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令嬢の仮面が剥がれ落ちたアホ面晒している自覚はある。

しかし,これはどうしようもない不可抗力だ!!


何せ,今!!とんでもない爆弾発言を聞いたのだから…。



わたしが了承した口裏合わせの内容は,

『都合よく2度にもわたって救出できた理由は,第2王子はリリーシアに恋慕していたから』だ。


示し合わせた…と,いうより一方的に決められた。が正しいけれど。


好きだからよく見ていて,よく後をつけていて,そばにいて…だから間一髪で助けることができた,ということだ。


うん,ストーカーです。


『自分,お宅のお嬢さんにストーカー行為していたから助けに入ることができたんですよ。よかったですね自分みたいなストーカーがお嬢さんについていて。感謝してください』と言う,どの口スタイルな言い訳。


仮にも王族相手に『嘘つけこの野郎』とも言えないし,実害が出ていな以上は恋心は自由なので『娘に近づくな』とも言えない絶妙な言い訳。

わたしとしては鳥肌ものの理由だし,ベイルード自身も業腹だと言う顔をして考え出した言い訳のはずなのに…


なぁんで,ストーカー行為からの婚約者候補にまで話が進んでらっしゃる???

しかも,国王陛下のお許しがあるとか言ってませんでした???


「お父さま…一体,どう言う事なのかお聞きしてもよろしいかしら??」


戻りきらない令嬢スマイルで口の端が歪んでいるのがわかるが,動揺していることの現れと思って見逃してもらおう。


『ベイルード殿下から聞いていないのか?』と訝しげに聞き返されたが,『わたしをお慕いしているが故に…としか説明を受けておりませんでしたので…』と頬に手を添えて,困惑しきりの表情をしておく。実際本当に困惑してるんだけれどね。


「国王陛下におかれましては,私にもそこまで焦がれる女性が現れたことを,ことのほかお喜びいただき,ならばそのまま婚約してはいかがか,と公爵に打診があったのですよ」


カップを置きながらにこやかに微笑みかけるベイルードは,しかしよくよくみればうっすらと眉間に皺がある。彼にとっても予想外で論外の展開に違いない。


王子としては,焦がれた女性との婚約など願ったり叶ったりだし,

公爵としても,国王からの直々の打診においそれと拒否はできない。



公爵家との縁戚を望む王侯貴族は多く,中でも一番大声で寄越せと手を伸ばしているのが第1王子のオリゲルドだ。

これは,本人の要望もあるが母である第1側室のジャネットさまと派閥の最大勢力であるデルセン伯爵の思惑が大きい。


宰相を務め筆頭貴族とも言える強い家門のゲイルバード公爵家を傘下に加えたいのだ。


そうなると,爵位や家門の強さ的にデルセン伯爵家は淘汰される気がするが

夫に妻が支えるように,妻の家門もそうなるとでも思っているのだろうか…頭がオメデタイことで。


とにかく自派閥に組み込めれば良いのだから,第1側室もデルセン伯爵も相手が1番目の王子でも2番目の王子でも構わないと考え,この『婚約話』に乗り気になっているのだろう。


国王にしても,第2王子あたりは『宰相公爵の娘の伴侶』にはちょど良いのだ。


これ以上,第1側室ジャネットの声を大きくしないように第1王子オリゲルドに嫁ぐでもなく,まだ見定めている途中の正妃との第3王子エヴァンにあてがうのもはばかられ,それ以降の王子では途端に歳の差が開く。

同列の家門に嫁がれるのも,王家と貴族のパワーバランスが崩れるし,弱小貴族に嫁がれても『嫁に欲しい』と騒ぐ第1王子一派の圧力に負けて潰されてしまう。


第2王子ならば,王子としての序列も悪くなくし派閥的にはデルセン伯爵の息もかかっている。

それでいて,いざ結婚すれ婿入りが確定しているので,実質,デルセン一派のそこまでの強化にはならない。


…あ〜,これは王様が一番得する感じのアレだ。


第2王子は焦がれた令嬢と結婚できるし,何かと煩い第1王子第1側室から離すことができる。

ゲイルバード公爵家は王家の血も入り,さらに盤石になるし…第2王子は頭脳明晰と誉れ高い。文官家門の公爵家的には願ったりな婿さまだ。


唯一の貧乏くじは,預かり知らぬところで懸想されストーカー行為をされていた上にその相手と結婚しなければいけないリリーシアわたし


最近の風潮的に,貴族でも恋愛結婚することもあるが王族や公,侯爵くらいはまだ政略結婚の方が多い。

若いうちからの婚約がなくなっただけで,適齢年齢になれば自然と示し合わせて出会わされると覚悟はしているものだ。


むしろ,想い焦がれて付け回すくらい情熱的だし,2度にわたっての命の恩人なんだから憎からず思うようになるよねと言う…乙女心を甘く見た大人の男の思惑が透けて見える。


しかし,どうしたものか…。


一応は平和であり,目に見えての政争も勃発していない最中で起きた公爵令嬢の2度にわたる襲撃とそれを運よく助けた第2王子,と言う状況。

正しくマッチポンプであるこの事件の犯人自らが,疑われたくないためにいた嘘が『令嬢に焦がれる王子』だ。


加害者のくせに被害者にその嘘の裏付けと信憑性アップのために協力しろと言う,徹頭徹尾にツッコミしか入れられない言い逃れが,ここまで発展するなんて聞いていない。


一時的なストーカー被害者としての口裏合わせで済んだはずなのに,何で一生ものの婚約者話にまでなってんの!?


立場的には,公爵家の娘で助けられた側になるわたしは,この話に『ちょっと待って!!』が出来ない。

公爵もベイルードも各々の立場と言い分から拒否ができない。


…あ,詰んだ…コレ。

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