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少し遅くなってしまったけれどヒロインの元を訪ねた。


夏休み中もマナー練習を欠かさずしていた成果が出ていた、と今日の授業を振り返りながら褒めていたら

少し聞きにくそうに目線を彷徨さまよわせながら『小耳に挟んだんですけど…リリーシア様、ご婚約されるんですか?』と聞いてきた。


思わず、うなずきそうになったけれど…この子、その情報どこから入手したのかしら??


家族間の口約束でしか固まっていな婚約話を、王族でも公爵家でもないヒロインサラが知ってる理由…。


わたしからは見えないから、うっかり忘れがちだけれど

ヒロインには彼女にしか見えないナビ役のマスコットが付いている。

…憑いている、でも可。


その見えない存在が、実は情報屋よろしく各所を巡ってヒロインサラのために情報集めでもしてる…とか??

でも、そんな活躍や機能はゲーム中にはなかったはずだけど。


ゲーム中でのナビキャラの役目は、各種コマンドの説明や戦闘時のチュートリアル。それと、会話でのツッコミ役だ。


『悠久のうた』の主人公は、あがままに全てを受け入れる反応しかしない『少女マンガ的良い子ちゃん系の無個性主人公』なのに対し、『それはないやろ!?』とプレイヤーの代弁のようなツッコミ的なリアクションは全てナビキャラの役目だった。


それと、もう一つの重要な役割は、2人いる隠しキャラの片方のに関わっている…と言うのは覚えているけれど、機能としてはあくまで戦闘時や育成時の解説まで。


噂話や秘密の情報仕入れてきたよ!的な役目はないはず。

そんな、情報屋みたいな活躍してたら流石にもっと印象に残ったるはずだし。


「あら、どこでそんな噂話を聞いたのかしら?」


と、質問に質問で返す。普通にやると感じ悪くなるけれど、令嬢スマイルのゴリ押しで煙に巻く作戦だ。

想定通りにヒロインサラは『あ、いえ…風の噂で…』と視線を更に彷徨さまよわせる。


風の噂になどなるものか。

あの口約束は、あの日、公爵家別邸で起こった『国王の魔力暴走による王都消滅の危機』の末の出来事だ。

公爵家に仕える人間が、主人たちの話を吹聴したりはしない。

王城の方では、お忍びとはいえ国王がわざわざ公爵家を訪ねた…という辺りで予測を立てる人間もいるだろうし、第3王子の側近ニコラエスが確認に来たくらいだから王族やそれに直属の人間にはバレてはいるだろう。

それは仕方がない。人の口に戸は建てられず、どうやってもジワジワと密やかに広がってしまうものだ。


では、ヒロインサラは?彼女は公爵家に仕える人間ではない。王族でも王城に勤める人間でもない。

発生源に近いわけでもないのに何故知っている??

それは…見えない聞こえない、感知できない存在による情報収集。


モゴモゴと誤魔化すヒロインの目線が、わたしの後方斜め上にしきりに向けられていることから今はそこにいるんだろう。


多分、以前に『よそ見しているとマナーが悪いと相手を不快にさせちゃうよ』と注意したから

ナビキャラをあえて相手の位置に立たせて、喋りかけられても何しても不自然にならない位置に移動するようにしたのだろう。


黙るように言っても、ツッコミって反射でしちゃうからね…それなら誤魔化す方にシフトしたのかな?


いずれにせよ、風の噂をいち早く入手するのは大事だけれど、その是非を体当たりで聞くにしても、段階というかタイミングというものがある。


とりあえずヒロインには『お耳が早いのは素敵だけれどそれに振り回されてはダメよ』と、微笑みながら釘を刺しておく。


情報通は一定までは重宝されるけれど、度が過ぎると煙たがられてしまう。

その匙加減は時々や人によって違うので、見極められる観察眼や空気読みが培われるまで多様は危険だ。

特に、貴族社会では思わぬことが地雷だったりするし変に寛容だったりして難しい。

わたしだって未だに『あ、今間違えた』と思う瞬間もある。公爵令嬢と言う地位とゴリ押し令嬢スマイルで流いるだけだ。


「婚約が決まったら、真っ先にお知らせするわね。お友達ですもの…ぜひ、お祝いして欲しいわ」


注意などやお小言を言った後はしっかりフォローをしておく。


でも、祝って欲しいのは本当だ。

わたし個人としては、ベイルードとの婚約なんてめでたくもなんともないけれど…いいじゃないか、憧れだったんだよ!友達から『結婚おめでとう』って祝ってもらうの!!前世は祝ってばっかりだったし…。辛い、泣きそう。


それにしても、ゲーム時にはなかった機能?動き?をするのも、これが現実世界だからだろうか?

まぁ、そりゃ…人に感知されない存在が味方なら使い道は無限大だよね。


ん?そう考えるとヒロインサラって、意外と強かかもしれない??

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