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何と説明すれば公爵を説得できるのか…ずっと考えているが答えの出ないうちに晩餐の時間になってしまった。
公爵の帰宅の知らせがないので,やっぱり今日も忙しいから帰宅が遅いだろうと,淡い期待をしていたが
しっかり時間に間に合うように帰ってきたらしく,ダイニングにて運ばれる料理を待っている間に帰宅が告げらる。
本気でお腹痛くなってきた…。
唐突に吐血でもして食事どころではなくならないか,といよいよ現実逃避し始めた脳に響く,地獄の釜の蓋の開く音のような,扉の開く音がして公爵と…まさかの客人が入室してくる。
『客人だ』とおよそ聞いたこともない不機嫌な声で告げられ(その声にも驚いたが)
紹介された人物は…
「昨夜ぶりですねリリーシア嬢,連日お会いできて光栄です」
晩餐は無言だった。
和やかに,暖かい時間の流れるはずのその場所は
今日はとても重く冷たい空気が充満していて,一口飲み込むのにも重労働だ。
味もわからないし,もう食欲もないから席を立ちたいのにそれを許さない空気が流れている。
食事以外の,呼吸すらも慎重にしないと引き金になりそうな緊張感漂う晩餐だ。
そんな中だと言うのに『さすがゲイルバード公爵家のシェフ,とても美味しいです。王宮の国王陛下のシェフにも引けを取りませんよ』と,呑気に料理の感想を言っているのはベイルードだけ。
彼が喋るたびに空気が重くなり,わたしに話しかけるたびに空気が冷たくなる。
そのくせ公爵自身は決して口を開かない。
不機嫌を態度で出す大人気なさよ…。
全く良い歳した大人が…自分のご機嫌は自分で取りなさいよ。
それを知ってか知らずか,いや,分かってやってると思うがベイルードは公爵に無視されても眉一つ動かさないし,焦りもしない。
そのまま受け流し,わたしに話しかけては
無視するわけにもいかないから,
咀嚼して飲み込むだけの食事は絶対消化不良だ。健康に悪い。
なんとか食後のお茶まで到達し,このまま王子への不快感で流されて追及されないのも助かるよな〜と,地獄の中に利点を見出そうとしていたところで
『さて,詳しい話を聞こうか…リリーシア』
残念,逃げられなかった。
腹を括って,昨日の出来事を話し始める。
当然,ベイルードとは口裏を合わせた内容になっている。
なるべく不自然にならないよう,矛盾点の出ないよう,目撃証言が出た時と食い違わないよう丁寧に,しかし所々は
学園の馬車止めで乗った馬車は,確かに公爵家の馬車だった。
いつもの帰路と違う道に進んだあたりで車内に潜んでいた襲撃者が現れ,襲い掛かられるも,ベイルードが扉をこじ開け現れ乱闘に発展。
その最中に何かあったか分からないが,気を失い…気がついたらベイルードに保護されていた。
穴だらけだが,深窓の令嬢が突然襲撃され,混乱の最中気を失った…だから何もほとんど覚えていないし分からない。は,十二分に通じる言い訳のはずだ。
あとは,なぜか同席しているベイルードの
なぜか何も言わずにニヤケ面でカップを傾けている。
『第2王子殿下に在らせられましては,我が娘の
難しい顔で聞いていた公爵が鋭い眼光のままベイルードに尋ねる。正直,臣下が王族に向ける視線ではない。
ベイルードが鷹揚に頷きながら『私の供述と矛盾はありませんね』と胸を張る。
深く深く息を吐きながら,背もたれにべったりと背中を預けた公爵が『だからと言って容認することはできません』と答える。
意味深な公爵の言葉に,疑問が浮かぶ。
…何か,昨日の辻褄合わせだけではない話が進行している気がする。
そして,それは…今後の人生を左右する重大なことな気がする…。
滅多に発揮されず,発揮されても空振ることの方が多い『勘』だけれど
今回ばかりは本当に嫌な予感がする。
その証拠に,令嬢スマイルを貼り付けたわたしに
ベイルードが意味ありげに微笑みかけてくる…いや,いつものニヤケ面なだけだ。きっとそうだ。そうに違いない。そうであって欲しい。お願いだから!!
『ベイルード殿下とリリーシアの婚約など…いくら国王の許しがあっても認められません』
…な,なんだってー!!??
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