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公爵は,2度にわたる愛娘への襲撃は,第2王子のマッチポンプだと疑っている。


『焦がれた令嬢に良いとこ見せて惚れてもらおう』と言う,微笑ましい(?)理由からだと思ってもいるが

もしかしたら,ついに後継者争いが表面化しそれの引き金として,愛娘が巻き込まれている可能性も考えている。



ベイルードは襲撃犯として疑われることを回避したがっている。


理由はどうあれ,貴族の令嬢を襲撃するよう命じたこと事態が罪だ。

それを回避するために,リリーシアに口裏合わせを頼んで『襲撃犯は別にいる』としたがっている。



わたしはと言えば,ベイルードには放っといて欲しいと思っている。


ヒロインが不在による滅亡とループ…しかも,本来ならリリーシア・ゲイルバードわたしは死亡していると判明した。

『アラフォー日本人ブラック勤務の魂が転生した』のではなく『たまたま今回に限り憑依した』可能性が高まっている以上,

今ループが失敗に終われば,次回ではわたしがいないかもしれない。


そうなるとヒロインの重要性を知る人間が再び現れないことになり,世界滅亡のループが永遠に続く事になる。


回避するためには,ヒロインにはノーマルエンド以上を迎えてもらわないとならないが,そのための行動するたびに,ベイルードやダスティンが不振がって周囲をうろついては横槍を入れられては困るのだ。


詳細な説明ができないから不振な行動に見えて仕方ないとは思うけれど,ひいては,彼らの死に戻りループからの解放という幸福な人生のためにもなる行動なのだから放っておいてほしい。


そんな相手が,婚約者??冗談ではない!!


互いが互いの感情と思惑で親しくしたくないし,馴れ合うつもりもないのに強制的に縁結びをされようとしている今の状況だ。


吐いた嘘と,地位と立場と,生まれと状況による断れない案件。

誰の顔にもハッキリと『嫌だ』と書かれているのに,それを口にはできない薄寒い空気が流れる。


晩餐に引き続き,食後のお茶まで最悪な環境になってしまった…。



「…婚約に関しましては,お父さまにお任せしたいと思っていますので…わたしはここで失礼させていただきますね」


『明日の追試に備えて失礼します』と,学生として当たり前の理由で退席を告げ,後のことは公爵に丸投げする宣言をして一抜けを決めさせてもらう。


だって…本音を言えば全力で拒絶したいけれど,わたしの口から拒否することはできないのだ。


公爵令嬢としては,たとえ発端がストーカー行為の結果であっても自分を助けてくれた王子との縁談には全力で拒否はできない。

たとえ,本心ではそのストーカー行為に生理的嫌悪感を覚えていようとも,余程の理由がない限り,ありがたく受ける話になるのだ。


今回に至っては完全に殺しにかかってきた男との縁組になので,全身全霊で拒絶し,泣きながら嫌だとゴネたいのに…それが許されない状況になってしまっている。


ならば,やることは一つ。

この精神衛生に悪い空気から離れる。少しでも早くこの戦線から離脱する。


表立っては可もなく不可もなく…親に丸投げし,嫌な場合は後から盛大に親にゴネるのが,正しい『令嬢仕草』だ。


こんな死に戻りすぎて病んでる王子の身元引き受けなんて冗談じゃない。

暖かな家庭を得て平穏に人生を全うする,と言う目標の真逆にいるような伴侶は願い下げだ。


何より,何か少しでも『やっぱろコイツがループの原因かも!?』と思われれば,即処分されるだろう。

そんな男と結婚??懐に入る??命がいくつあっても足りないし,ループのお供も冗談じゃない。


娘を溺愛している公爵ならば,問題行動の多い第1王子派との縁組なんて

娘の『NO』がなくとも,何がなんでも断るだろう。


公爵としても,娘と王子との証言の食い違いがない事は(渋々と)確認はできたし,

ストーカー行為してました,とぬけぬけと言う男との同席はこれ以上させてくないのだろう。退席はすんなり認められた。


代わりに何か言いたげだったのがベイルードだが,話の流れ的に『焦がれる令嬢が釣れないし,もっと話したいのにいってしまう名残惜しさ』の演出にしかなっておらず,公爵が全力で引き留めるので追っては来れない。



ダイニングの扉を閉め,続く廊下の角を曲がってやっと深く呼吸ができた。


せっかくの夕ご飯を味気なくさせられた上に,食後のお茶も微妙な話で台無しにされてしまったのだ。


明日は大事な追試の日だと言うのに,コンディションとしては最悪な状態で挑むことになってしまう…。せめて,就寝前のプライベートな時間ぐらいは安らかに過ごそうと,後ろに控えているメイドに風呂の支度を頼む。


ゆっくりお風呂に浸かって,好きな香油でマッサージしてもう寝よう。


勉強の方は早めに起きてやれば十分だ。


追試が終わったら,申し訳ないが連日通っていたヒロインのとこには行かず

その足で公爵家本邸に帰ろう。


そこまではベイルードもダスティンも来やしないだろうし,昼間不在な公爵ちちと違い屋敷内で仕事をしている公爵夫人ははなら,ちゃんとシャットアウトしてくれるはずだ。


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