幕間 第2王子 ベイルード

贅沢しか頭にないくせに,権勢欲にも塗れた女の腹から生まれた。

しかも2番目。1番目はたかが先に産まれたと言うだけでいばり散らす男。



趣味の悪い贅沢品にまみれ,権勢欲に駆られ正妃に突っ掛かる女。

こんな女の何が良いのか,国王は定期的に訪ねてくる。

成長し,観察してわかったことは,国王はある意味では効率の良い男だと言うこと。


女に求めるもの全てを,別々の女に役割として求めている。


癒されたい慰められたい,甘やかしたい甘やかされたい。

ちやほや持て囃してほしい,何くれと世話してやりたい。

男として立ててほしい,母親のように接してほしい。

気持ちよくしてほしい,気持ちよくしてやりたい。


矛盾する感情や時どきで女に求めるものを,たった1人の女で賄おうとはせず,

それが得意な女を囲い,気分で通う。

無理に誰かに不得手な行為を求め,違いに冷めていかないように。


平等に愛し平等に利用し自分を満たす。


きっと俺はそんな国王に似た。

そして,兄は母に似た。


頭が悪いくせに乗せられやすく,考えなしに突っ走る大馬鹿野郎。


だからこそ,この2人は使いやすい人間だった。

母には見た目だけで価値のないものを,兄には見た目だけで実権のない玉座を。

そうして得た宰相と言う地位はとても居心地が良かった。


しかし,崩壊はあっという間だった。


各地のダンジョンから一斉に溢れ出た魔物や魔獣が街々を襲い,

他国へ救援を求めるも,どこも同じ状況で自国で手一杯と断られ

たかが平民に被害が出ただけと甘く見ていたせいで初期対応を誤り

魔物の上位種である『魔人』が目撃されたのは,城下が火の海となった日だ。


崩壊する王城で,

俺は,崩れた天井の下敷きになり,痛みと炎の熱で苦しみ抜いて…死んだ。



だから,4〜5歳くらいの自分に戻っていると気がついたときには

やり直しの機会を女神がくれたと思い感謝した。

やはり,俺は支配者としてあるべき人間で,その為に神が力を貸してくれたのだと…


同じように兄を傀儡かいらいにし,再び宰相になってからは

各地のダンジョンへの監視を強めた。

わずかでも増加の傾向が見られれば,即座に冒険者や騎士団を派遣し

魔物や魔獣で溢れかえる現象『スタンピード』を防いだ。


他国がスタンピードによる被害の救援を求めてきたが

無償での救助はぜず,法外な報酬を要求したが,そいつらはそれを飲んだ。


『自国もからくも防いだだけで被害は甚大』

『未だ警戒中の中,手勢を割いての救援は痛手だ』

だから,相応の報酬を,見返りは当然だし双方で納得したはずだ。


それなのに,後になって怨みつらみで連合し侵略してきやがって…。

四方諸国が敵となり,国境線は常に戦火にまみれウィースラーという国は消えた。


その後も,何度も国は滅んだ。

理由はさまざまで,魔物によるスタンピードを解決しきれなかったり

さまざまな理由で隣国が攻めて来た事も何度かあったし,

逆に,野心にかられた兄が侵攻を開始した時もあった。


暗愚あんぐが操りやすいのは誰にとってもなので,

俺以外の甘言で調子に乗った兄が暴走することも度々あった。


政治腐敗に後宮問題。中から腐って崩れ落ちた回数も,数えるのも虚しい。


何度も何度も滅亡し,何度も何度も痛く苦しい思いで死んで戻される。


必死に正解を求めて,地道に条件を探した。

どの状況が一番長く国があったか,生きていられたか。


そうして,ようやく穏やかな晩年に天寿を全うした時でも,戻された。


馬鹿馬鹿しくなって好き放題にした期間もあった。


どうせ戻るなら,やりたいことをやろうと,王になってみたりもした。

悪虐非道の限りを尽くし,国を血で染め,隣国を巻き込み,魔王と呼ばれ…


それに飽きたら敢えて市井にくだってみた。


もう貴族も王族もやり尽くしたから,今度は違うことをしてみる事にした。


子供のうちから出奔すると,死ぬ危険は高まるが

大人になってからの出奔は面倒が多かった。


農民,商人,学者,船乗り,盗賊,情報屋,殺人鬼,音楽家…。

ウィースラーを出て,色々な国にも行ったが,最終的にはやはり死んだ。


死んだ理由はさまざまだが,特に病気や命を狙われた結果でなくとも

スタンピードだったり,国家間の戦争に巻き込まれたり,

住んでいた国の政情悪化に伴う治安悪化で,押し入り強盗に殺されたりもしたし

クーデターとかテロとか,そんなものにも巻き込まれることもあった。


しかし,まさか市井に降りたことで真理を得るとは思わなかった。


平民として平和に生きた人生は,大陸が崩壊したことで幕を閉じた。


どこで家庭を持とうとも,どんな職に就いていようとも…

一定の年齢になり,その時特に戦争戦火の範囲にいなくとも


まるで絨毯を端からめくってがしているように,大陸がまくれ上がり崩れていく。


つまりこの世界は,一定以上まで時間経過をすると自動的に崩壊するのだ。


いつだったか善政により平和に国を収めてみせた宰相時代。

天寿を全うしたあの年齢よりわずかに先に,この崩壊が起こったと気がつき

あの人生での巻き戻りの理由を理解し,俺は王子でいる人生に戻ることにした。


外からウィースラーを見て,全ての始まりがこの国からだ,と気付いたからだ。


初めに事が起こるのは,この国からだった。

最初にスタンピード発生が報告されるのも,

国家間の戦争による滅亡の理由の所在も,大陸の崩壊の起点も…

全てはウィースラーここから始まっている。



馴染んだ街も,親友も,愛した女も,子供も孫も消え去る。

俺だけが記憶して積み重ねて行き,誰も彼も初めましてから…。


もう,死なせてくれ。終わらせてくれ。戻さないでくれ。

俺1人の行いで済むなら,もう良いだろう。

知りもしない誰かが原因なら,なぜそいつを責めない!?


だから殺す。見つけ次第,殺す。

俺が償わされ続けたを,今度こそお前が払う番だ!!

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