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案の定、晩餐は異様な雰囲気の中、行われた。
まさか、王家の馬車に乗っていたのがベイルードだけでなくお忍び中の国王陛下も居るとは誰にとっても想定外だった。
行方をくらましていた国王を、王城中探し回っていた
声の響く玄関ホールで大乱闘寸前まで騒ぎ散らすものだから、全て筒抜。
平素よりやや遅れた晩餐には、ニコニコと人好きのする笑顔の国王といつもの胡散臭いニヤケ面のベイルード、
溺愛する娘に恐ろしい顔は見せられない!と激情を飲み込み、完全なる『無』となって逆に怖い
機嫌よく喋っているのは王族親子のみで、『ああ』『そうだな』しか返さない
和やかとは程遠い晩餐は霞を食べているように空虚なのに、胃の中にはしっかり重みを感じる。その矛盾に胃もたれしそうだ、とこっそり腹を撫でたくなった時、国王が爆弾を豪速球で投げてきた。
『リリーシア公爵令嬢は夏休み中は王城にて花嫁修行の予定でよろしいかな?』
「え…あ、はぁ??」
息子と良い、この父親と良い…爆弾を投げつけてくるのが大変お上手で!!
それとも、こうやって相手の意表をつきその隙に自分のペースに持っていくのが、王族流の交渉術なのだろうか?
この発言にわたしがなんと答えるべきか困り果て、すがる思い出公爵に目線を向ければ、彼は彼で激情を抑えようとカトラリーを握り小刻みに震えていた。
その光景が、まるでもう覆せない決定に憤っているように見えて軽く絶望する。
ベイルードの婚約が内定している上に、残り少ない夏休みを王城で過ごす!?
もしかして、これからは長期休みのたびにそうなるの??
2度と領地には戻れず、そこで暮らす母と弟の顔も滅多に見れなくなるのだろうか…。
『悪役令嬢』の未来に怯え、とにかく良い子でいようと取り繕うように生きてきた。
両親や弟の機嫌を損なわないよう、嫌われないよう生きてきたけれど…決して嫌いだったわけじゃない。
避けたい人物ナンバーワンの男との婚約。しかも、行動制限ががっちり組まれる予感。家族とも離れ離れ…。
目の前が真っ暗になる、とは正しくこのことだろう。
実際には真っ暗と言うか滲んで歪んでいる気がするけれど。
「………嫌です」
国王の質問に答えず固まってしまった令嬢の返事を待つように、誰も動きもなく皿がぶつかる音も、衣ずれの音もなかったダイニング。
絞り出すように、か細く震える声だったけれど、やたらと大きく響いた気がする。
公爵が息を飲むような音が聞こえた気がする。それは、驚愕なのか戦慄なのかは分からないけれど…止められる前に、わたしはわたしの意思を言い切らなければ。
もしかしたら、ここが最後の抵抗の場なのかもしれないから。
「花嫁修行も…そも、婚約も嫌です」
だから、言い切る。言い切ってやった!!
一国の王とその息子である王子を目の前にして言い切った!!
お咎めを受けるかもしれない。
…それによって怒られるかもしれない。
拒絶を
それでも、わたし自身の意見を言い切ることができた!!
両手が恐怖で震えるので、これ以上ナイフもフォークも持っていられなくて手放し、膝の上でぎゅうっとキツく握り来る叱責に耐える。
怖くて皿から上に上げられない。
『…ふむ。しかしだな、リリー…『うるせぇ!!黙れぇっ!!!!』』
何事かを言おうとした国王の言葉を
しかも持っていたカトラリーをテーブルに力一杯叩きつけるので、暴れ出た魔力が重厚なダイニングテーブルにヒビを入れてしまっている。
『約束したはずだマーチ!!リリーシアが嫌がったらご破産だと!!』
射殺しそうな眼光は、とても臣下が国王にするものじゃない。
不敬罪に問われないか、とか…今はお忍びだから大丈夫なのかな?とか色々考えるけれど、心の中を閉めるのは感動だった。
ごめん公爵、娘溺愛すぎてウザ怖いとか思ってて。
今この瞬間の頼もしさは世界一だ。
有り体に言えば、ウチのお父ちゃん最高カッコいいー!!だ。
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