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公爵邸の守りは王城に匹敵する。
誰が言ったかこの噂。本当なのかと半信半疑ではあったけれど,宰相を務め国王の竹馬の友である公爵のお屋敷だから,それくらいの警備はされているのだろう。
前世アラフォーの一般市民は単純にそう思っていた。
ただの一市民には要人警護のなんたるか,何て分かるはずもないから,
そうと噂されているのならそうなんだろうな…と漠然と思っていた。
ならば今わたしのベッドに腰掛けニヤ付いた顔で見下ろしている男はなんなんだろう??
夢に違いないとそのまま流してしまいたい,無視してしまいたい。
薄らぼんやりと開いていた瞼をそのまま閉じ,再び寝てしまおうと…現実逃避をしようとする思惑を見透かしたのか,いつものニヤケ面で閉じられている目を薄く開け『殺すぞ』と囁かれては飛び起きない訳にはいかない。
せめてもの腹いせに,令嬢らしく悲鳴でも上げてやろうと開いた口をがっしり抑えながら,よくもやってくれたな,と凄まれる。
単純に恐怖が競り上がってくるが…はて,何のことだろう??と,心当たりがない謂れのない八つ当たりをされてる気になって困惑しかない。
本当に分からないのが伝わったのか,舌打ちしながら手が離される。
それにしても,ここは公爵令嬢の寝室で,ベッドの天蓋の中のはずだ。
王族ですら御用達の超強力な遮断の魔術式が施されているはずだ。
「なんで…いるの??」
天蓋のカーテンは閉じたまま,広いベッドの大半が開いたスペースでベイルードはそこに寛いだ姿で座っていた。
外套どころか上着も着ていない。襟元は緩く開けられ靴も脱いでいるし,普段は束ねられている紅茶色髪も解かれている。
この男,乙女の寝室に無断で侵入しているだけに飽き足らず,ベッドに色っぽ…だらしない姿で上がり込んだ挙句に,『殺す』と脅して叩き起こしてきたのだ。
「何度,生を巡っていると思っているんです??その都度,魔力は加算され今やこの世界で最強は…私ですよ」
ニ〜ッコリ笑顔を深めて,ドヤ顔かましたかと思ったら断りもなく横になった。
何度も言うが,公爵令嬢の!!貴族の令嬢の!!乙女のベッドに!!無断で寛いでやがる。
しかも何かとんでもない発言したぞ。
死に戻るたびに魔力は加算され,知識や技術は蓄積され…今や世界最強??
まさかのチート枠は腹黒策士な隠しキャラだった??
性格や謎の死に戻りループによる『病み』で危険判定してヒロインには近づかせないと決めたけれど,
もしかしなくてもベイルードルートならノーマルエンドのシナリオでも安心安全・確実に封印できるんじゃない??
ベイルードルートになるということは,必然的にダスティンも関わってくる。
彼も何度かのループを経験しているのだから,当然,知識と技術は持ち越しているだろう。
今更ながらに,彼らを危険視し自分とヒロインに関わらないよう
『死に戻りの件は知らんが,わたしはわたしに下された女神の託宣に従い行動するから放っといて』と言ったのを後悔しそう。
いや,でも性格が…邪魔になったり少しでも死に戻りに関わってそうだと思ったら手が出る危険人物だ。
前言撤回,やっぱりあまり関わらい方向でお願いします。
「貴女は,すぐそうやって自分の世界に閉じこもりますね」
だらしなく寝転がっていたベールーどが,考え込んでしまっていたわたしを見上げながら呟く。
薄いレースのカーテン一枚だが,それを境に外と内を遮断された場所で,ポツリと零された言葉でも嫌に響く。
その響いた言葉で我に帰ったわたしが視線を向けると,いつものニヤケ面はなりを顰め退屈そうな顔をしてため息を吐いたところだった。
面白くなさそうな顔をしていたくせに,いつもの作られたニヤケ面にすぐ戻し,
「おめでとうございます。明日より貴女は第2王子の婚約者ですよ」
コイツ,この間からわたしに対して爆弾しか投げてこない。
とんでもない爆弾魔だ。
「え,嫌」
「はぁぁ???」
反射で出てしまった拒絶の言葉に,まさか端的に拒絶されると思っていなかったベイルードも反射で声を出す。
「仮にも,王子の婚約者に内定だぞ?令嬢としては喜ぶもんだろ」
引き攣るニヤケ面に崩れた口調。ループ中に市井に降ったこともあると言っていたから,その時の癖が抜けていないとも思ったけれど,もしかしたら地かもしれない。
何しろ,ゲーム内容をほとんど覚えていないのだ。
もしかしたら,本性が知られた後のヒロインの前ではこのですます口調ではなくなっていたかもしれない。
「え?嫌」
拒絶が強すぎて令嬢として取り繕うとか抜きにして,首を横にふる。
長年,攻略対象(特に王族)を徹底的に避け続けた結果,脊椎反射で拒絶反応が出るようになってしまったみたいだ。
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