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予期せぬ出来事で授業も期末テストもぶっ飛ばしてしまったわたしは

夏休み前半を,追試として追加で授業とテストで潰される事になってしまった。


わたしの他にも追試の生徒はいて,1人きりじゃなくて良かったと安心した。


追試なんて,前世でも受けた事ないのに

品行方正・優等生令嬢を目指している今世で受ける事になるなんて…。

それもこれも,第2王子ベイルードスパイ騎士ダスティンの所為だ!!


ほとんどの追試生徒は自分の受ける授業だけ出るので,

ほぼ一日中学園にいるのは私ぐらいだ。


お昼は持参したお弁当を中庭で食べるが,必ず教授の誰かが声を掛けてくれるし

なんなら,部屋に招待して楽しい話を聞かせてくれたりもするから寂しくはない。


これが,学園内で襲撃された被害者

それも公爵家のお嬢様に対する警護の一環なのはなんとなく察している。


外部からの人間を警戒している教授方には申し訳ないけれど,

まさか『犯人は第2王子とその手先のスパイ騎士ですよ』とは言えない。


その日の授業が終われば,ヒロインを尋ねるようにしている。

最初は驚かれたけれど,毎日通ううちに仲良くなれていると思う。


コツコツ積み重ねる出会いポイントと

仲良くなりたいと起こす行動で,どんどん好感度を稼ぐわたし…


このままでは,転生悪女が断罪逃れのためにヒロインと仲良くなろうと画策し

結果,ヒロインを攻略しちゃって『ワタクシ,何かしてしまいましたかしら??』と

ドヤ顔するハメになってしまう…!!


しかし,2学期になってから少しでも王子たちと関わらせ

好感度を上げさせ,バッドエンドを回避する為には

ヒロインの『女友達』の地位を得る必要がある。


仲良くなった友達なら,恋バナもしやすく

恋を応援すると言って王子や,側近がヒロインと接する機会も作りやすい。


本当は,その2人に近づくのは必然的に『実はスパイ騎士』にも近づくから嫌だけど

世界の滅亡と天秤にかけたら,我慢するしかない。


ただし絶対に騎士との仲は取り持たない。

ちょっと気になってる,なんて言われたら全力で扱き下ろす所存だ。


『アナタの為だから』はアナタの為じゃない,のが定説だけど

これは本当にアナタのため!!


やめときなさいあんな男…本当,やめた方が良いから!!


時々,あの殺気混じりの瞳を思い出しては恐怖で震えるわたしに

周りは心配そうに『大丈夫ですよ』と優しく声を掛けてくれる。


特にヒロインは寮からの帰り途中で襲撃されたと知ってからは

毎回毎回,馬車乗り場まで着いてきて,出発まで見送ってくれる。


申し訳ないと辞退したけれど,純粋に心配してくれてるのが嬉しくて

これも仲良くなった結果のお友達ムーブとして受ける事にした。



今日も,そんな『最近のいつも通り』な1日だった。


午前と午後に追加授業を受けて,

いよいよ週明けの追試でもって夏休みを潰すお勉強は終わると告げられ

教室内が開放感で溢れた空気の中,終了のチャイムが鳴る。


ヒロインを訪ね,今日は畑を手伝だった。

と言っても,土に触れるのはめちゃくちゃに止められて水やりだけ。

その後少し夏休みの宿題をやって,お茶とおしゃべりを楽しんで

帰りは馬車乗り場まで連れ立って歩く。


ヒロインサラの生活はかなり向上し,立ち振る舞いも洗練され

生まれながらの貴族と遜色ない域にまで到達しているし,

期末テストでは好成績だったと聞いている。


このまま夏休み中もステータスを磨き続ければ,

2学期からでも攻略は間に合うかもしれない。


この『悠久の詩ゲーム』にはヒロインのステータスによる補正での好感度上昇はないが

普段から目にしている女性がハイスペックになりがちな,王子とその側近なので

高ステータスなヒロインの方が心象が良い。

あとは,そこからどう印象に残るか,が問題だけど。


最終的には,平民のヒロインでも良い!!と言い切るほど愛してくれれば

物語が進んで『ヒロイン=英雄の生まれ変わり』と判明し,

誰とでも結婚できるようになる。


時期,王妃になるか側近のお嫁さんだから…子爵家の嫁??

スパイ騎士と隠しキャラの第2王子は認めないからそのルートはなしね。


天真爛漫さは相変わらずなヒロインが,

また明日!!と大きく笑いながら見送りに振るう手は元気いっぱいだ。

これがヒロインらしくさでもあるから

このままのヒロインを受け入れてくれるだけ好感度を稼ごうね,と心に刻む。


今の彼女の成績や振る舞いから窺えるステータスなら,

満遍なく高ステータスを求める王子攻略が無難かもしれない。


それに,王子様が相手が一番収まりが良さそうだ。


彼はヒロインと結婚をするからと言う理由で,立太子されるのだ。


正直,一番権力に固執し王太子に立候補しているのは,猪バカと名高い第1王子オリゲルド

第1側室の後ろ盾であるデルセン伯爵家が主体で推しているけれど

裏から牛耳りたい全部自分のものにしたい欲が滲み過ぎてて賛同者は少ない。


国王陛下が王太子について未だ沈黙をしているのを理由に

もしかしたら…今のうちに…と,おこぼれ狙いの木っ端貴族の群れの様な派閥だ。


贅沢好きの第1側室ジャネットと権勢欲丸出しのデルセン伯爵後ろ盾頭の悪い猪オリゲルド太鼓持ちの腰巾着ベイルード


そんな輩どもが国の中枢を握るくらいなら,第3王子を支持するよ。


もっとも,彼も『乙女ゲーム』の攻略対象なので

忘れているだけで,実はあのキラキラ王子の裏側があるんだろうけれど,

ヒロインが彼を攻略し,ハッピーエンドならその辺りも万事解決されるはずだ。


もし,ノーマルエンドだとしても,時間をかけて準備できるのだから

行き当たりばったりで立ち向かうより,仕切り直しになって良い気がする。


こう考えるとまだ大丈夫そうな気配が残ってるね…2学期からは本気だそう。

本当に本気にならんと世界が危ないからね。


第2王子及びスパイ騎士は要警戒対象だけれど,どうせ夏休み中に会うことはない。


あっちも忙しいだろうし,追試を終えたらわたしは郊外の本邸に移る。

残り少なくなってしまったけれど,夏休み中はそっちで母や弟と過ごす予定だ。


休み明けの2学期からも,ヒロインと第3王子及び側近との縁結びに忙しい。

終始,ヒロインか第3王子の周りをチョロチョロするから

仮に,第2王子が何か企んで接近してきても,第3王子が牽制になるし

スパイ騎士も大胆には動けまい。


防御系のアイテムも精神耐性もカバーし,

手動で発動するものもいくつか揃えている。


指折り数える対策に2学期からの計画を思案していれば

あっという間に別邸に到着していたようで,

いつまで経っても降りてこないのを心配してか,扉が叩かれる。


慌てて外に出ると無言で手を差し出された。

無意識にその手を取ってしまったけれど,

ここが公爵家であるならば御者がお嬢様に事を思い出す。


出迎えはいつも執事が行い,扉を開けるのも手を貸すのも彼の役目だ。


それならば…この御者の格好をしてわたしの手を掴んでいるのは…誰!?


咄嗟に身を引こうとするわたしの勢いのまま,馬車に押し込まれ戻される。


扉も開いたまま馬車が走り出したので,誰かが馬に鞭を振るい走らせているのだ。

少なくとも,2人以上での犯行だ。


正体不明の不定の輩と走る馬車と言う密室で,強制的に2人きりにされてしまった。


こんな事をしてまでわたしに要があるのは,思いつくのはあの2人しかいない。


でも,どうして??今は忙しいはずだ。

公爵には内緒で実は,王族のスケジュールを調べてもらっていた。

第2王子も第3王子も連日予定があり,必然,護衛の騎士も暇なんかないはずだ。


ただ,わたしだって修羅場は2回目。

さっきは油断しちゃってたけれど,また何かあるかも??と,心構えはしていた。


本当に本物の令嬢なら,この状況は恐怖で固まるしかできないだろうけれど

こちとら中身アラフォーのブラック体験者!!伊達に心をすり減らしてない!!


大声で怒鳴りつける輩の前でも笑顔保てるぐらいには,メンタル鋼でしたから!!


震えて固まってしまった令嬢と侮り,扉を閉めようと向けられた背中に

わたしは狙いを定め足を振り上げた。


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