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わたしの役目は終わった…そう悲観的になって後悔なんて滲ませたりしましたが元気です。

いや、元気ではなかったです。ですが、幸いなことにまだ呼吸してます。


こちらに向けて放たれた黒い稲妻は到達することなく、厚く硬い壁にぶち当たったような音で弾かれた。

防いだその壁は透明だったが、残滓のように残る黒い稲妻と罅により確かにあったことを証明している。

誰の何の力が働いたか…。そう、世界最強の魔術師さまのお力です。


認めましょう。何せ『魔人』の攻撃をたったの1人で防いだのです。


『魔人』とは伝説の存在。

女神や他の神々が加護を与えた人間(英雄)によって追い込まれ始めた廃神はいしんが、同じように加護を与えて生み出したのが『魔人』

英雄と違うのは、廃神はいしん単一たんいつで生み出された知性のある生命体であり人間ではなく『人型の魔獣』と言うこと。

『魔人』の登場がもう少し早ければ、女神も英雄も勝利は危うかったと歴史書では語られている。


廃神はいしんの封印と共に大地に封じられ、地中深くまで続くダンジョンの最下層周辺でのみ存在が確認されている。

封じられた廃神とのつながりの強い地中不覚でしか存在を保てないのだ。


上位種に『魔神』もいるが…これは伝説中の伝説で、後世の人間が話を盛って作り出した存在と言われている。


廃されたとはいえ神は神。その神が直接作り上げた『魔人』の力は並の兵士や冒険者では歯が立たない存在だ。

唯一対抗できるのは神々の加護を強く受ける者か、それ相応に強いものとされている。


神々の加護…という点ではベイルードは王族なので血筋的にはあり得る。が、この場合はただ単に強いから防げたのだろう。


自身の力を隠したいベイルードにとって運が良かったのは、ヒロインが女神の加護の力を覚醒させた余波で『魔人』が蒸発するように消え去ったことだ。


手を向けた先にわたしたちを確認したヒロインは、最悪の事態を想像し激昂。

放たれた稲妻とベイルードのバリア?盾の術式?が接触した瞬間は、ヒロインから放たれた眩い光で全員がそっちに釘付けだった。


クリスマスだ学期末だ、のお祭りムードを文字通り吹き飛ばした惨劇はとりあえずの幕を迎えた。


避難していた生徒や誘導していた教授、知らせを受けて出動した王国兵団がようやく登場し、救助や治療にあたる傍ら襲撃時に広間にいたもの、その後の出来事を知るものに細かく調査がされている。


ありえない方法で『魔人』の撃退を果たしたヒロインの姿はその場に居た人間、全ての網膜に焼き付いている。

気力体力が尽きたのか、ぐったりとしたながらも彼女は第3王子に支えられコチラに向かってきていた。


『強制力』から解放されたからか、緊張の糸が切れたのか…ベイルードに庇われたまま倒れ込んでいたわたしは、ヒロインと第3王子が途中で兵団長と思しき人に呼び止められ連れていかれたのを最後に意識を手放した。


怖い行きたくない。ずっとそう思って、勝手に動く足に必死に抵抗しようとしてできていなかったけれど…そもそも、抵抗しようと思うこと自体が相当な負担になっていたらしい。


女神さまか、他の神様か知らないけれど。

そんな超常のお方の意思に逆らおうとすることは、そりゃあ、疲れるよね。

英雄でも最強の魔術師でもない、平凡な魔力量のただの貴族令嬢だし。


あぁ、でもこれでお役御免のはずだ。

思いもしなかったイベントではあったけれど、こうして世界の危機は匂わせられた。

第3王子の攻略ルートには入ってて好感度も高い。ヒロインは覚醒を果たしたから、後は攻略対象たちでなんとでもなるだろう。


役目として『死』ぬしかないと思っていたから、生きているって素晴らしい。

後は、ベイルードとに婚約を破棄して貰えば平穏な生活は目の前だ。



疲労感から指1本動かすのもつらくて、意識が薄れていくのを

ベイルードが何か言って引き留めてるようだけど…うるさいですよ。黙って寝かせて欲しい。死ぬほど疲れてるんだから…。

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