追放された挙句、記者に雑誌であることないこと書き込まれて炎上したけど、ついた悪名を利用して成り上がりました

コータ

追放からの炎上

「レオンさん。本日をもって、あなたを追放することにしました」


 冒険者ギルドのカフェフロアで、丸テーブルの向いに座っていた賢者が涼しい顔で言い放った。

 俺、レオンはその時どんな表情だったか。きっと間抜けな顔だったに違いない。


「追放って……まだパーティを組んで一ヶ月じゃないか」

「ええ。ですが優秀な剣士と組むことに成功しましたので、あなたとの契約はここまでということにしましょう。では、少ないですがこれがパーティ退職金となります。こちらにサインを下さい」


 退職金なんていっても、パンを二つも買ったらなくなるような額じゃないか。しかし、これ以上貰うことはきっとできないだろう。よくあることだった。


 今や冒険者にとって、パーティの追放は珍しい話じゃない。少しでも戦力が至らなかったり、一緒に仕事をしていて合わないと感じればすぐに切ってしまう。律儀に何年、それこそ何十年も一緒に戦うなんてかつての話。現代ではほぼないと言っていい。


 冒険者は数が溢れ、誰にだって代わりがいる世の中になった。だからこういう追放処分はいつだって起こりえる。


 結局、賢者からの追放処分は受け入れる他なかった。心持ちのんびりとサインを書き終えると、奴はさっさとカフェフロアを出ていく。怠そうな表情を隠そうともしていなかった。


「またかよ……結局はこれか。もううんざりだな」


 俺は丸テーブルに前のめりに突っ伏した。成り上がっていくことを夢見た少年時代は、とっくに遥か昔のこと。今や三十代に突入し、引退がチラつき始めた年齢だ。


 しかし、一度持ってしまった夢を簡単に諦める気にはなれなかった。既に飽和状態とはいえ、冒険者として名を上げて富と名声を勝ち取りたい。ずっと続けてさえいればきっと、なんて甘い考えにすがりついて生きてきた。


 でも現実は非常なものだと半ば自分を納得させ、怠い体を起こして会計をする為に立ち上がった時、それは起こった。俺は食事を終えたお盆を返納スペースに運ぼうとしていたのだが——


「うわっと!?」

「おわ!? す、すいません! かかっちゃいましたよね」


 いつの間にか、お盆を持って側を通り過ぎようとしていた男に水をかけられてしまったんだ。


「すいません。本当にすいません」

「いや、大丈夫ですよ。ただの水ですから」

「優しい方ですね。あのー、少しだけお話しできたりしませんか? さっき、随分とお困りになられていたようでして、気になっていたんです」

「え?」


 あの時、多分すぐに去っていれば何もなかっただろう。変な人だなとは思ったが、特別気にしてもいなかった。その男は薄くなった頭と、まるで樽みたいな丸い腹をした中年で、相当不摂生していることは明らかだ。


「まあ、困っていたといえば、そうなんですが」

「追放って声を聞きまして、なんか酷いことを言う人でしたよね! ささ、座って下さい。飲み物くらいならご馳走しますよ」


 押しの強さに流されるように、俺は元いた席に腰を下ろした。両手をすりすりさせながら、男は上目遣いにこちらを見つめてくる。彼は自らをダイと名乗った。


 無意識に溜まった鬱憤を晴らせる相手を探していたのかもしれない。ダイは丁寧に言葉を選んでは、先程のやり取りのことを聞き出し、それから徐々に時計の針を戻すように過去へと回想させようとする。


 俺は最初こそ抵抗感があったが、気がつけば一ヶ月前に賢者のパーティに加入した時から、追放されるまでを語り尽くしていた。


「あまりにも判断が早すぎると思ったんです。だから俺は……」


 言いかけて、目前に座っている男が奇妙な行動をとっていることに気がついた。彼は時折俯いたようにして丸テーブルの下に目を向けていたのだが。少し立ち上がって覗き込むと、メモに何かを書いている。


「ダイさん、一体何をしているんですか?」

「え!? あ、いやいや。なんでもないですよ」

「メモを取っているじゃないですか。なんで俺の話をメモに取る必要があるんですか」

「あ、あー……。バレちゃい、ました? あっはははは」


 左手で後頭部をかきながら、男は誤魔化すように笑った。ニンニクを食べてきたばかりのような口臭が漂い、思わず苦い顔になってしまう。


「実はですねえ。私、記者なんですよ。普段雑誌を書かせてもらってます」

「記者? ってことは、俺の話を雑誌にでも書くつもりなのか」

「ええ、その為のインタビューになります。私ねえ、追放された人の取材に興味があったんですよ。でもね、なかなか喋ってくれる人いなくてね。あんたくらいですよ。あっはははは」


 俺はだんだん気分が悪くなってきた。笑い方といい喋り方といい、少しずつ人を小馬鹿にしたようなスタイルに変化している。それよりも、何か騙されたようなこの感じに腹が立った。


「なぜ最初に雑誌記者だってことを告げなかった?」

「だって、そう言ったらあなた、答えてくれなかったんじゃないですか。ねえ、レオンさん。追放された今、率直にどんな気持ちですか? 落ちぶれて悲しいですか? ねえ」


 ふーっと、俺は息を吐いて深呼吸をする。そして身を乗り出して、男を睨みつけた。奴のニヤケきった顔から、途端に余裕が消える。


「楽しくはないかな。何しろ、人の不幸を喜ぶようなハイエナに餌を撒いちまったんだから。お前、絶対に俺のことを書くなよ」


 男は明らかにビビっていたが、反面プライドが高いようで、すぐに顔を真っ赤にして怒り出した。


「あーはいはい。武器を持たない弱者に当たろうってわけね。レオンさんマジ最低なんですけど」

「人の恥を掘り返そうとしているお前のほうが最低だろう。じゃあな」

「は! 何を偉そうに」


 普段だったら、呆れ顔でその場を去る俺だったが、この日は違った。頭の中に沸騰した怒りが収まらず、気がつけば思いきり男の肩を掴んでいたんだ。

 ほんの少しだけ、ぶよついた贅肉だらけの肩を握り締める。


「おい。言葉には気をつけろ。誰もが大人しくしていると思うのか。ここで助けを呼んでみるか。一応言っておくが、今の俺に失うものはない」

「ひ! ご、ごめんなさい。もう二度と失礼なことは言いません!」

「ふん……」


 もう少し食い下がるかと思ったが、男は根が小心なのかすぐに謝ってきた。これだけ強めに言えば、人の恥を世間に晒すような真似はしないだろう。そう思っていた。


 ◇


 結論から言えば、俺は全くもって甘すぎたのだ。

 賢者のパーティから追放された次の日、借りていたボロ小屋のような家から出て、冒険者ギルドへ向かっていた。


 街道を進んでいると、奇妙な視線に晒されることが多く、人気が増えるほど違和感が増していく。しかも誰もが、俺をまるで気持ちの悪い虫を見るような目でチラ見していくんだ。


 この顔に何かついているのかな。変だなと思いつつ、通りに面した本屋を通りがかった時、信じられないものが目に入る。


「え。ちょっと待てよ。ちょっと」


 驚きのあまり独り言が漏れてしまった。町民なら誰もが読んでいる有名雑誌の表紙に、俺がモデルとしか思えない剣士がデカデカと載っていたからだ。


 しかも表紙には、『某賢者パーティを追放された剣士レオン、実はチンピラ顔負けの最低冒険者だった』などというタイトルが書かれていやがった。


「まさか! あ、あの野郎」


 憎ったらしい中年男のニヤニヤ顔が脳裏に浮かぶ。書店の店員はすぐに俺が雑誌の人物だと気がつき、あからさまに引きつった笑顔になっている。奴に金が回るのは不愉快ではあったが、とにかくまず雑誌を購入した。


 そして公園近くのベンチで、すぐに内容を確認してみる。最初は二、三ページほどの微々たる内容かと予想していたが、なんと三十ページも俺のことが書き記されている。


 内容はとあるカフェで横暴な剣士が賢者を罵り、我慢の限度を越えた彼は追放をしたという話。まずここから事実とは異なる。しかし、全部が全部違うということではなかった。簡単に言えば、あることないこと書かれているという感じ。


 一ヶ月前のパーティ加入から追放まで、大まかな流れは間違っていない。俺がどんな魔物を討伐して、どういう成果を上げてきたのか、そういった面も合ってはいる。だが、いちいち俺が不快かつ傲慢で、いやらしい人間のように書かれている。これでは印象が大きく変わってしまう。


 なかには魔法専門の冒険者に対しての暴力行為、女性冒険者へのセクハラ、器物破損に魔物ではない動物への虐待行為など、まったく身に覚えのないことがひたすらに書かれていた。


 そして最後の決め手、まあ炎上することになった発言があるのだが、これこそ事実無根もいいところだ。

 俺は紳士に取材を申し込んできた記者に対して、こんなことを抜かしたという。


『お前の如き小町民に、剣士さまである俺の気持ちがわかるものか。戦えもしないうえに貴族でもない。そんな町民風情は、せいぜい安い酒でも飲んで一生を終えればいい。いくらでも湧いてくる魔物から安心して暮らせるのは誰のおかげだ? 俺のおかげなんだよ。金を出せねえなら、とっとと消えろ』


 いつ俺がこんな暴言を吐いたというのか。まるで町民を見下しきっているような、不快感極まる語り口。気がつけば雑誌を持つ手が震えていた。


「あ、あんの野郎ー! ふざけやがって!」


 その後のことはあまり覚えていない。雑誌をビリビリに破いて、怒りを露わに町をひたすら進む。あの記者はどこだと探していたが、結局見つかることはなかった。


 ◇


 怒りでどうにかなりそうだった。でもしばらく歩き回り、多少は気持ちを落ち着けることができた。このままでは奴を殺してしまいそうだった。


 あんな奴のことで捕まるなんてまっぴらごめんだ。だが悔しさはおさまらない。普通は裁判に持っていくところなんだが、ああいうものはとにかく金と時間が掛かってしまうんだ。


 奴は恐らく、俺が金に恵まれていないことを知っていたんじゃないだろうか。だから裁判を起こせまいと、大胆な嘘を書きまくったのかもしれない。


 しかし、奴への苛立ちだけが問題ではなかった。俺をこき下ろしたネタが載った雑誌は、この町みんなの娯楽の一つでもあったわけで。つまり、あっという間に悪名が町中に広まってしまったのだ。本物そっくりの似顔絵までご丁寧に載せてあったから、すぐにみんな俺の顔にピンとくる。


 レオンっていう最低な冒険者がいる。噂好きな町の連中は、どんどんこの話を広げていったようだった。そのせいで、カフェに行けばジロジロと見られることがあったし、レストランなんて来店拒否されるくらいだ。


 武器屋や防具屋、萬屋でも嫌な顔をされるようになる。繁華街を歩けば絡んでくるならず者がいた。幸い腕には自信があったので、ちょっと睨めば逃げていくのだが、これがまた悪循環に繋がる。


 そしてついに、借りていたボロ小屋の主人が、出ていってほしいなんてお願いをしてきた。


「レオンさんに家を貸しているのはなぜだ、許せないっていう苦情の声が多くてね。ごめんな、どうしようもないんだ」


 上品な口髭を蓄えた貸し家の主人は、申し訳なさそうに頭を下げてきた。彼とは付き合いが長かったから、俺がそんなやつではないことは重々分かっている。でも、追い出さなくてはいけないほど大勢の力が働いていたんだろう。


 かくして俺は家無しになり、野宿して暮らす毎日を過ごすことになる。新しい家を借りようにも、トラブルが怖いのか誰も契約を結んでくれない。


 怒りと焦り、あらゆるものが胸に込み上げてきて、気が変になりそうだった。ここまで悪名がついてしまうと、もうどうすることもできないのか。


 しかもだ。俺がこうして寝そべって休んでいる姿も、何かやらかさないかと遠くから観察している記者達がいる。面倒なので注意する気がなくなった。


「違う町へ行こうかな。いや、でもな」


 人里離れた川辺で寝そべりながら打開策をぼんやりと考えてみる。しかし、この町以外で冒険者として生活していける規模となると、海を超えて別の大陸に向かうしかないだろう。この大陸には他にもいくつか町はある。でも、小さな世界だからきっと俺の悪名はそちらでも広がっているはずだ。


 参ったなと心の中で嘆いてしまう。

 剣の腕には自信がある。事実並以上だったのに、運に恵まれず中級以下の冒険者から上がれずにいた。そして歳だけを重ね、いよいよ焦り始めた矢先にこれだ。


「くそ! これじゃ無名なだけの頃のほうが、まだ良かったじゃねえか。今じゃどこに行っても悪目立ちしちまう。こんな悪名……悪目立ち?」


 ふと、頭の中に涼やかな風が吹いた気がした。微かな閃きのようななにか。俺は起き上がり、しきりに頭を働かせる。

 まだ終われないぞ。考えるんだ、考えろ。

 危機的な状況にこそ、普段にはないチャンスがあるのかもしれないんだ。


 しばらく考えこんだ末、ついに思いついた。立ち上がってすぐに行動を起こすべく街道へと向かった。


 気がつけば足は軽やかになり、心は幾分落ち着いている。名案ってほどではないが、きっと悪くはないであろう一手、それをただ実行することしか頭になかった。


 ◇


 冒険者にはそれぞれ細かいランク付けがされている。


 Sランクが最上級で、人によっては王族や貴族よりも力を持っている連中がいる、誰もが羨む夢みたいな領域だ。その次がAランク、Bランク、Cランクと分類分けされていく。元々俺がふらふらしていたのはFランクとGランクだ。


 普通なら二つもランクが違えば、格が違いすぎて相手にもされない。だが、俺はあろうことか、Aランクのパーティが集まる冒険者ギルドに足を運んでいる。


「あ……あなた!? たしか、レオンさんだよね?」


 冒険者ギルドのカフェフロアで、仲間に囲まれていた女勇者が目を白黒させていた。金髪のショートカットと海のように青い瞳をした少女は、ちょっとした混乱状態に陥ったらしい。突然声をかけてきた男が、只今バッシングされまくりの迷惑野郎だったから、当然と言えば当然の反応だ。


「ああ。そうだ。勇者シェリーだな? 唐突過ぎて申し訳ないが、アンタにいい話を持ってきたんだ」

「僕に?」


 女勇者シェリーは、明らかに警戒心を露わにしている。一緒にいる賢者や聖女、武闘家が相手にするなとばかりに目で訴えていた。


「そうさ。いい話っていうのは、とってもシンプルなことだよ。俺をアンタのパーティに入れてくれ。そうすればアンタ達は、多分念願のSランク冒険者に上がれる」


 この時、彼女の周りにいた仲間達から罵声が飛んだ。「ふざけるな」とか「何を突然おかしなことを仰るのですか」とか、険悪な空気に体全体を叩かれているような気分だった。しかし、もうここまできたら俺は引かない。いや、引けない。


「分かるぜ、アンタ達の気持ちは。せっかくAランクとして活動を続けている時に、低ランクで素行が最悪な剣士が仲間になっちまったら大変だと、そう考えてるんだよな。そりゃそうだ! 俺だってそう思う。しかし、実はこの誘いにはちゃんとメリットがある」

「君を仲間にするメリットが、本当に僕らにあるっていうの?」

「あるんだ。俺は最近どこに行っても、雑誌記者連中に付け回される。つまり、俺とパーティを組めばアンタ達も自然と注目される。そこで普段通りの優秀な結果を出して、奴らがそれを雑誌に書けばどうなる?」


 女勇者の宝石みたいな瞳が、わずかに大きくなった気がした。こちらの提案に何かを感じていることは明らかだ。今押していくしかない。


「あんた達のことを、俺は前から知ってる。実力はもう十分、いやトップクラスまで上がってる。でも、もう何年もSランクに昇格することができないでいる。なぜか? Aランクの連中が多すぎるせいで、優秀なあんた達が目立たないからだ。もっとも、Bランクから下も同じような状況だがね。どうやったら現状を打破できる? 一つ有効な選択肢がある。とびっきり目立つ、話題性のある奴をパーティに入れればいい。つまり……今の俺みたいな奴を」


 そこから俺はひたすらに熱弁を振るった。はっきり言って、自分を悪くアピールするのは気分が悪いよ。でも、そんな奴だからこそ、慈悲の目で助けてやったという心証アップに繋げることもできるとまで説明すると、先ほどまで反対しまくっていた武闘家達が静かに唸る。


 どれだけ時間が経過しただろうか。しばらく話しあい、質問が続いた後で、腕を組んで思案していた勇者が決断をした。


「分かった。いいよ、君とパーティを組むことにする。これからよろしくね」


 この一言で俺は人生が変わるのを感じた。短い期間でまた追放されるかもしれないとはいえ、初めてAランクのパーティで活動できることが決まったのだ。入りたくて堪らなかった領域に、この土壇場で加入することができた。


 以降の活動は、結論からいえばある程度は想定通りだった。何処に行っても記者達が俺を付け回し、連日に渡ってあらゆる雑誌に掲載されていく。


 しかし、どんな内容であれ紙面に名前が登場するほど、勇者シェリーのパーティが注目されるようになっていった。批判されることもあったのだが、今までにない状況に彼女達はとにかく喜んだ。


 最初は話題稼ぎにしか使われないかもと危惧していたが、勇者達は一緒にダンジョンに潜ったりしているうちに、俺への評価を改めていくようになる。どんな魔物と戦っても苦戦することはなかったし、彼女達にはない知識で高難易度の依頼を達成することにも貢献できたからだ。


 長い長い下積み生活で、腐らずに継続させていた修練と勉強がついに役立つ時がきた。いつの間にか俺は、記者に追い回されていることも、町のみんなに侮蔑の視線で見られることも気にしなくなる。


 本当にやりたかったことが、今こうして出来ている。ただそれだけで俺は嬉しかった。そして毎日に夢中になっている。


 いつしか雑誌には、シェリー達は勿論のこと、俺のことも擁護する内容が増えてきた。これは想定外だった。風向きが変わってきたことを肌で感じるようになる。


 そういえば、最初の頃険悪だった武闘家や聖女は、わざわざ俺の新居を探すことを手伝ってくれるまでに親しくなっていた。おかげでかなり快適な暮らしをさせてもらっている。


 勇者シェリー達のパーティに加入して一年が経過した時のことだ。もう最低剣士の噂はすっかり消えてしまい、当初のウリもなくなってしまったが、それでもパーティから追放されることはなかった。

 むしろ彼女達は、俺のことを強く信頼してくれるようになり、毎日の仕事が楽しくなってくる。


 さらに数ヶ月ほどして、俺たちはある時国王から招待を受ける。とうとうシェリー達をSランクとして認める授与式を行うとのことだった。みんなの喜びようは半端ではなかった。嬉し涙を浮かべて喜ぶパーティの一員に、俺は確実に入っている。


「やったぁっ! 僕らもとうとうSランクだよ。ありがとうレオン!」

「いや、俺は別に」

「ううん! レオンがいてくれたからだよ。本当に感謝してる!」


 そう言いながら女勇者に抱きつかれ、俺はなんだかむず痒い気持ちになったが、やっぱり嬉しかった。国王や貴族達からも信頼されるようになった勇者パーティは、さらに大きく成り上がっていくことになる。


 いつしか俺の悪名は名声へと変わっていた。誰もがあの時の雑誌に書かれていた内容が嘘だと気がついたようだ。


 そしてある日、衝撃的な事実を知った。たまたま用事が合ったシェリーと二人で町中を歩いていた時のことだ。ふと、大きな書店の前で違和感を覚えた俺は足を止める。


「これは……あいつか!」

「え? どうしたのー。……うわぁ! これって近くのギルドじゃない」


 雑誌にはこんな内容が書かれていた。

 ある冒険者ギルドの近くで、中年の男が刺されて倒れているのが見つかったという。男は間もなく死亡し、現場近くにいた一人の賢者を逮捕した。


 男の名前は雑誌記者のダイ。


 彼は冒険者ギルドの中で賢者と口論していたとのこと。彼はしばしば追放された冒険者にインタビューをして雑誌に挙げる行為を繰り返しており、苦情や騒ぎが絶えなくなっていたらしい。


 そうだったのか。奴はあの後も同じようなことを繰り返していたらしい。きっと、もうそういう方法でしか稼ぐ手段がなくなっていたのかもしれない。考えてみれば、あいつの人生もまた哀れなものだったようだ。


 もう一つ衝撃的だったことがある。

 賢者の似顔絵と実名を見た時、俺を追放したあいつだったことに気がついた。


 自らの腕ではパーティを続けられなくなって解散した彼は、新しい冒険者に取りいったが追放されてしまったらしい。何とも悲しい事件だと思った。


 だがもっと悲しいのは、この事件はすぐに忘れ去られていったことだ。


 俺は昔のことをぼんやりと思い出していた。どうしようもなく鬱憤だらけだった日常。あそこから這い上がってこれた幸運に感謝する。


 それと今の仲間達にも深い感謝を、と考え込んでいたら、シェリーが服の袖をぐいっと引っ張ってくる。


「ねえ! 早く遊びに行こうよ」

「お、おう! ちょっと待ってくれ。引っ張りすぎだ」


 結局のところ、今も俺はシェリーのパーティに在籍し続けている。時折、Sランク冒険者としての活躍が雑誌に載るようになっていた。


 青空の下、俺は今日も仲間達と新たな冒険に向かっている。

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追放された挙句、記者に雑誌であることないこと書き込まれて炎上したけど、ついた悪名を利用して成り上がりました コータ @asadakota

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