第32話:社会は何を求めるのか ⑤

 日本というのはこれまで“組織を作るためには良い人材と良い環境が必要だ”と考える人が多く、私自身、就職活動をする際にもそのような印象を受けた事は多かった。


 そして、今も表向きは“ポテンシャル採用”や“文理不問”など“学歴”や“ブランド”に縛られない採用活動や入社後の研修などの柔軟化が進んでいるが、裏を返すとそういう企業ほど“入社後に再評価”や“人材選抜の実行”・“試用期間の悪用”など逆の動き方をしているように感じるのだ。


 その理由として、企業などが採用活動の際に放映する紹介動画やプロモーション映像などを見ても、その会社のイメージが良くなる人が出てくる場合が多い。そして、スライドなどで紹介する場合や企業冊子などにも“採用実績校一覧”が載っているが、多くの場合、有名な大学などが多く掲載されており、就活生の中には“私たちはこのレベルの大学からしか社員を採用しません”と宣言されているように感じる人も多いのが実情だ。


 このように、常に“個人”に向き合うのではなく、“イメージ”に向き合う状況が長期化したことで、“人材の確保が困難になる“、”欲しい人材がいなくて人手不足“など負の連鎖が積算ドミノ化してしまうケースも多く、企業によっては”採用数を増やして、試用期間で振り落とせば良い“という考えの企業も表面化はしていないが、潜在的に存在している可能性も昨今の社会情勢から読み取れる。


 私は“なぜ、日本は他責思考や他力本願など自分ではなく周囲に期待するのだろう?”と感じた事が多々あった。


 例えば、大学生の時に私は教育学、国際経済学の他に、経営学と児童心理学、特別支援教育など自分が興味のある分野の学習をしていて、周囲からは“うちらが子供を育てるって難しくない?だって、実際に教育するのは両親で、私たちはそのサポートをするだけだからさ”という会話が聞こえてきた。


 確かに、教育とはいってもきちんと役割分担されていて、それぞれに重要な役割を与えられている。教員は“子供たちに知識と教養を教える役割”などを担う子供たちの精神発達上重要な立場にある。


 しかし、昨今は現場で起きるのが“成績トラブル”や“人間関係トラブル”など子供だけの問題ではなく、親や地域を巻き込んだトラブルだ。


 例えば、子供たちの関係は良好だが、親同士でぶつかり合っていると、次第に親の関係が子供に連鎖してしまい、その子と距離を置くようになってしまう、最悪の場合は親がそれぞれの関係性を引き裂いてしまう“親起因型トラブル”や自分の子供が問題を起こすと進路に影響をすることを懸念して、同級生などから何をされても我慢するように伝えたりしていじめが起きてしまい、本人の精神状態が不安定になり、不登校になる“第三者起因型トラブル”などがある。


 これらに共通しているのは“自己保身に走った結果、最悪の事態を招く”ということだ。


 そもそも、この国において高水準の教育を受けられる家庭というのはかなり限られており、そのような家庭で育った子供たちは私立に進学するのが一般的だが、昨今の構図を見ると、小学校受験で不合格になり、やむなく公立小学校に入学をしているケースや公立小学校に行きながら塾などに通い、中学校から受験をするケースなど子供たちの進路選択がかなり多様化している。


 しかし、このような多様化が教育水準だけではなく、子供たちの相互関係構築が難しくなっているという課題も浮き彫りになっている。


 例えば、授業進度に関しても塾などに通っている子にとっては学校の教科書のレベルでは物足りないため、応用問題や発展問題など難しい問題を要求するケースや高学年になると入試問題などの受験に役に立つ学習を要求するケースも少なくない。そのため、子供たちの理解度に差が出てしまうだけでなく、どちらに重点を置いて授業を進めるべきなのかを悩む先生も増えてしまうのだ。

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