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腹の探り合いのような睨み合いは,長かったような一瞬だったような気がする。


「5回だ」


先に折れたのは横のダスティンで,ため息と一緒に謎の数字を口にする。

お行儀悪く舌打ちしながら,ベイルードが目線を外した。


わたしは,一体なのことなのか問うように,今度は視線をダスティンに向ける。


「俺は今回で5回,学園に通っている」


え…実はダブりなの??いや,違う。ダスティンにそんな設定はなかったはず…。


「第2王子殿下にお声がけいただき,伯爵家に縁戚していただけたのも5回目だ」


さっぱり意味がわからない…。


違う,分からなくはない。つまり5回人生を繰り返しているって事??

そんな話をここですると言うことは…ベイルードもそうなのか??


問うように向けた視線を,混乱からの救いを求めている,と受け止めたのか

不機嫌そうなニヤケ面と言う器用な表情のままニヤリと笑いこう言った。


「私は100を超えたあたりから数えるのを辞めました」


ひゃっ!?ひゃ…く???しかも数えるのを辞めただけで,実際はもっと多い??


あまりの数字の大きさにポカンとした間抜け面になっている自覚はあるし

それを見て機嫌良さそうに笑うこの男はとにかく性格が悪い。


「何度繰り返そうとも,必ず国か世界が滅ぶ」


気になっていた本のネタバレをしてやろう,程度の意地悪さで

世界の滅亡をこともな気に告げる。

当たり前の事実,未来,確定事項。だから仕方ない。

そう諦められるほど,この男は繰り返してきたのだ。

諦めているのに戻されるのだ。


「どれだけ国を安泰にしても世界滅亡で終わる」


繰り返す中で模索した。と続ける言葉の重みが痛い。

それだけ,みんな死んだ。それだけみんな繰り返してる。


その記憶が全てあるのはこの男はのみで。


「ある周回中,ダスティンが違う反応をしました。それで気になって観察していたら…」


記憶があるような風な動きをするのを確認し,

しかし,下手に動かれると検証中の事項が頓挫とんざする。

慌てて半信半疑のダスティンを説得し,仲間にすることに成功するが

検証効率が上がっただけで,やっぱりやり直している…と。



過去の4回のループを思い出しているのか,

ダスティンの表情は硬く苦いものを飲み込もうとしている表情だ。

対する隣のベイルードは『無』。

何かを思いしのび,嘆き憤り奮い立つ。

そんな時期はとっくに過ぎてしまったのだろう。


『死に戻り』と言うジャンルの特性は,死んでやり直せることだ。

断罪されたり処刑された悪女が改心したりして『やり直したい』と願い死んだ後,

数ヶ月〜何年か前,あるいは子供時代にまで戻りやり直せたり

実は嵌められていたのを覆して『ざまぁ』したりするものだ。


しかし,それは本人が強く願い求めた結果の一回限りの『死に戻り奇跡

本人の意思も願いもなく,何度も何度も繰り返すものではない。


しかも,どれだけ問題を解決しても,より良い未来にしても

確定で世界自体が滅ぶのだとしたら…何のための行為なのか。


何も知らない人間が『私何度も死んで繰り返してるの』と言われても

『頭大丈夫??』と言いそうだが,死に戻りと言うジャンルを知っているわたしは

うっかり同情的な表情をしてしまった。


この反応に,やはり何か知っていますね…と確信を呟かれたが,後の祭りだ。


「連綿と続けてきた繰り返しの中で,アナタは生きては居ませんでした」


なんと言うことでしょう…。

過去のループの中で『リリーシアわたし』は死んでいたらしい。

そう考えると,もしかして転生してわたしが覚醒したのではなく。

死んだ幼女の肉体にわたしが憑依したのかもしれない。


だからと言って,そんな…

ゲームの設定にない死に戻り現象解決の鍵では決してない。


これは断言できる。そんなミラクルキーマンではない。

おそらくだけれど,彼らの死に戻りは『ヒロインサラ』の不在だ。


ゲーム中でヒロインがラスボスとして封じるのは『古の神・廃神』


神話の時代に,人間の世にしようとした神たちと反目した神々。

激闘の末,加護を与えられた英雄によって封じられ

他の神々は戦争で荒れた大地に同化することで浄化と復興を果たし

唯一,女神のみが『神』として今も見守っている…と言うのがこの世界の神話だ。


その『廃神』の封印がヒロインがいないため,なされることもなく

自由になった『廃神』たちが,この世界の覇権を再び得るために

魔物や魔獣の大量発生や,人心を惑わせ内紛や侵略に向かわせたり

直接的にこの大地を壊したりしたのだろう。


そこに何の誰の力が働いて,第2王子と騎士が死に戻り始めたのかは分からない。

騎士はまぁ…一応,メイン攻略3人のうちの1人ではあるけれど

隠しキャラの第2王子を真っ先に死に戻らせる理由はさっぱりだ。


彼らは,過去のループで死んでいたわたしが今回は生きていて

何かとチョロチョロしている風に見えて怪しんでいる。


わたしは,彼らの事情を聞いて『ヒロイン』の重要性が上がったので

何としても彼女の恋を実らせてもらわなければならなくなった。


言うのは簡単だけど,何と説明したものか…。


死んで戻ってを繰り返している人間に

『ここゲームの世界』『わたしそのプレイヤー』と言って信じるか??


でも,それを説明せずにヒロインが重要人物だとどうやって説明するか…


辛うじて思い出せているゲーム設定とこの世界で生きて培った知識を総動員して

あってもおかしくない程度の物語を即席で作り上げる。


取引先とのお付き合い契約で不備があったのを上司になすり付けられて

謝りに行くときに言い訳必死に考えてた時と同じくらい頭使ってる…。


しかし,ここも命の選択時だ。


選ぶ選択肢を,言葉をミスれば,彼らは今回のループの邪魔者として排除にくる。

せめて要観察対象くらいにまで危険度を下げさせる必要があるのだ。


出来上がった物語を添削する余裕はない。

あとは矛盾がないことを祈りながら,一世一代の大茶番の開始を決める。


どうかうまく行きますように!!

そうすれば,彼らの死に戻りも解消する…はずなのだから

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