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お呼び出しの王子さまは、第3王子エヴァン…ではなく、その側近のニコラエスだった。

王子の名を騙っての呼び出しを咎めるべき?でも、側近として王子の為の行動だったら許されるのか?

その判別がつかなかったので、曖昧に笑って挨拶をするに留める。


ちゃんと『王子のお呼びと聞いたのに、やってきたら本人は居らず』と不思議がる令嬢に見えたらしく、

折目正しく謝罪をした側近ニコラエスは、実は一つ確認したいことがありまして…と、珍しく言いにくそうにしている。

一体何事かと首を傾げていたら『本当に第2王子と婚約するのか?』の確認だった。


まだ両家の父親が話を詰めてる段階の『内々で決まった話』だ。あまり吹聴するのはどうかと、答えにくいな〜と、思ってると…

『では、これは第1側室派閥が吹聴しているデマであっているのでしょうか?』と食い気味に聞かれる。


なるほど、第3王子の側近としては『宰相公爵の娘わたし』が第1側室派閥の腰巾着である第2王子ベイルードと結婚するのは、立場的に危機感を覚えるのか…確かに、これは正確な情報を持っていないとヘタな行動は命取りにもなりそうだしね。


さて、何と答えたものか…わたしとしてはヒロインサラに第3王子ルートを進めたい都合上、下手な行動で派閥的に潰れてほしくはない。


とはいえ、貴族の令嬢ムーブをしている関係上、

まだ内々ので決まった段階の婚約話をペラペラ喋って良いものではない、と判断し明言は避けるのが正解になる。


…頭の回転のはやい設定のキャラなら、令嬢スマイルで曖昧に微笑んだとしても色々汲んでくれないかな??


どちらにしろ、何かしらの反応をしない限りは席を立つのも阻まれそうだし。


「そうですね…それは、父である公爵がお決めになることですから」


わたしはそれに従うだけです、と親に従順でお淑やかな深窓の令嬢っぽく微笑んで見せれば、スッと表情が消えて絶望の淵に立ったような絞り出す声で『…そんな』と呟く。


う〜ん、確かに派閥の勢力的には第1側室派閥に公爵令嬢という駒を取られるのは痛手だけど…そんなにか??

目に見える規模や声の大きさ的には押されてるけれど、言うて正妃の子供である以上、血筋の正当性は第3王子がピカイチだ。

今は中立派の貴族も第3王子が立ち上がり声を上げれば味方になってくれる『潜在的第3王子派閥』はとても多いはず。

それを当然に分かってるだろうし…そこまで絶望するような話じゃないと思うけれど??


思わぬ過剰反応に驚いて、反射的に側近の後ろに控えていたダスティンを見る。

軽く息を吐きながら、目の前の彼の肩を叩いて正気に戻してやったが、


『あ…あぁ…申し訳、ありません…少々、取り乱してしまいました』


と、あまり回復していない感じだ。おそらく反射的に定型文で答えてるのだと思う。


『令嬢は…リリーシア様は、それでもよろしいのですか?』と、弱々しく消え入りそうな声で、さらに避けた質問は、またもや返答に困る内容だ。


宜しいも何も、ここ数ヶ月のわたしの周囲で起こった騒動の終着点としては、生きてるだけで平均点。王城入りの拒否を認められてかなりの高得点だ。

決して満点ではないけれど、想像以上に良い点数を収められた、と自負している。


それとは別に、一般的な貴族の令嬢としては…まぁ、親同士が決めるお家重視の政略結婚は数を減らしてはいるが、決して無くなったワケじゃないし。

それこそゲイルバード公爵家のような高位貴族や王族などは、まだまだその数は多い。血の重複を避ける必要と、下手に分散させてもいけないと言う…相反する理由がある以上、致し方ないもでもある。


なので、それこそ筆頭貴族とも言えるゲイルバード公爵家の娘であるわたしが政略結婚の未来を、寝耳に水!はちょっとおかしい。重々承知してるだろう。


恋人がいたり、密かに想いを寄せる相手がいたら不満もあるだろうけれど…悲しいかな、そんな相手はいないのだ。

何せ『深窓の令嬢』の名の下、堂々と屋敷に引きこもりしてたからね。そこまで深くなる人間関係、家族以外に築いてこなかったからね。


何も答えず微笑み続けるわたしから何を読み取ったのか、諦めの濃い顔で『そうですか』と絞り出して、お呼び出しして申し訳ありません、と締められて

この謎の会合は終わった。


ヒロインの寮に向かうのをダスティンに送られながら、周りに人がいないのを確認して『一体、何の御用だったのでしょう?』と問えば、深く深〜くため息を吐かれた。


「ベイルード殿下とご結婚されるアナタには、もう関係のない話です」


うん?あぁ…なるほど、側近ニコラエスは第3王子を『王太子』にするために公爵令嬢の駒リリーシアが欲しかったのか。

でも、安心して欲しい。

公爵令嬢なんて駒が低レアに見えるくらいに、貴重な駒がいずれ手に入るから。


『そうですね』とにっこり笑ったわたしに、ダスティンはまた小さくため息を吐いたのを、わたしは見逃さなかった。


同意してあげたのに、なんて失礼な。そのまま息吐き続けて萎んじゃえ!!

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