔を見合わせハァとため息を吐く

「なんたよ!!ため息つきやがって」


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 空き教室から男子の声が聞こえるその中に

拓実君の声もあった。私は物音を立てないように聞き耳を立てる。

 「このチョコが本命だったらなー」

拓実君の声が私の耳に届く、どうやら彼に渡したチョコは義理だと思われてるらしい…

胸がギュッと締め付けられる。

「ハァー本命…なのにな…」

自然と出た声に私は自分で驚きながらも彼に

気づかれないようにその場から走り去った。


 学校を出て家まで走る冷たい風が目の前から吹くが私の顔は熱く真っ赤に染まっていた

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義理チョコ? バリバリさん @baribarisann

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