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朝日が登って1日が始まって仕舞えば,公爵ちちは王城勤めの宰相なので

わたしと一緒に朝食をとろうとすれば,その時点で遅刻だ。


勤め人である以上,遅刻なんてしないだろうと予想し,

朝顔を顔に顔を合わさず,夜も公爵の帰宅前に寝てしまえば追求から逃れられると甘く考えすぎていた…。


朝食を摂りにダイニングに入れば,普段のニッコリした娘溺愛の父親顔ではなく

宰相の顔をした公爵が座っていて,死にそうなほどビビった。


当然にすでに公爵は遅刻の時間なので,朝食を共に…ではなかったけれど,入れ違いざまに

『夕飯の時には覚悟しておくように(意訳)』と言われて,今から冷や汗が止まらない。


少しでも不審点があれば,ベイルードは実は娘の襲撃犯人で救出も自分でしている謎のマッチポンプ犯に決定し

その場合は,ベイルード及びその飼い犬であるダスティンによるわたしへの報復(処分)が待っている。


娘LOVEの公爵の権力ならば,たとえ第2王子といえど襲撃された被害者からの証言と

その証言から得た証拠を探し出し有罪からの処断できるだろう…。


ましてや今回は,一般道を走る馬車が襲撃され,そこから落とされそうになっている『第2王子らしき』人物の目撃情報は確実に出るはず。

それが襲撃班だからなのか,救出中の一幕だったのかは被害者であるわたしのてのひらの上だ。


自分の今後の安寧を考えれば,さっさと消えてもらうのが一番なのだが

それをしないのは,ベイルードもダスティンもゲームの攻略キャラだから。


ヒロインが誰を攻略中かわからない以上,もしかしたら…違っていてほしいし,相談されても『止めとけ!!』と言うが…

万が一にも!!彼らが対象になる可能性もあるし,表舞台から消された事による弊害が何もないとも限らない。


ゲームでだったら,モノローグやテキストで語られるだけなら…いなくなったキャラに対する対応は,その後のテキストが無くなるだけで済む。


しかし,ここは生きている世界なのだ。


たった一言『優雅に生活するお嬢さま』のモノローグや人物紹介の裏に,

『優雅な生活』のための資金源,支える人員,取り巻く世界の全てが詰まっている。

『豪華な食事』の裏には,時間と手間をかけて作る料理人,出入りの商人,運搬人,耕作人。そしてそれぞれの家族がいる。


バタフライエフェクトとはよく言ったもので,蝶の羽ばたきのようなわずかな一言が

料理人をクビにし,出入りの商人が変更され,運搬人の仕事が消え,耕作人の一家が路頭に迷い…そんなこともある世界なのだ。


背景を支える人間,モブの1人でもどうなるかわからないのに

メイン攻略キャラのダスティンと隠しキャラのベイルード…消えてしまったら,どう世界が変わるか計り知れない!!



補習の最後の1日で,明日は追試の日だと言うのに今日は1日,気もそぞろな日だった…。

ヒロインの元を訪ねてもどこか上の空で,心配そうな顔をされてしまった。


ヒロインには誰かと会話中に明後日の方を見る癖や,誰もいない場所で独り言を言う癖があり

誰かとの会話中に上の空ばかりは失礼になるよ,と注意したばかりだ。


それなのに,注意した本人のわたしがしているんじゃ示しがつかないよね…。


なんとなくそれが気恥ずかしくて,誤魔化すようにお茶を飲みながら何か話題を変えようと口を吐いたのは『誰か好きな殿方はおりまして??』だ。


相談されるまでは静観しようと思っていたのに,余程気になっているからか無意識に聞いてしまっていた。


『…今は学生ですし,学業が優先ですね』と,当たり障りない返答だった上に,

『リリーシアさまにはそのような想い人がいらっしゃるのですか??』と当然に聞き返されて笑顔が歪んでいるのがわかる。


「いえ,思いつきで聞いただけなので…そんなに気にしないでください」


本当,思いついたままに聞いちゃっただけなので…意味深な質問ではないので

『悩みがあったら言ってください!!言うだけでも楽になりますよ』と本気で心配しないで!!


あ〜居た堪れない…。

あと,この後の公爵ちちの追及が怖いから,帰りたくない。

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